3年ぶりに復活 世界でも珍しい馬車の“おもてなし”
■馬車で送迎する皇居の信任状捧呈式
――井上さん。このニュースをどのように受け止められましたか?
春の訪れと共に、皇室の行事もコロナ以前に戻りつつあることが感じられ、うれしく映像に見入りました。この儀式は、「この者に全幅の信頼をお願いします」という、元首からの「信任状」を天皇陛下に手渡す儀式で、恭しく捧げることから「捧呈式」と呼ばれます。順番は、日本の空港に到着した順です。この行事を終えないと「次期大使」扱いで、宮中行事には出席できない重要な行事です。
――空港に到着した順とはずいぶん細かく決められているんですね?
ある国は早く、ある国は遅くならないように平等にということだと思います。
■新任の外国大使に圧倒的な人気
――ところで馬車はどのくらいの距離を走るのですか?
東京駅と皇居の宮殿の間の2キロ足らずを10分ほどかけて走ります。馬車なら東京駅から、車なら大使館か大使公邸からの送迎で、どちらかを選択できます。人気は圧倒的に馬車です。その発着場所は、戦後間もなくは各国の大使館か大使公邸からでしたが、皇居に近いホテルなどを経て、1992年からは一時変更もありましたが東京駅発となっています。
――馬車は世界でもよく使われるのですか?
いいえ。信任状奉呈式の送迎に馬車が使われるのは、イギリス、スペイン、日本ぐらいということです。かつてある北欧の大使が「馬車から見る二重橋からの眺めは素晴らしく、沿道の歓迎もうれしく、感動しました」と話していたことを思い出します。東京の玄関口が国際親善の玄関口として使われるのは“心憎い演出”で、世界に自慢できるもてなしだと思います。これから丸の内で馬車を見かける機会が増えるでしょうから楽しみです。
――着任された大使の方々も、馬車からの景色を見ることで日本への愛とか思いを強くしていただければうれしいですよね。
そうですね。「いい日旅立ち」ですね。
【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。