専業主婦の年金どうなる? 扶養家族で居続けるための「年収の壁」問題とは?
年金制度の中で、会社員の配偶者は保険料を負担せず、年金は受け取れるという仕組みがある。パート労働などで収入が一定額を超えると、この仕組みの対象外になるため、年収を抑えようと働く日数を調整する女性もいて、「年収の壁」と呼ばれている。この制度には賛否があり、21日は厚生労働省の年金部会も開かれる。
■年金の加入者は3種類
まず、年金制度をおさらいする。20歳以上60歳未満の人は年金制度への加入が義務付けられ、加入者は働き方に応じて3つの種類に分けられる。
【第1号被保険者】自営業者とその配偶者、無職の人、学生など例:夫婦で商店経営夫、妻がそれぞれ保険料を負担。*国民年金に加入、*受け取る年金=国民年金の額
【第2号被保険者】会社員、公務員など
例:会社員の男女保険料は給与の18.3%固定、保険料の半分を会社が負担半分は会社員各自が負担(これを労使折半という)*厚生年金(公務員は共済年金)と国民年金の両方に加入*年金=国民年金の額+給与に比例した額
【第3号被保険者】第2号被保険者に扶養されている配偶者(妻や夫)で原則として年収130万円未満の人
例:会社員の妻で専業主婦本人は保険料負担なし*国民年金に加入*年金=国民年金の額が受け取れる
■会社員妻の第3号被保険者とは?
以前、日本では、会社員の夫と専業主婦の妻という家庭が多かった。この場合、妻は収入がないので年金保険料の納付義務を免除されるが、働く夫を支えることに報いる形で、妻は老後、年金(国民年金の額)を受け取れることにした。これが「第3号被保険者」という制度だ。(「3号」は医療保険でも保険料負担なしで、保険証をもらえるが、ここでは年金制度のみを解説する)
実は、「3号」妻のための年金保険料は、夫が勤める会社の「厚生年金」が負担している。「厚生年金」は、第2号被保険者である会社員の男女が納めた保険料と会社が納めた保険料で成り立っているので、会社員と会社が、専業主婦たちの年金の面倒をみる形となっている。(離婚すると、夫の会社とは関係がなくなるので、保険料の肩代わりを受けられず、「第1号被保険者」として保険料を自分で負担することに変わる。離婚して会社員になれば「第2号」になる)
専業主婦が大多数を占めた以前とは違い、いまや夫婦共働き世帯が片働き世帯より多くなった。女性は結婚や出産を経ても会社員つまり「2号」のままでいるケースが多くなっている。
なお、自営業者の妻は、働いていて、収入があるとみなされ、保険料を納めなければならない。また、学生や無職の人、シングルマザーや実家暮らしの独身者などには、収入がない場合でも、保険料納付の義務が課されている。(申請すれば、保険料納付の免除や減額が受けられるが、将来受け取れる年金額も少なくなる)こうしてみると年金制度を支える保険料負担の「公平性」の観点、働く女性が増えている実態、男女が平等な社会を作ろうという思想からみても、会社員の妻の専業主婦に特に手厚い「3号」の制度について、このままでよいのかという声が、これまで以上に上がっているのだ。
■収入の壁とは…夫の扶養から外れないようパート時間を調整
会社員の妻でもパートに出る人が増えている。その場合、年収の見込み額が130万円未満であれば、保険料を納めるのは苦しいだろうとみなされ、年金制度上は「3号」のまま、つまり保険料免除が受けられる。しかし、年収の見込み額が130万以上の場合、「夫の扶養から外れること」が、厚生労働省の通知で定められている。この境が「130万円の壁」と呼ばれている。
夫の扶養家族でなくなった妻は、年金保険料負担なしの「3号」から「1号」に変わり、保険料(今年度は月額1万6520円)を自ら納める義務が生じる。負担が増えるが、老後に受け取る年金は「国民年金」の額のままで変わらないので、「損」だと感じることにつながる。
このため、「3号」妻たちの一部は、パートの回数や就労時間を減らして、年収が130万円以上にならないよう調整する実態がある。パート労働者が多く働くスーパーマーケットや介護現場などでは、11月12月にはシフトに入れない人が続出し、労働力不足の中、業務に影響が出ている。また、昨今、時給が上がっていることから、以前よりも年収が「130万円」に達しやすくなっていて、もっと働きたいと悩みながらも、パートの回数をさらに減らすことにつながっているという。
■「106万円の壁」=老後の年金は増えるが、当座の手取りが減る
一方、「106万円の壁」もある。
たとえば社員が101人以上いるスーパーマーケットなどで働くパート労働者は「月の賃金が8万8,000円」(年にすると約106万円、残業代やボーナスなどは除く)以上で、週の労働時間が20時間以上の場合、そのスーパーの社員と同じ「厚生年金」に加入する仕組みとなっている。仮にパートの主婦が「厚生年金」に入ると、年金保険料負担なしの「3号」から、会社員扱いの「2号」に変わり、保険料を負担することになる。
「厚生年金」に加入すれば、老後は「国民年金」だけでなく、所得に比例した上乗せ分があり、年金額が増える。男女問わず、パートなど非正規労働者が増える中、低賃金で働く若者の老後の年金を増やすため、非正規労働者を社員と同じ「厚生年金」の対象にする政策を国は進めてきた。(非正規労働者は「1号」なので、そのままだと、老後に受け取れるのは国民年金だけ)
しかし、この政策は、「3号」の妻には朗報とは受け取られない。保険料の半分は会社が負担してくれる上、老後に受け取る年金が増えるというメリットはあるものの、これまでは年金保険料がせっかく免除されてきたのに、年収106万円の場合だと、月に約8000円の年金保険料が給与から差し引かれることになり、いわゆる「手取り」が減り、デメリットと感じてしまう。このため、パートで働く「3号」妻の一部は、「106万円の壁』を超えないように、働く日数を減らすことになる。現在、「106万円の壁」を意識している「3号」の人は45万人程度いると推計されている。
■「3号」妻の新たな負担を支援するとは?
政府は6月に打ち出した子育て支援策、「こども未来戦略方針」の中で、若い世代の所得を増やす必要があるとして、106万円・130万円といった「年収の壁」を意識せずに働けるような環境整備に取り組む方針を打ち出した。最低賃金引き上げなどを促すほか、負担が増える「3号」妻の支援する企業への補助金も検討中だ。
具体的には、企業が賃上げした結果、パートで働く「3号」妻の収入が増えるのは好ましいが、「年収の壁」を超えてしまうので、新たに、その女性たちが負担することになる保険料を企業が肩代わりすることを促し、肩代わりをする企業には従業員ひとりあたり最大50万円を助成することを検討している。3年間の限定措置として実施する見込みで、こうした支援強化パッケージを、政府が今月中に発表する。さらに、こうした短期支援策とは別に、「3号」のあり方など含め、厚生労働省の年金部会で専門家に議論してもらい、2025年の年金制度改正にいかす方針だ。しかし、収入が低い他の人たちとの公平性、働きたくても育児や介護で長時間働けない事情、企業負担のあり方、など課題は多く、議論は難航が予想される。