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車にGPS「見張り」でない どうして?

2020年7月30日 20:01
車にGPS「見張り」でない どうして?

GPSで相手の位置情報を収集する行為がストーカー規制法の「見張り」に当たるかどうかが争われた裁判。30日、最高裁は「見張り」に当たらないとする初めての判断を示しました。これまでの裁判の背景と、その影響について取材しました。

どこにいても、簡単に位置情報を取得できる「GPS」。スマホの地図アプリにとどまらず、最近では、友人や恋人の居場所をお互いに常に把握できるアプリも登場するなど、「GPS」は私たちの日常に欠かせないツールとなっています。

この「GPS」の利用について、最高裁判所が初めてとなる「ある判断」を示しました。

■一審・二審で分かれた判断

別居中の妻の車にGPSをつけ、居場所を特定して待ち伏せしたとして、男がストーカー規制法違反の罪に問われた事件。

ストーカー規制法では、相手の住居などで「見張り」を行うことが禁止されています。

では、「相手の車にGPSをつけて位置情報を収集する」行為は、「見張り」に当たるのか。これが、裁判での大きな争点となりました。

一審は「相手の動静を直接観察することは必須ではない」とし、GPSをつけ情報収集したことは「見張り」に当たるとしました。

それに対し二審は、直接、視覚を用いて観察せずにGPSなどの機械で情報収集する行為について、「『見張り』等のための準備、予備行為とはなり得ても、『見張り』の実行行為そのものではない」と指摘し、「見張り」に当たらないとしたのです。

また、別の事件の裁判でも同じ争点で一審・二審の判断が分かれていました。

元交際相手の車にGPSをつけたとしてストーカー規制法違反の罪に問われている男の裁判。この事件の裁判も、GPSでの情報収集は一審は「見張りに当たる」としましたが、
一転して二審は「見張りにあたらない」と認定。

裁判所の判断は揺れ動き、2つの裁判は同じ経緯をたどりました。検察側はそろって上告し、30日の判決を迎えたのです。

■最高裁「一定の場所において動静を観察する行為を要する」
そして、30日、最高裁は、ストーカー規制法が「見張り」について「住居等の付近」と場所を定めていることから、「機器等を用いる場合であっても一定の場所において動静を観察する行為を要する」と指摘。

GPSを使って相手の位置情報を収集する行為は「見張り」には当たらず、ストーカー規制法の処罰対象にならないとして、上告をしりぞける判決を言い渡しました。

この判決で、最高裁はストーカー規制法が規定する「見張り」について初めて判断を示したことになります。

GPSによる位置情報収集について、ストーカー規制法に基づき摘発を行ってきた各地の警察を指揮監督する警察庁は、判決をうけて、「今後の対応について、適切に検討してまいりたい」とコメントしています。

■専門家「ストーカー規制法 時代に合わせて改正を」

判決について、ストーカー問題に詳しい千葉大学の後藤弘子教授は、「場所的要件に重点を置いた判決だ。遠隔地からGPSで場所を特定されるというだけでも通常はとても怖いこと」と、判決が与える影響への危機感をのぞかせました。

さらに、「この判決が、『GPSを付けることはストーカーにはなりません』という誤ったメッセージを伝えることになるのではないか」との懸念を示しました。

また、2000年のストーカー規制法成立時にはGPSの使用が想定されていなかったと指摘。「ストーカー規制法については時代に合わせて改正しないといけない」と、法改正の必要性を訴えました。