熊本でなぜ被害が拡大? 時系列で分析
記録的な大雨で大きな被害が出た熊本。なぜ被害が拡大したのでしょうか。3日夜からの流れを時系列で振り返りながら、その理由を解説します。
■福岡、佐賀、長崎に「大雨特別警報」
鹿児島の大隅半島では、6日の明け方から猛烈な雨が降りました。そして、6日午後4時30分、気象庁は「これまでに経験がないような大雨になっている」として、福岡、佐賀、長崎の3県に「大雨特別警報」を発表しました。
これは、2019年から導入された5段階の「大雨警戒レベル」のうち、最も危険性が高い「命の危険」があることを示す「レベル5」の情報で、命を守るための最善の行動を強く求めるものです。
■寝ている間に水位が一気に上昇
熊本では4日の未明から猛烈な雨が降り、熊本県南部を流れる球磨川が氾濫。甚大な被害が出ました。予想を上回る猛烈な雨が短時間に集中して降ったうえ、避難しづらい「未明」に起きたため、被害が拡大しました。
3日夜からの状況について、時系列で振り返ります。
3日夜には、芦北町や人吉市、球磨村などに「大雨・洪水警報」が出されていました。ただ、状況が急展開したのは4日の未明でした。
4日の午前0時からの雨雲の動きを見ると、次々と積乱雲がかかっていることがわかります。「線状降水帯」です。人吉市などでは、1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降りました。このため、4日午前3時半には球磨村が「避難指示」。そして気象庁は午前4時50分、「大雨特別警報」を発表。午前5時15分には人吉市全域に避難指示が出されました。その40分後には、国交省が「球磨川が氾濫した」と発表しました。寝ている間の10分~20分が大事だったということが分かります。
【球磨川氾濫までの動き】
3日(金)
午後8時49分:芦北町に「大雨・洪水警報」
午後9時39分:人吉市・球磨村に「大雨・洪水警報」
4日(土)
午前3時半:球磨村に「避難指示」
午前4時32分:16市町村に「大雨特別警報」伝達
午前4時50分:熊本県に「大雨特別警報」
午前5時15分:人吉市に「避難指示」
午前5時55分:「球磨川氾濫」発表
住民の方も次のように話しています。
「(4日午前)5時過ぎには起きていたんですけれど、避難しないといけないかなと思っていたらあっという間に(水が)来たので、消防団の方に救出していただいた」
球磨川の水位を振り返ります。
大きな被害が出た特別養護老人ホーム「千寿園」付近の水位計に注目します。 ここの氾濫危険水位は8.7m。午前2時には6mを超え、その2時間後の午前4時には一気に氾濫危険水位を超え、午前7時には12m以上になりました。このように、寝ている人も多い時間に水位が一気に上がったことが、被害が大きくなった理由の一つです。
■下流部が「流れにくい」球磨川流域の地形
球磨川流域の地形にも、被害が広がった理由があります。
河川氾濫のメカニズムに詳しい東京理科大学・二瓶恭雄教授によりますと、もともと人吉市は「人吉盆地」といって、山に囲まれてすり鉢状になっている地形だそうです。その中心を球磨川が流れています。周りには支流がたくさんあり、その支流から球磨川へと大量の雨水が集まったということです。また、下流部には川幅が狭くなる「狭さく部」があり、川が細いので流れにくくなる地形的な要因があったわけです。この下流部の流れにくさで、川の水位が上昇し、その影響が上流部に伝わり、水があふれたと考えられるといいます。
■予測困難な「線状降水帯」の被害
今回のように猛烈な雨が集中的に降る「線状降水帯」による被害を予測することは難しいという事情もあります。 気象庁によりますと、いつどこで発生し、どれくらい降り続けるかを予想することは、今の予報技術では非常に困難だということです。
なぜでしょうか。今回の豪雨も、2年前の「西日本豪雨」や3年前の「九州北部豪雨」も、「東シナ海」から大量の水蒸気が流れ込むことで集中豪雨が発生しています。しかし、海の上に観測点がないため、水蒸気の量を正確に検知できません。そのため、予測が難しいということです。
今後、東シナ海の海上に観測点を設置できれば、事前に精度よく豪雨を予測して被害を減らせる可能性があり、研究が進められているということです。
■持ち物:マスク、体温計、ビニール手袋、タオル、石けん
予測が難しいからこそ、準備しておいた方が良いことをおさらいします。
避難する際には、新型コロナウイルスの感染予防で密集をさけるため「分散避難」が呼びかけられていますが、自治体が避難所を増やすなどしているため、確認しておきましょう。また、安全なエリアにある親戚や友人の家なども避難先の一つです。どこに、どうやって避難するか、話し合っておきましょう。
避難所ではマスク、体温計、ビニール手袋、タオル、石けんなどが不足する可能性があるので、持っていくように準備した方が良いです。
15日ごろまでは、前線が停滞して大雨が続くと予想されています。災害が起きてからでは遅いです。地盤が緩んでいることも念頭に、早め早めの避難をしてください。
※2020年7月6日放送 news every.『ナゼナニっ?』より