子育て政策どこが変わった? こどもまんなか元年を振り返る
岸田首相の「異次元の少子化対策」発言で始まった2023年。4月には、こども政策の司令塔として「こども家庭庁」が発足した。こどもを中心に据えるという意味の「こどもまんなか」社会に向けた一年を振り返る。
(社会部 西出直哉)
こども家庭庁発足とあわせて施行された「こども基本法」。国と自治体には、こどもや若者に関する政策を決める際に、意見を聞き、反映することが義務付けられた。
新たな法のもとで、こども家庭庁は意見を聞くため「こども若者★いけんぷらす」を立ち上げた。当初掲げた1万人の目標には届かないものの、小学生から20代までの4000人以上が登録。各省庁から出されたテーマは20を超え、対面以外にもオンライン、ウェブアンケート、チャットなど様々な手段で意見を募り、政策に役立てている。
例えば、農林水産省は「若者と食の今後を考える。」というテーマで、中高生を対象に対面で12人、オンラインで22人から意見を聞き「農家が自ら加工・販売までやるのは、お客さんの顔も見えるし、すごく良い。農業以外でもアパレルなどと協力し合って6次産業的な農業が進んだら、個人の負担も減るし、地域の活発化にもつながり、もっとやりたいと思う人が増えるのではないか」といった意見が寄せられた。
農水省は、政策への反映はまだ先としながらも、審議会の答申と同じ方向性だと確認し、フィードバックを公開している。各省庁は意見を聞きっぱなしにせず、政策にどう生かされたか、反映されなかった場合は、その理由なども含め、フィードバックを行っている。
2023年12月には、今後5年程度の国のこども政策の基本的な方針や重要事項を盛り込んだ「こども大綱」が閣議決定された。大綱を作るためのこども家庭庁の審議会には、20代~30代の若者や子育て当事者も委員として加わった。
この大綱については、前述の意見聴取システム「こども若者★いけんぷらす」をはじめ、オンライン公聴会やパブリックコメントで、こどもや若者、子育て当事者などから3000件を超える意見が集まった。
これらを受け、大綱のうち「校則の見直し」の項目は、公聴会で出た中学生の意見などをもとに加えられた。こども大綱は「こども・若者を権利の主体として認識し、その多様な人格・個性を尊重し、権利を保障し、こども・若者の今とこれからの最善の利益を図る」という基本方針を掲げている。
少子化対策も、こども家庭庁の大きな仕事だ。まず、2023年3月に「少子化対策のたたき台」として実施すべき政策のメニューが打ち出され、最終的には12月に「こども未来戦略」として総額3兆6000億円もの内容が閣議決定された。特に2030年までを少子化傾向を反転できるラストチャンスとし、2024年度からの3年間の取り組みを少子化対策の「加速化プラン」として打ち出した。
主なメニューは以下の通り。
*児童手当拡充(2024年10月から所得制限の撤廃、高校生年代までの延長、第3子以降3万円)
*高等教育費の負担軽減(2025年度から、扶養するこども3人以上の世帯の大学・専門学校などの授業料等の“無償化”【上限あり】)
*幼児教育・保育の質の向上(2024年度から4、5歳児の職員配置基準を30対1から25対1へ改善)
*多様な支援ニーズへの対応(ひとり親家庭や低所得子育て世帯のこどもに対する受験料等の支援、障害児に関する補装具費支給制度の所得制限を撤廃)
*男性育休の取得推進(2025年度から両親とも育休を取得した場合の給付を手取り10割相当に引き上げ)
2023年6月には自殺対策、7月には旧ジャニーズ事務所の性加害問題を受けた、こども・若者の性被害防止、12月にはいわゆる“学童保育”の待機児童解消に向けた対策がまとまった。これらの一部は既に実施されているが、多くは2024年以降に取り組まれる。
では2023年、実際に、こどもや子育て世帯に届いた政策はあったのか。子連れの人などが長時間並ばず優先して進める「こどもファスト・トラック」や、サッカー・Jリーグも応援宣言をした「こどもまんなか応援サポーター」事業。いずれも社会の機運醸成を狙ったものだが、SNSなどには「求めているのは、それじゃない」といったコメントが寄せられた。
また、こどもに関わる職業などに就く際、性犯罪歴などがないか証明を求める“日本版DBS”制度は、臨時国会への法案提出が見送られ、落胆の声も多く聞かれた。政府関係者は「半年や1年で成果が出るなら、どんどん省庁が立ち上がることになる。評価には、もう少し時間を」と理解を求めたが、2024年には、国民に実感できる成果を届けることが何より求められる。
■財源をめぐる説明不足
こども政策の今後の方向性や施策については、一定の評価がある一方、理解が得られにくいのが財源だ。加速化プランの財源3.6兆円は、既定予算の活用で1.5兆円、社会保障の歳出改革で1.1兆円、こども・子育て支援金制度で1兆円を賄うとされている。
新たに創設される支援金は、医療保険料を集めるルートで集められるが、岸田首相は「賃上げ」と「歳出改革による社会保険負担の軽減」、その効果の範囲内で支援金を構築し、国民に実質的な負担を生じさせないと説明した。
しかし、個人ベースで見れば、賃上げがあまりない人もいる上、支援金は負担能力に応じて納めるため、所得や加入する保険によっては負担増になる人もいるとみられる。具体的な負担額は明らかになっていないが、説明不足だとの声が上がっている。
また、「歳出改革による社会保険負担の軽減」が、どの程度あったか計算する際、政府の解釈では、医療・介護従事者の賃上げのために人々の保険料が上がる分は、負担増とはみなさないという。新たな支援金のために「負担増を生じさせない」と明言したため、なんとかそれを達成しようと前提条件を変更したようにも見えてしまう。政府関係者は「負担とされる部分ばかりに目を向けないで、実現される施策とともに評価してほしい」と繰り返す。
しかし、説明がわかりにくいからこそ、負担増の解釈に関心が向いてしまう。子育て支援と言いながら、子育て世代に、さらに負担を強いる方針を言い出しにくいのは理解できるが、最初から、例えば「1人あたりワンコイン500円の負担増ですが、これだけ子育て政策が充実します」と丁寧に説明していれば、わかりやすかったのではないか。
2023年は、こども政策の道しるべができ、具体策も定まった。今、国民が求めるのは実感できる具体的な成果だが、児童手当の拡充、保育園の4、5歳児の職員配置基準改善などの実現には巨額の財源が必要だ。2024年、こども家庭庁は通常国会で予算と関連法案の成立を目指すが、負担がどの程度になるのか明らかにした上で、さらに丁寧な説明を求めたい。