【独自解説】岸田首相は「大きな勝負に出た」…父も創設者メンバー「宏池会(岸田派)」解散は“賭け”?他派閥トップらには相談せず、支持率アップ狙うも…自民党にうごめく思惑
1月18日、岸田文雄首相が「岸田派」を解散する意向を表明したことで、自民党内に衝撃が走りました。決断の背景は?また、安倍派・二階派・岸田派の会計責任者が刑事処分を受けましたが、安倍派の幹部7人は立件を見送られるなど、波紋が広がっています。今後のシナリオは?政治評論家・田﨑史郎氏の解説です。
岸田派解散「他派閥には相談せず」…衝撃発言の背景と、岸田派幹部の当日の“動き”
Q.田﨑さんは、解散の動きをご存じでしたか?
(政治評論家・田﨑史郎氏)
「僕は知らなかったです。岸田さんは18日午後7時22分ぐらいから会見されたのですが、実はその30分前ぐらいに時事通信が『岸田首相が派閥を解消して、派閥事務所を廃止する方針を固めた』という速報を出しました。そこから大騒ぎになって、記者が岸田さんに聞いて、岸田さんが話されたというのが経緯です」
Q.他派閥のトップには、一言も相談しなかったのでしょうか?
(田﨑氏)
「そうです。麻生さんにも茂木さんにも全く相談せずに、今回の発言をされました。麻生さんたちは岸田さんのぶら下がり会見で初めて事実を知って、それから麻生さんは岸田さんに電話して、『あれは何だ?』といった問い詰め方をされています」
Q.なぜ相談しなかったのでしょうか?
(田﨑氏)
「2023年12月中旬、岸田さんが派閥のパーティーを中止して自分の派閥を離脱しようとしたとき、麻生さんや茂木さんが反対しました。ですから、『事前に相談すると、止められるだろう』ということと、そもそも『宏池会(岸田派)を解散するというのは、岸田派の問題なのだ』という考えです。岸田派で立件の動きが出てきたので、ここで何か態度を示さなければ、自分の言うことが党内でも国民にも信用されなくなる恐れがあるため、派閥を解散するしかないという決断を固められました。実は、18日午前10時ごろから、約10人の岸田派幹部が次々に官邸の総理執務室を訪れ、誰にもわからないように裏口から入って協議し、そこで岸田さんは『派閥を解消したい』と言われて、幹部らは『わかりました』となりました」
Q.宏池会(岸田派)は派閥の中でも一番歴史があり、岸田首相のお父さんも創設者メンバーなので、相当思い入れがあるはずの岸田さんが「解散します」と言ったのは、自民党の人たちにとっては寝耳に水だったのではないですか?
(田﨑氏)
「自民党の多くの人にとって、寝耳に水でした。岸田派の幹部の方は内々知っていましたが、それでも当日のことです。僕は、岸田さんの政治家としての本質は『現実主義者』だと思っています。『派閥を維持することが国民の理解を得られない』と、ならば『なくそう』という判断です」
岸田派解散を受け、他派閥はどうなる?安倍派の若手からは「解散すべき」の声
安倍派・幹部7人と二階派・二階元幹事長の立件は見送られましたが、二階派の会計責任者は在宅起訴、二階氏の秘書は略式起訴されました。
Q.これは「法律を変えないと政治家本人まで辿り着けない」という東京地検特捜部のアピールだとも考えられますが、いかがでしょうか?
(田﨑氏)
「そういう面もあります。かねてから、政治資金報告書の作成義務は会計責任者になっていて、全て会計責任者に押し付けることができるような法律になっています。代表者のほうは、会計責任者の『選任及び監督』について相当な怠慢があったときは責任を問われるという文言になっているので、選任と監督の両方で過ちがなければ、代表者は責められません。それを、『選任または監督』と法改正すれば、もっと代表者の責任を問いやすくなるだろうと思います」
Q.安倍派の中堅・若手たちの動きは、どうでしょうか?
