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こども予算倍増、3兆円以上をどう捻出? 保険料使う「支援金」とは?

2023年11月9日 7:01
こども予算倍増、3兆円以上をどう捻出? 保険料使う「支援金」とは?

政府は、今年6月、こども・子育て支援の方針や具体策を盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定し、必要な予算規模を年間3兆円半ばとしましたが、どう確保するのでしょうか。

■新たな子育て支援策とは?

政府が打ち出したこども・子育て支援策は多岐にわたりますが、概要をおさらいします。

*児童手当の拡充支給を高校生年代にまで延長。第三子以降は3万円支給(現在は1万5000円)。この政策が一番大きい予算額。高校を卒業すると「こども」とカウントしないため、1番上の子が19歳の場合、2番目の子は第一子、3番目の子は第二子と扱われます。

*出産費用の保険適用。(2026年度めど)

*こども誰でも通園制度親の就労の有無にかかわらず、こどもが時間単位で保育園に通えるようにし、親子の孤立を防ぐ。

*育児休業中の給付増男性の「産後パパ育休」の間や女性の育休中に収入が無くなるのを補てんする育児休業給付を手取り10割相当に引き上げる。(2025年度から)

*返済不要の奨学金の対象を拡大。両親と扶養するこどもが3人以上の「多子世帯」から大学などに進む場合、返済不要の奨学金をうけとれる世帯年収上限をおよそ600万円に引き上げるなど(2024年度から)

■3兆円以上をどこから捻出?

政府は「こども未来戦略」で、来年度(2024年度)から3年間「加速化プラン」として新たな子育て支援策などを集中的に行うと発表。必要な年間予算を3兆円半ばとしています。(児童手当の拡充は年度途中からのため、2024年度の予算は3兆円半ばより少ない)こども家庭庁予算は、2022年度4.7兆円でしたが、プランが実施されると8.2兆円に、2030年代初頭までにさらに増やし、2022年度からみた「倍増」を目指すということです。政府は、新たに必要な3兆円半ばの予算を3つの方法て確保すると説明しています。1)支援金制度2)既定予算の最大限の活用3)歳出改革の徹底

■支援金制度とは?

政府が新たに作る「支援金制度」とは、社会全体でこどもや子育てを支えるため、人々や企業から集めた社会保険料の一部をこども関連予算に回す構想です。こども家庭庁はこの制度の詳細を年末までに決める予定で、専門家の会議が新たに作られ、きょう議論を開始しました。

政府は「消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない」と打ち出し、6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」には「支援金制度」のために「追加負担とならないよう目指す」と明記しました。では「支援金」はどう確保するのか?政府は明言していませんが、医療保険のルートで集めた保険料を念頭に置いているとみられます。たとえば、ある企業で働く人が、給与の10%を医療保険料として納めている場合、5%分は本人の給与から天引きされ、5%分は企業が負担しています。給与の何%といった医療保険料率は企業ごと、国民健康保険では自治体ごとに違いますが、高齢化などの影響で上昇を続けており、今後も上がる可能性があります。しかし、新たなこども政策実現のために、医療保険料率を上げることはしないというのが政府の言い方です。

政府は、医療・介護分野で歳出改革を進めると、すでに集めてある保険料が使われずに「浮く」ので、それをこども政策の「支援金」にすることを考えています。ただ、歳出改革とひとことで言っても、何を削るのか、どれだけ削れるのか、3兆円半ばのうち、どれくらいを「支援金」でまかなうのかなど、具体的なことはまだ決まっていません。仮に保険料の面で「負担増」はないとしても、国の歳出を抑えるため、医療や介護制度の中で、所得の高い人などに何らかの自己負担を増やしてもらうといった可能性もあります。

■こども・子育てを社会で支えるという発想

仮に医療などで自己負担が増えるなどすれば、反発も予想されます。しかし、予算不足で子育て支援策が実行できず、こどもが減り続ければ、労働力不足がますます深刻化して各産業が存続の危機に瀕し、医療や年金の保険料を納める人が減り、今の高齢者含め社会全体が困ることになります。だからこそ、出産や子育てを個人の問題と突き放すのではなく、社会全体で支える必要があるという発想があります。医療を支えるために、若者から高齢者まで皆が保険料を納めるように、こども関連予算の一部をすべての世代の保険料で支えるという考え方が「支援金」制度のベースにあります。こどもや子育て世帯対高齢者といった世代間の争いの構図は建設的とはいえません、どの世代でも貯金や所得の少ない人を支えつつ、必要な予算確保のために、誰にどう負担を求めるのか、政府には、丁寧な議論と率直でわかりやすい説明が求められます。

■そのほか二つの予算捻出方法

政府は、3兆円半ばを確保する方策として「支援金」のほかに「既定予算の最大限の活用」と「歳出改革の徹底」を挙げています。既定予算の活用とは、企業が子育て政策のために拠出したお金がたとえば500億円あったが、実際には300億円分しか使われなかった、という例を探す、ということのようですが詳細はわかっていません。「歳出改革の徹底」は、これまでも行われてきたもので、国や地方の福祉や医療などの政策の「無駄」をなくすといったこととみられます。仮に医療などで何か制度改革をして、全体の支出を減らすことできれば、保険料が「浮いた」分は、こども政策の「支援金」にし、同時に、国や地方の予算も少なくてすむので、その分もこども政策の予算に回せる、と国は説明していますが、毎年度、何兆円もの歳出削減が本当に実現できるのか、具体策はこれからです。

また、政府は防衛費増額や減税を打ち出しており、これらの影響も気になります。政府は、来年の通常国会で関連法案を成立させ、2028年度までに安定財源を確保すると打ち出しています。つまり「加速化プラン」が始まる来年度には、財源確保は間に合わず、必要に応じ、こども特例公債を発行する方針を示しています。こども・子育て支援策は、現在、税金、保険料、企業の拠出金など、財源や制度が分かれていますが、政府は、これらを一本化して新たな「特別会計」を作り、制度の全体像と費用負担の見える化を進めるということです。政策の効果などを検証し、2027年度以降、見直しを行うとしていますが、効果をどうはかるのかは大きな課題です。

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