「当事者の僕たちがかわいそうと思ったことはない」性的マイノリティーの親…子どもが語る“家族の形”
今、多様な「家族の形」が生まれている中、私たちは、性的マイノリティーの親と子どもの家族を取材しました。子どもの1人からは「当事者である僕たちがその環境をかわいそうと思ったこともないので」との声が聞かれました。
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私たちは、福岡市内に住む大学生の祐樹さん(仮名・20)と美咲さん(50代)に話を聞きました。
――美咲さんのことをなんと呼ぶ?
祐樹さん
「パパとか、お父さん」
美咲さんは祐樹さんの父親で、性別適合手術を受け、戸籍上も女性として生活する「トランスジェンダー」です。そのことを打ち明けたのは、祐樹さんが小学5年生の時でした。
美咲さん
「『実はね』って、『パパは体は男の子だけど心は女の子で、女の人として生きたい』って形でたしか伝えたと思います」
祐樹さんは当時、涙を見せたといいます。
祐樹さん
「びっくりして泣いただけで、自分は否定した覚えはない」
「親であれ人間なんで、好きに生きてもらってと思ってた」
女性として生きる父親に対しては、「何も思わない」といいます。
――「何も思わない」のは…
祐樹さん
「家族は家族だから、ですかね」
美咲さんと母親の3人で暮らす祐樹さんが、性的マイノリティーを家族に持つ子どもたちに伝えたいことは――
祐樹さん
「重くとらえすぎないほうがいい。普通『お父さん』っていったら『お父さんなんだな』って分かるじゃないですか。それが、『お父さん、えっどっち?』ってなるの、ちょっと面白くないですか? それこそ、『家族は1つの形じゃない』ということですかね」
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多様な家族の形。さらに私たちが出会ったのは、都内に住む小野和真さん(仮名・20代)と、母親の春さん(50代)です。
2人が見せてくれたのは、和真さんが8歳の時の家族写真です。春さんの隣に写るのは、和真さんのもう1人の親であり、春さんの同性パートナーである麻実さんです。
和真さん
「あっちゃん、親ですね」
春さんは2人の息子を育て、麻実さんは1人娘を育てていました。シングルマザーだった2人が出会い、5人家族になりました。
和真さん
「親っていうのは父親・母親だと思ってたので、ずっと。全く違う環境に自分がいたので、『あれ?』とはなりましたね、その当時」
自身が考えていた「家族の形」と違い、違和感もあったといいます。
――今、その違和感は…
和真さん
「ないですね。思ったよりも普通の家庭だった。当事者である僕たちが、その環境をかわいそうと思ったこともない」
一方、母親の春さんには別の思いもありました。
春さん
「『同性カップルで子どもなんか育てて、大丈夫なの?』みたいに、(周囲に)言われることはあったから、子どもがいじめられないように気を張ってはいたかなぁ」
春さんと麻実さんは女性同士のため、法的には“赤の他人”です。裁判にも参加し、同性婚の法制化を求め活動しています。
今月、和真さんと春さんは国会の議員会館へ行き、500通を超える岸田首相宛ての手紙を渡しました。
中には「ママたちにけっこんさせてあげたい」と、和真さんと同じく同性カップルの子どもの声もありました。「存在を知ってもらいたい」。「多様な家族」の中で育つ子どもたちの思いが込められていました。
「結婚」を願い歩み続ける2人の親に和真さんが思うことを聞きました。
和真さん
「自分の権利を勝ち取るために母はやってる、と思っているので。世間的に認められたらいいな。平等性がとられる法制度、法整備であってほしい」
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こうした親と子どもたちの声について、「news zero」のパートナーでクリエイティブディレクターの辻愛沙子さんに聞きました。
辻愛沙子・クリエイティブディレクター(『news zero』パートナー)
「『LGBTQの親に育てられるなんて、子どもがかわいそう』って勝手に代弁している声を以前、SNSで目にしたことがあります。でも、こうやって育てられた人自身が『当事者である僕たちがかわいそうと思ったことはない』とはっきり話していたことがまず、全てです。さらに、仮にいじめだったりと実際に嫌な思いをしてしまうことがあるとすれば、それは当事者ではなく、やゆする人の問題ですし、偏見が残る社会側の問題でもあります」
「後、L・G・B・T・Qやそのほかいろんな当事者の人たち、それぞれ抱えている課題も違うので、ひとくくりにしないことも大事だと改めて思いました」
有働由美子キャスター
「2組目の家族が、現状の法のもとで家族として認められないというのはむしろ、不自然な感じもします」
「今いるこうした家族の存在をどうするのか、5月30日には名古屋で同性婚を認めないのは『違憲』という判決が出て、来週には福岡でも判決が出る予定です。司法の判断が出てきているわけですから、国会でも法整備の真摯な議論を早急に進めてほしいと思います」
(5月31日放送『news zero』より)