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日本海溝・千島海溝の巨大地震、寒冷地ゆえの対策の報告書を政府がまとめる

2022年3月22日 11:46
日本海溝・千島海溝の巨大地震、寒冷地ゆえの対策の報告書を政府がまとめる
※内閣府資料から

最悪20万人近くが死亡するとの予測の日本海溝・千島海溝の巨大地震。この寒冷地で起きる巨大災害に立ち向かうため、寒さに強い避難タワーの建設や、一回り小さい地震が発生した時に注意喚起の呼びかけを行うといった様々な対策が示されました。

■千島海溝などでも巨大地震が切迫している

東日本大震災のようにプレート境界で起きる巨大地震は、南海トラフだけではなく、日本海溝・千島海溝沿いでも切迫しています。

北海道の東側にある千島海溝でも繰り返し大きな地震が発生してきました。その中でも、300~400年おきに大きな津波を伴う巨大な地震が起きていたのです。

過去6000年間の津波堆積物を調べたところ、千島海溝では12~13世紀及び17世紀に300~400年の間隔で最大クラスの津波が発生し、すでに400年近くが経過していることが判明しました。

政府の地震調査研究推進本部は、今後30年以内に千島海溝沿いでM8.8程度以上の超巨大地震が発生する確率を7~40%と推計しています。

さらに、規模の小さなM7.5クラスの地震の場合では、最大90%もの確率で発生するというのです。

もしもこの巨大地震が起きたら。非常に激しい揺れと巨大な津波が沿岸部を襲う予測です。

北海道厚岸町付近では千島海溝の地震で震度7、えりも岬から東側の沿岸部では震度6強。さらに、日本海溝の地震でも青森県太平洋沿岸や岩手県南部の一部で震度6強が予測されています。

津波は三陸沿岸では宮古市で約30m、北海道えりも町沿岸で約28m、岩手県中部以北では東日本大震災よりも高い津波が襲ってくるとみられています。

この地震が発生すると、最悪の場合、日本海溝の地震で約19万9千人、千島海溝の地震で約10万人もの死者が発生すると推定されています。

この巨大地震にどうやって立ち向かっていけばよいのか、その対策について内閣府がまとめた報告書が公表されました。

■冬場の対策がないと寒さで死者は膨大に

日本海溝・千島海溝のエリアは冬には厳しい寒さが続くことから、冬の深夜に地震が発生した場合、死者数が最大になると想定されています。

対策の基本は津波から確実に避難するとともに、避難先でも凍えることの無いような寒冷地対策と、広域な被災地にいかに確実に救援の手を差し伸べることとできるかに尽きます。

具体的な寒冷地対策としては、雪の中でも避難できるようにシェルター付きの避難階段の設置や、寒冷地仕様の避難場所の整備が挙げられています。

避難先については一般的な津波避難タワーではなく、避難するスペースとなる部屋を高い場所に設置して、室内では雪や寒気から守ることができるようにすること。

さらに建物内の避難場所でも暖をとれるように、避難場所に暖房器具をあらかじめ準備しておくことなど、避難後の低体温症などによる2次被害を防ぐ方策が重要としています。

そして、積雪は家屋の耐震性にも影響を与えます。雪が屋根の上に1m積もると、1㎡あたりで200㎏から300㎏も重たくなってしまいます。

建物の高い場所の荷重がこれだけ増えると、木造住宅では揺れへの影響が大きくなり倒壊の危険性が増します。北海道の住宅は壁が多いので、もともと強い作りになっているものの、耐震性能をしっかり確保することがもっとも重要で、建物の耐震化を推進するとしています。

また、救助に向かったり、物資を届けたりするのにも吹雪や積雪、凍結は大きな障害になります。

全国からの救援部隊についても具体的な計画を作成し、防寒装備などを準備しておくことや、雪になれていない地域の救助隊でも雪で閉ざされた道路などを切り開いたり、雪の中で救助活動を行ったりする訓練を実施しておくべきだとしています。物流にも影響が想定されることから、医薬品などを地元に備蓄して確保しておく必要もあります。

さらに、地理的に避難の確保が難しいエリアでは、東日本大震災後に宮城県女川町などで行われている住民の集団高台移転についても、災害の前から実施を検討することを挙げています。

■M7クラスの地震発生で、巨大地震への注意を呼びかけへ

巨大な地震が発生する少し前に、少し小さな地震が発生することがあります。

例えば東日本大震災でも2日前にM7.3の地震が発生していましたし、1963年(昭和38年)に起きた択捉島南東沖のM8.5の地震では、18時間前にM7.0の地震が発生していました。

こうしたことから、もしも千島海溝や日本海溝でM7クラスの地震が起きた場合、さらなる巨大地震に念のため1週間ほどは注意するよう呼びかけることが必要だとして、情報発信を行う方針です。

千島海溝と日本海溝では、ほかの地域と比べM7クラスの大きな地震の発生頻度が比較的高いため、概ね2年に1回程度の頻度でこの注意喚起の呼びかけが行われると想定されています。

この情報が発信された場合に巨大地震がどのくらい発生するのかというと、これまでに実際に世界で起きたM7クラスの地震の例では、さらに大きな巨大地震が起きるケースは100回に1回程度あるということです。

内閣府は、こうしたことから日本海溝・千島海溝の想定震源域やその周辺で起きた地震によって情報を発信するのは、「行政や企業、住民に地震への備えを再確認するように呼びかけるもの」で、「事前に避難を求めるものではない」と説明しています。

内閣府は今後、地震が起きた際に会見を行う気象庁などと連携し、具体的な情報発信のあり方について、検討を進めることにしています。