(田﨑氏)
「中堅・若手の間では、『派閥を解散してほしい』という声が強いです。18日も若手議員20~30人が集まって会議をしていましたが、そこでの合意事項は『派閥解散』でした。一方で幹部の中には、まだ総理総裁になろうとしている人がいて、その人たちには『執行部の交代で乗り気って、派閥自体は今の100人近い規模を維持したい』という思惑があるのですが、そうなった場合は、少なくとも衆議院議員の中堅・若手は派閥を抜ける人が増えていくと思います」
Q.宮沢衆院議員が「自分は安倍派に残って介錯します」などと言っていましたが、どういう意味だったのでしょうか?
(田崎氏)
「私は、宮沢博行衆院議員や若林健太衆院議員の二人は、テレビカメラに向かって喋っていると思います。というのも、テレビカメラの後ろには彼らの支持者がいるわけですから、その人たちに向かって『私は悪くない』『私は私なりに戦っている』ということを示そうとしているのではないかと思います。ただ、テレビの前で喋らない人の中にも『派閥を解消してほしい』という声が強まっていますので、深刻です」
Q.一方、二階派は解散すると思いますか?
(田﨑氏)
「解散する可能性はもちろんありますが、会長には二階俊博さんという非常にグリップの強い方がいて、安倍派のように会長がいない状態ではないので、いろいろ皆さんで話し合うのではないかと思います」
麻生氏・茂木氏の怒りが全て岸田首相に…それでも“解散決断”は「大きな賭け」か
Q.岸田派の不記載は約3000万円、一方で安倍派が約6億7000万円、二階派が約2億6000万円ですが、“3000万円の岸田派”が解散するとなれば、金額の桁が違う他の2派閥は「当然、解散ですよね」という雰囲気になりますよね?
(田崎氏)
「その通りです。ただ、派閥の親分がなぜ派閥を維持するかというと、自民党内での権力闘争において、一定の基盤になるからです。麻生さんや茂木さんは派閥を維持したいという考え方が強く、そこはせめぎ合いになるだろうと思います。今は、その怒りが岸田さんに向かっているような状況です」
Q.麻生さんらがすごく怒るのをわかっていて「岸田派解散」を決断したのは、岸田首相が“勝負に出た”ということですか?
(田﨑氏)
「大きな賭けに出たのだと思います。秋の自民党総裁選で、麻生派・茂木派の両派が岸田さんを再選させる可能性はだんだん低くなっています。でも、ここで勝負に出て、内閣支持率をアップさせることができれば、またそこで浮遊力が生まれるので、さぁ、どっちだ?と今、岸田さんは勝負を賭けているところです」
Q.自分がまず派閥を解消すると言って、他派閥も解消せざるを得ないという状況を作ったことによって、支持率が上がってくるかこないか、これが総裁選に関わってくるということですか?
(田﨑氏)
「そうです。そんな簡単に支持率が上がるかなとは思いますが…。岸田さんは、今までは麻生さんや茂木さんに支えられて、いわゆる“三頭政治”ということで政権運営してきました。しかし、『派閥主体では国民の理解を得られない』となって、“国民の支持を期待する政局運営”に変えたわけです。岸田さんは、こういうことに慣れていないですから、果たして上手くやれるかなと思いますが」
Q.もし今派閥を解消しても、勉強会ができ、グループができ、自然発生的に派閥的なものができていくのではないかと思いますが、いかがですか?
(田﨑氏)
「熱さが喉元を過ぎれば、また集まるんじゃないかとみる人もいます。しかし、年内に衆議院解散総選挙が行われるかもしれませんし、2025年7月には参院選挙があるというふうな政治日程の中で、また派閥を作りますというのは非常にやりづらいと思います」
Q.派閥がこれからどうなっていくかというのも焦点だと思いますが、忘れてはならないのは「政治資金規正法をどのように改正して、連座制までどこまで取り組んでいくのか」、また「お金の流れの透明化」ですよね。そこまでやらないと支持率は上がってこないと思うのですが、いかがですか?
(田﨑氏)
「政治資金規正法の透明化については、1円からの領収書保管は行うようになっていて、要求すれば公開しなければならないという規定になっています。しかし、例えばパーティー券の購入者は20万円以下であれば公開されませんので、公開基準を下げるなど、政治資金の規正はもっと透明化を進めなければいけません。また、罰則強化をして、国会議員である政治団体の代表者が罪に問われるような法改正をしなければいけません。今後、恐らく自民党も、野党からも強く要望して、やってくれると思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年1月19日放送)