【解説】子どもを性犯罪からどう守るか…日本版「DBS」導入検討 「義務化」の職場と「任意」の職場…違いは
こども家庭庁が、新しく雇用する人に性犯罪歴がないか調べることができる「日本版DBS」の導入の検討を進めています。国の認可を得て運営している「学校」などで導入を義務化する方針ですが、「学習塾」などでは導入が難しいといいます。その理由は…。
「社会部の庭野めぐみ解説委員とお伝えします。まず『日本版DBS』とはどういった制度でしょうか?」
庭野めぐみ社会部解説委員
「現在、こども家庭庁が検討を進めているもので、5日に有識者検討会が結論をまとめる予定です。『DBS』とは、モデルとなっているイギリスの制度『Disclosure and Barring Service(=前歴開示および前歴者就業制限機構)』の頭文字をとったものです」
「政府系の機関が犯罪歴をデータベースで管理して、犯罪歴がある人が、子どもにかかわる職業などに就く際には、必要な書類を発行してもらい、雇用主に提出しなければならない制度です」
「この制度の効果についてイギリスでは、独立調査チームが今年2月に『雇用主がより安全な雇用を決めるため、日常的に役立っている。使命を果たしている』と結論づけています」
藤井キャスター
「以上はイギリスの例でしたが、日本では何が行われるのでしょうか?」
庭野解説委員
「今検討されているのが、雇う側が犯罪歴をデータベースで検索して、応募者に『性犯罪歴がない』ことを調べることができるようになりそうです」
藤井キャスター
「導入に向けて今、どういった議論が進んでいるのでしょうか?」
庭野解説委員
「一つ目が、どのような職種に導入を義務づけるかです。現時点では、国の認可を得て運営している『学校』や『保育園』などを義務の対象とする予定です」
「一方、犯罪歴を調べることが“義務”ではなく“任意”となりそうなのが『学習塾』や『習い事』『ベビーシッター』『学童保育』などです。これらは国の認可で運営しているわけではないので、国の制度を義務化するのは難しいそうです」
「しかし、こうなると学校や保育園で働けなくなった性犯罪歴がある人が、確認が“任意”である『学習塾』や『ベビーシッター』に流れてきてしまうのではないか、と懸念の声があがっています。政府は、任意でこの制度を導入した塾などには『認証マーク』を与える方針です。ただ、『キャンプ』や『子ども食堂』などでボランティアをする人などをどうするかはまだ決まっていません」
藤井キャスター
「どれも子どもたちにかかわることですから、“義務”なのか“任意”なのかは別にして、本当に安全に守られることを目指してほしいですね」
庭野解説委員
「もう一つ議論になっているのが、データベースに登録する性犯罪歴の範囲についてです。“性犯罪関連の国の『法律』に違反し、有罪が確定した人物”については登録する方針です。しかし『痴漢』や『買春』は、実は法律ではなく自治体の『条例』で取り締まっているため、対象とするのは難しいといわれています」
「『条例』だと違反となる犯罪の行為自体に地域でばらつきがあり、全国統一のデータベースに犯罪歴として載せるのは適切ではないという考え方です」
「また、犯罪を起こしたとしても、教員などが『懲戒処分』となっても警察沙汰にはならず、法律で裁かれていない場合はデータベースには載らない方針です。それから不起訴もあります。性犯罪の場合、被害者側が大ごとになるのを避けるため示談とし、加害者が実際の行為をし、逮捕されても不起訴処分となるケースがかなりあります。このような人たちがデータベースに載らないのは、制度としては不十分ではないかという声もあります」
藤井キャスター
「一方で『犯罪を起こした人の更生や、職業選択の自由も保障されるべきではないか』という声もありますね」
庭野解説委員
「はい。たしかにそうですが、ほかの業種には就けるわけですし、『こどもの権利』に詳しい日本大学の末冨芳教授は、『やはり被害者や親御さんは一生、癒えない傷を負うわけですから、子どもの権利を中心に考えるべきでは』と話しています」
「有識者会議の結論を受け、こども家庭庁は秋の臨時国会にも法案を提出したい考えです。まずはできるところから制度をスタートさせるとしても、より、子どもが守られるよう、丁寧に見直しをしていくことが求められます」