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【どうなる年金】将来の年金守るため、今の年金増加率抑える制度とは?

2023年11月21日 16:40
【どうなる年金】将来の年金守るため、今の年金増加率抑える制度とは?

少子高齢化が進む中、年金制度を将来にわたって維持するため、物価や賃金の伸びよりも、年金の伸びを抑える仕組みを今後どうしていくか、厚生労働省の部会で専門家らが議論しています。

年金額は、年度ごとに、前の年の物価や賃金に連動して決められていて、物価や賃金が下がれば年金額も下がり、物価や賃金が上がれば、年金額も増えます。

しかし、年金額を増やすにしても、物価や賃金の増加率通りではなく、増加率を少し抑える仕組みがあり、「マクロ経済スライド」と呼ばれています。これは、少子化が進み、保険料を納める若い世代が少なくなる中、非常に大勢の高齢者に年金の支給を続けるために作られた仕組みです。

もし、物価や賃金に合わせて、次々に高齢者の年金を引き上げるとなると、それを支えるために、若い世代が納める保険料が上がり続けてしまいます。そうならないように、会社員が納める保険料は給与の18.3%(本人と企業が9.15%ずつ)と上限が決められています(自営業や無職、学生などが納める保険料は今年度は毎月1万6520円)。

つまり、保険料として年金財政に入ってくるお金は、現在の現役世代の数と保険料率の固定で、ほぼ決まっているわけですから、その中でやりくりして、未来の年金のためにも必要なお金を残しながら、今の高齢者にどれだけの年金を支給できるか調整するのが、先ほど説明した「マクロ経済スライド」です。

平均余命の伸びで年金を受け取る高齢者の数を予測するほか、保険料を納める世代の人数を計算し、物価・賃金の上昇があった場合に、その上昇率よりもどれだけ抑制するかを決めていきます。(注:過去には、賃金が下落しても物価が維持されたため、年金額が減らされていない年度も。また、物価や賃金の上昇率が小さい場合は、抑制せず、その増加率のまま年金額を増やすことになっています)

このように年金の増加率を抑える「調整」は、期間を限定して行われることになっていて、2019年に厚労省が発表した試算では、会社員やその配偶者が加入する厚生年金の場合、賃金に連動して決まる「報酬比例部分」の年金額には2025年度まで調整が入ると見込まれていました。

一方、厚生年金のうち、賃金に比例しない「基礎年金」の額は、自営業や無職の人などが加入する「国民年金」の額と同じですが、これら「国民年金」「基礎年金」については、2046年度まで調整が入るという見込みが示されていました。

つまり、国民年金だけを受け取る高齢者にとっては、年金額の増加が物価上昇に見合わず、苦しい状況がより長く続くわけで、これはどうにかしなければという問題意識のもと、今後、年金部会で制度をどう変えるかを議論します。

この制度が作られた時には、年金額の増加率を抑える「調整」は、実は2023年で終わる見込みでした。しかし、実際には約20年間、物価や賃金が大きく上昇することがなかったため、この仕組みはなかなか発動せず、年金額増加率の抑制はされていませんでした。そうなると、「調整」によって捻出されるはずだったお金がまだ捻出できておらず、年金財政を長く安定させるためには、今後も「調整」を続ける必要があるということです。

■制度をどう変えるのか?

厚生労働省は21日の年金部会で、2019年に年金財政を検証した際の試算を示して、議論を行いました。

制度改正の一つの可能性は、年金額増加率を抑える「調整」の期間を2つの制度でそろえることです。

今の制度のままでは、会社員らの「厚生年金の報酬比例部分」では調整が早めに終わり、自営業・無職の人の「国民年金」(元会社員らにとっては基礎年金と呼ぶ部分)では、調整期間が長くなってしまいますので、この期間をそろえる案です。「報酬比例部分」に予定よりも長く調整をかけ、「国民年金」に調整をかける期間は短くするという考え方です。

こうすると、本来調整がかかっていた期間に調整をかけなくてすむので、将来(10年、20年後以降)の国民年金の水準は、今の制度のままでいくよりは、上がることになります。会社員らの厚生年金でも、基礎年金部分が増えるため、一部の高所得者を除き、将来の年金水準は現行制度のままよりもあがるということです。

仮に「調整」期間をそろえるように改正するとしても、何年度まで「調整」を行うのかなどは、詳細な試算が必要で、今後の出生率や様々な経済前提を設定した試算が、来年夏にも公表されます。

もう一つの案は、上記のような「調整」の制度とは別に、現在、20歳から59歳までの40年間としている保険料納付の期間を64歳までの45年間に延長するものです。負担は増えますが、その人たちは、高齢になった時に受け取る年金額が増えます。

さらなる案は、保険料納付を45年間にし、かつ、年金に投入する税金を増やすというものです。実は現在、国民年金(厚生年金では基礎年金)の支給総額の2分の1は、税金でまかなわれています。仮に納付期間を長くした場合、それにともなって増える年金支給額についても、2分の1を税金でまかなう、という考え方です。

もし、仮に、年金増加率を抑制する「調整」期間を国民年金と厚生年金で一致させ、さらに保険料納付を45年間とすると、将来の国民年金(基礎年金)の水準は上がりますが、その年金支給額の2分の1を税金でまかなうとすると、現行制度に比べ、2060年には3兆3000億円多く税金が必要だという試算を21日、初めて厚労省が示しました。これをどう確保するのかも大きな課題です。

少子高齢化が進み、支え手となる世代が今後もさらに減る中、今の若者たちにも年金をしっかりと支給できるよう、長期的な安定のためにどう制度を変えるのか、来年夏の年金財政検証ももとにして、議論が続くことになります。

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