どうなる岸田政権…「強気」と「弱気」のワケ 2023年に解散・総選挙はあるか?
2022年の年末。岸田首相には党内の意見に配慮して「弱気」になった面と、自分のこだわりで「強気」に押し切った面とが交錯した。2023年は通常国会、衆議院の補欠選挙、G7サミットなどと政治課題がめじろ押しの中、どう政権運営を行うのかを占う。
■支持率急落の岸田政権
2021年10月に政権が発足して以来、内閣支持率が50%台後半~60%台の高い水準で推移していた岸田政権。しかし、2022年7月8日、安倍元首相が凶弾に倒れた後から状況は一変した。
岸田首相は事件のわずか6日後、安倍氏の「国葬」を行うことを決定。しかし、その直後から、いわゆる統一教会と自民党との問題が指摘されるようになると、「国葬の決定が拙速ではないか」との疑問が噴出。野党などからの激しい追及を受け、求心力の低下につながった。
そして、2022年10月下旬からは、山際経済再生担当相、葉梨法相、寺田総務相の3人の閣僚が相次いで辞任。政権支持率は下降を続け、11月には、危険水域といわれる30%台半ばまで落ち込んだ。岸田政権は安倍氏の事件以降、ふりかかる問題への対応が「後手後手」になり、政権の体力は奪われていった。
■「エンジンを失ったグライダー政権」野党議員
岸田首相の求心力が下がると、党内から厳しい声が上がった。「岸田政権の化けの皮が剥がれてきた」「首相が何を目指しているのか分からないのが、支持率低下の一番の原因。リーダーシップを感じない」
自民党内に加え、野党側も岸田政権の状況に敏感に反応した。「立憲民主党」幹部だった小川淳也議員はこう語っていた。「トップリーダーが何をやりたいか、それが政権にとっての最大のエネルギーであり、エンジン。岸田政権にとって、エンジンは安倍氏で、岸田首相はバランサー。これが安定の根幹だった。しかし、風向きを調整するだけのエンジンを失ったグライダーは、よくて不時着。最悪は、墜落する」
小川議員の発言の趣旨は、岸田首相にとって「防衛力増強」や「憲法改正」で旗を振っていた安倍氏の存在こそが政権の「原動力」で、岸田首相はその「原動力」を失ったことで“迷走”状態に陥ったという分析だ。
■弱気の「検討使」の吹っ切れ
安倍氏が亡くなって2か月がたつ頃。首相周辺は悩んでいた。「(「検討」ばかり発言するとやゆする意味で)『検討使』といわれる一方で、国葬など早く決めたら『時期尚早だ』とか批判される。どっちの方向でも批判される。当初は『聞く力』を前面に出していたが、今は違う」
政権発足当初から「聞く力」をアピールし、調整型のリーダーとみられてきた岸田首相。党内の派閥の顔色をうかがい、「決められない総理」とのイメージからの脱却が課題になっていた。
しかし、「検討」が「決断」にかわったポイントがあった。それは2022年11月下旬。寺田総務相の更迭をめぐる判断を迫られた時期だった。ある自民党幹部は、岸田首相にとって「寺田総務相辞任の時が一番大変だったが、そこを乗り越えて吹っ切れた。麻生副総裁と茂木幹事長が辞任に反対していたが、聞かずに決断できたことで吹っ切れたのでは」と分析した。
■早期決着にこだわった救済新法と“防衛費増税”
さらに、いわゆる統一教会をめぐる救済法案の成立も、岸田首相が強気に導いたと自民党幹部は分析する。救済法案は、岸田首相が「臨時国会中の成立」に舵を切り、閣法としては異例であるが野党の意見を反映させる形で条文を修文し、賛成多数で成立させた。
自民党幹部は、「救済新法は、茂木幹事長が最初やる気がなく、岸田首相がそれじゃダメだと自ら進めた。最後は茂木幹事長もやる気になり、結論が出た」と振り返った。
そして、最も大きく変化がみられたのが、防衛費増額に伴う増税の決定だ。岸田首相が、防衛費増額のうち約1兆円分を増税でまかなう方針を示すと、閣僚の中からも不満の声が上がり、自民党内からも「内閣不信任に値する」との批判が噴出した。しかし、岸田首相は、与党税調にわずか1週間で“防衛費増税”を含む税制改正大綱をまとめさせた。
これについて、自民党幹部は「寺田総務相の更迭、救済法案で自信をつけた。だから、防衛費も強気でいけた。前の岸田首相じゃできなかった」と振り返った。
岸田首相自身も周辺に「“統一教会”だって、防衛だって、やらなくても叩かれるし、やっても叩かれる。どうせ叩かれるなら、やるっきゃない」と、反対を押し切って決断した胸中を語った。
■2023年 解散・総選挙あるか?
2023年、岸田首相にとって「最大の判断」は衆議院の解散・総選挙に踏み切るかどうかだ。
2024年9月には自民党の総裁選挙、2025年には参議院選挙が控えている。2023年の解散を逃すと「追い込まれて、解散をうてなくなるリスクも出てくる」との指摘もある。
ある自民党幹部は、岸田首相が“防衛費増税”をスピード決着させた理由について、この政治スケジュールが関係していると指摘し、次のように解説する。「2023年の衆院選を視野に入れる中で、増税なんてできないのだから、このタイミングしかなかった。これで5月の広島サミット以降、11月までは解散ができるフリーハンドを握れた」
2023年5月には、岸田首相が地元開催にこだわった「G7広島サミット」が控えている。最大のアピールの舞台で、支持率が浮上すれば、解散をうつ可能性も出てくる。
しかし2023年は、いわゆる統一教会への解散命令請求の判断に加え、通常国会の審議、4月の統一地方選挙と衆院補欠選挙などが控え、課題は山積だ。低迷している支持率を回復できるかは不透明だ。
■政権浮揚はなるか?
2023年は“安倍氏なき新時代”。岸田首相は「聞く力」で「国民の声」に耳を傾け、「決断する力」を効果的に発揮できるのか。自ら「政権のエンジン」となって政権を浮揚できるかが問われる1年となる。