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30倍に育った“海の森”が急減 再生をあきらめない高校生たちの挑戦 【バンキシャ!】

2023年5月29日 10:44
30倍に育った“海の森”が急減 再生をあきらめない高校生たちの挑戦 【バンキシャ!】

海の植物・アマモが、海中の二酸化炭素を吸収し、地球温暖化を食い止める「ブルーカーボン」として、いま注目されている。しかし、沿岸部の開発などでその量は減少。そんな中、「海の森」の復活に高校生たちが挑戦している。キャスターの桝太一がベタバリ取材!

      ◇

桝が向かったのは、熊本県の南部、芦北町の海。ウエットスーツを着替え、空気ボンベを背負って海に潜る。


「すごい! アマモだらけ! びっくり!」

海中で目にしたのは、海の植物「アマモ」だ。太陽の光が届く浅い砂地に生えるアマモは、小さな魚の隠れ家や産卵場所になっている。「海のゆりかご」と呼ばれるゆえんだ。

さらにこのアマモは、海中の二酸化炭素を吸収して地球温暖化を食い止める「ブルーカーボン」としても、いま注目されている。しかし、沿岸部の開発や海水温の上昇などによって、その量は各地で減少しているという。

そんな中、アマモの再生に取り組む高校生たちがいる。 豊かな海を育むアマモ復活の現場を、桝がベタバリ取材した。

      ◇

桝は、熊本県立芦北高校を訪ねた。迎えてくれたのは、一川彩華さん(3年)、池田健真さん(3年)、石山隼さん(3年)の3人の生徒。彼らがアマモの再生に取り組む「アマモ班」の生徒たちだ。

石山隼さん
「ここが研究室です」


「水槽だらけ。みんな作業していますね」

桝は、3人に案内されアマモの研究室に入った。課題研究の授業で「アマモの再生」を選んだのが、アマモ班。メンバーはおよそ10人だ。


「実際に活動してみてどうですか?」

一川彩華さん
「アマモが、かわいいです」


「かわいい?」

一川彩華さん
「光合成で泡がプクプク浮いてくる。かわいいです」


「そこが、かわいい感じ?」

一川彩華さん
「これです! これです!」


「ほんとだ。小さい泡がプクプク」

この泡こそ、二酸化炭素を吸ったアマモが吐き出した酸素だ。


「でもわかるな、プクプクが好きっていうのは。水族館のアマモを見るとき、プクプク見るよね?」

一川彩華さん
「はい」

バンキシャ!スタッフ
「普通は見ないですよ」


「見ないですか? 見るよね」

生徒たちはみな、笑ってうなずいた。

生徒たちが実際にアマモを育てているのは、地元の海だ。


「うわぁ~! キレイ!」

800メートルの防波堤で区切られた計石湾。アマモが生い茂る海を復活させようと、芦北高校では20年以上前から活動を続けてきたという。 見渡す限りの青い海。その中に一本まっすぐに延びる防波堤に立って、桝は生徒たちに聞いた。


「実際に、どんな作業でアマモを増やす?」

一川彩華さん
「(防波堤の)内側に残っていたアマモから外側に種子を散布するようなかたちで、外側も増やしました」

上空から撮影した写真には、防波堤の内外の浅瀬に生い茂るアマモの広がりが記録されている。防波堤の内側に残っていたアマモから種を取り、外側にまくことで、アマモを増やしてきたという。


「どのくらい増えたの?」

一川彩華さん
「30倍です!」

一川さんは誇らし気に答えた。2003年には0.25ヘクタールだったアマモの広がりが、2020年には7.5ヘクタールにまで拡大したという。サッカー場10個分ほどの面積だ。

ところが、今年はその面積が急激に減少してしまった。去年の夏の猛暑で海水温が上がった結果、暑さに弱いアマモが枯れてしまった可能性があるという。 そこで、生徒たちは考えた。

池田健真さん
「今年は、ここにある種が少なくなったので、あっちの方の、ほかの海から採ってきます」

アマモが生えている近くの海から種を持ってくる「種の移送作戦」だ。採りに行くのは、計石湾からおよそ3キロ離れた海。桝も一緒にヒザの上まで海に入り、作業をさせてもらった。


「もうアマモだらけだ! 本当にすごいな。生き物の予感がしますね」

作業できるのは干潮で海水がひいている間だけだ。時間との闘いなのだが、スネまでが泥に埋まり、生い茂ったアマモが足に絡みつく。そんな中で、作業は常に中腰だ。これにはさすがの高校生もつらいと見える。

