コロナ禍の新成人へ「二十歳のワイン」と夢
新潟の海沿いのワイナリーに、海外留学ができず、働く青年がいます。20歳を前に、オーナーが「若者の発想でワインをつくってみないか」と声をかけ誕生したのが「二十歳のワイン」です。新成人へ。夢や希望がみえにくい時代を生きるヒントがありました。
■風土をいかした“日本ワイン”
新潟ワインコースト。“日本ワイン”の産地のひとつとして知られる場所に、本多孝さん(54)のワイナリー「フェルミエ」があります。家族経営の農園ワイナリーで栽培されるのは、スペイン北西部の大西洋沿いで生産される「アルバリーニョ」という白ブドウ品種。香りが高いことで知られ、酸やミネラルが豊富で魚介類との相性が良いとされます。
このアルバリーニョが、海の砂のような新潟の土壌にマッチし、エレガントな香りと余韻が「日本のワインの概念を変えた」とワイン通をうならせます。
■留学足止めから「二十歳のワイン」製造へ
そのフェルミエで去年、発売されたのが「二十歳のワイン」。つくったのは当時19歳の村松輝也さんです。新型コロナウイルスで夢見ていた海外留学・渡航を一度断念し、働かせてほしいと飛び込みました。
不安を抱える20歳目前の村松さんに、本多さんはワインづくりを提案します。新成人が夢や希望に向かうことを誓う門出のワインを「若者らしい自由な発想でつくってみないか」と。
そして誕生した「二十歳のワイン」。あえて難しい「野生酵母発酵・亜硫酸無添加」で醸造しました。理由を聞くと―。「成人するとは社会人として自立すること。まず自分自身の実力を磨かなければならない。だから人工酵母や亜硫酸の力を借りず、ブドウ本来の力だけで発酵させることで、若者が社会で自立して力をつけていく姿を表現したかった」と言います。
■伝えたい「明日への希望」
あれから1年、村松さんは21歳に。しかし新型コロナで海外留学が足止めされる状況は変わりません。
そして新たにつくったのは「A demain(ア ドゥマン)」と題したワイン。フランス語で「また明日ね!」という意味です。そこには「今日も1日お疲れさま。また明日もがんばろうね!」というメッセージが込められ、ボトルには、身近な「明日への希望」をイメージした夕焼けの中を歩く人たちの姿が描かれています。「二十歳のワイン」より「ずっとよくできた」、けど反省もあるそう。
2022年、「明日への希望」は?と聞くと―。「明日もやるべきことをしっかりやるだけ」とのこと。そして。コロナ禍の2年を振り返り「新潟にとどまって良かった」と話します。「前向きに考えて飛び込み、出会いがあった」「無償で助けてくれる人とか本気で怒ってくれる人がいて。この2年間は思っていたよりも孤独ではなかった」と話します。
背景には「若造でも、ワインの知識がなくても、意見を聞いて認めてくれた」本多さん夫妻の存在がありました。村松さんにとって“理想的な大人”だと話します。
■大手金融から“脱サラ”
実は、オーナーの本多孝さんは38歳で前職を退職。旧・日本興業銀行に入行後、大手金融証券でM&Aの仕事をしていましたが、地元・新潟市で好きだったワインをつくることを決意し、39歳で創業しました。
■コロナ禍でも磨き積み重ねる
挑戦したからこそ分かる若者の思い。夢を追いかけたいけれど自由に動けない時代に、こう記しています。
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例年であれば新成人は夢と希望に満ちた想いで成人の日を迎えるが、今年の新成人にとっては社会も自分の将来も不透明で不安な状況だろう。それでも彼らは、彼が言っていたように自らの力を信じて自分を磨き将来に備えるしかない。ポストコロナの世界では、社会のあり方も変容することだろう。これまでの価値観は崩壊するかもしれない。「二十歳のワイン」の取り組みのように、彼ら世代の柔軟な個性や創造性が社会を変革しよりよい未来をもたらしてくれることに期待したい。
~本多さん2021年のnoteより
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■コロナ禍の新成人へ~夢へのヒント
新しいワインについて本多さんは―。「コロナ禍でも、日常を1日1日頑張って積み上げていく“地に足がついてる”感があり、少し成長したなと思います笑」とコメント。
コロナ禍の新成人へ。困難な時代をどう生きるか。ひとりで抱え込まず、さまざまな年代や境遇の人と人との間に、夢へのヒントがあるのかもしれません。