男子生徒
「(ため息)腰が痛い…」


「えーと、この中から花枝(種)を探す。どうやって探すんだ?」

一川彩華さん
「これ、そうじゃないですか?」


「ほんとだ! これだね。種が入ってますよ」

桝は、生徒たちと一緒に、種をつけたアマモを根っこから採取していった。20本ずつ麻ヒモで束ねていく黙々とした作業が続く。そんな中、1人の生徒が声を上げた。

池田健真さん
「あっ、卵だ」

大きなぶどうの実ほどの大きさの立派な卵が、いくつかかたまってアマモにくっついている。桝も興奮気味に卵を見た。


「卵だよ。なんかの。あ! イカか?」

バンキシャ!スタッフ
「イカの卵って、こんな感じなんですか?」


「イカによって全然違うんですけど、このまとまり方はそうかもしれない」

すると──。


「イカいる! イカ! ほらほら!」

生徒の一人が網ですくった。

生徒
「かわいい」


「これミミイカだ! やっぱりアマモ場はすごい! アマモがあるから、生き物もいる」

そのとき、別の生徒がまた声を上げた。

生徒
「タイラギいた!」


「あ、タイラギ! どこで発見したの?」

生徒
「そこです」

手のひらの2倍はあろうかという大きな貝だ。


「すごいね、ここ。なんて豊かな海なの。貝柱が『平貝』という名前で高級なすしネタになっている、そのタイラギの仲間です」

アマモは二酸化炭素を吸収し酸素に変えるが、能力はそれだけではない。もう一つの大切な能力が「炭素の固定化」だ。アマモはまず二酸化炭素を吸収し、酸素と炭素に変える。そして酸素を放出し、体には炭素が残されるが、枯れた後は炭素を蓄えたまま海底に堆積していく。つまり、土の中に炭素を閉じ込め「固定化」してくれるのだ。

地元の海を守るためにアマモの再生に取り組む生徒たち。しかし、学校で学んでいるのは“意外な分野”だった。実は、「アマモ班」は全員が林業科の生徒なのだ。なぜ、海で活動しているのか?

石山隼さん
「森から海を見つめ、海から森を見つめるテーマでやっている。森と海はつながっている。森が汚染されたら、川の流れや海の流れで海も変わってしまう。そこを変えていけば、森も海も豊かになるんじゃないかなと思って」

そして、種の移送作戦は作業開始からおよそ1時間──。

一川彩華さん
「できました!」


「できました!」

アマモの採取が終了した。種をまく方法は、独自に考案した意外な方法だった。使うのは長いロープだ。


「たくさん種を集めたけども、これをどうするんですか?」

石山隼さん
「アマモをロープに巻き付ける。まず1個(1束)巻き付けたら、両手の長さの1ひろ分あけて、もう1個結ぶ」

20本を1束にしたアマモを約2メートル間隔で長いロープに結びつけていくのだ。


「種をまくと言ってたけど、種をとってパラパラまくわけじゃない?」

一川彩華さん
「熟して種が落ちていきます」


「種が勝手に熟して落ちていく。うまい方法! これ、誰が考えたの?」

一川彩華さん
「先輩方です」

そして、このアマモを結びつけたロープを海中に設置する。アマモは光合成でエネルギーを作れるため、すぐに枯れることはないという。

そしていよいよ、種を持ってアマモが減ってしまった海へ。まずは、杭(くい)を浅瀬に打ち込む。


「これ、どのくらい深く打てばいい?」

石山隼さん
「腰ぐらいまで」


「『鉄腕DASH』なら、城島さんがやってくれるやつだなぁ」

続いて、ロープの先端を杭に結びつけ、アマモの付いたロープを、歩いて海中に延ばしていく。


「テレビで伝わらないのが悔しいぐらい…しんどいな。埋まる、足が埋まる…」

このアマモから成熟した種が海の土壌へと落ちていく。1束で種の数はおよそ2000粒。今年1回目となる今回だけで、11万粒以上の種が海にまかれることになる。

石山隼さん
「アマモを植えるにしても足はぬめるし、キツイし。そういう労力もかかるけど、この活動をもっと広げていけば、二酸化炭素の削減にもつながるのかなと思うし。全国に広げていけば、どうにか変わるんじゃないかなと思います」


「余計な二酸化炭素を出すのやめよう…って、きれいごとじゃなくてリアルに思うよね、これやると」

一川彩華さん
「出すのは簡単なのに、人間にはできないですよね、炭素を固定して酸素を出す。ありがたい」


「ありがたい、確かに!」

そう言って一同は笑った。

(5月28日放送『真相報道バンキシャ!』より)