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【解説】国や東京都「新対策」発表 “異次元”少子化の歯止めに? 専門家「最大の問題は教育費」

2023年1月5日 20:34
【解説】国や東京都「新対策」発表 “異次元”少子化の歯止めに? 専門家「最大の問題は教育費」

4日、岸田首相と東京都の小池知事が、相次いで新たな少子化対策を打ち出しました。子どもの数が減り続ける日本で、“待ったなし”の実情に有効な対策となるのでしょうか。

●「ようやく本気に…」
●出生数“過去最低”へ
●「教育費が最大の問題」

以上のポイントを中心に詳しく解説します。

■国と東京都が相次いで“少子化対策”発表 中身は…

岸田首相は4日、「今年は『異次元の少子化対策』に挑戦する」と述べました。東京都の小池知事も4日、「少子化は静かなる脅威」だと述べ、新たな対策を打ち出しました。

岸田首相の「異次元の少子化対策」の基本的な方向性は、次の3つです。

(1)「児童手当」などの経済的支援を強化
(2)学童保育や病児保育を含む幼児教育・保育の強化、産後ケア・一時預かりなどの拡充
(3)働き方改革の推進

岸田首相は、この3本柱を中心に具体策をとりまとめていくとしていて、「若い世代から『ようやく政府が本気になった』と思っていただける構造を実現すべく、大胆に検討を進めてもらう」と述べました。

また、小池都知事が打ち出した“東京都独自の対策”は、都内に住む0~18歳を対象に月5000円程度を給付するというものです。親の所得制限は「設けない」方針となっています。関係者によると、来年度からの支給を目指して検討しているということです。“所得制限なし”にする理由について、小池都知事は「子どもは育つ家庭にかかわらず、等しく教育の機会、育ちの支援を受けるべき」だとしています。

また、都内の区独自の支援策も打ち出されました。来年度から、北区や葛飾区では、区立の小・中学校の学校給食費が無償化される方針です。給食費は、小学校1年生から中学校卒業までの9年間、毎年かかります。例えば、小学5・6年生の年間の給食費は、北区で5万4990円、葛飾区4万9390円と、5万円前後かかっています。これが無償化されるとなると、家計はかなり助かります。

■日本の少子化対策 “公的支出”対GDP比でフランスなどの約半分…

少子化対策がここまで“待ったなし”となっている背景には、日本が “異次元の緊急事態”に陥りつつあるという実情があります。

日本の出生数の推移を見ると、「第1次ベビーブーム」の1949年には約270万人、「第2次ベビーブーム」のピークを迎えた1973年は約209万人となっていました。それからどんどん減少していき、2015年には1973年の半分の約101万人になりました。さらに、2021年には約81万人にまで減り、2022年は80万人を下回り「統計開始以降、最低」となる見通しです。

このまま、少子化が進めば、日本社会のあらゆる側面にネガティブな影響が出てくることが想定されます。例えば、労働者や消費者の数が減って、経済規模が小さくなります。また、福祉や年金をはじめとする社会保障の財政も打撃を受け、将来の現役世代1人あたりの負担が増えれば、制度の土台は不安定になってしまいます。

こうした事態を防ぐため、国は長い間、さまざまな対策を打ち出してきましたが、少子化に歯止めがかかっていないのが現状です。

こうした対策の1つが、子どもに現金が支給される「児童手当」です。この制度ができた1972年当時は、第2次ベビーブームのまっただ中であり、少子化対策というよりは、子どもを持つ家庭への経済的支援という側面が強かったです。当初、支給額は月3000円で対象は第3子以降、そして所得制限がありました。

その後、1990年代にかけて第1子から対象となり、第1・2子には5000円・第3子以降は1万円と増額され、所得制限がありました。2010年の民主党政権時代には「子ども手当」として、支給額は第1子から月1万3000円、所得制限なしになりました。ただこれも長くは続かず、2012年には、現在の「児童手当」制度に変わりました。現在は年収1200万円未満の家庭の中学生以下に対し、月5000円~1万5000円が支給されています。

岸田首相は、こうした児童手当を中心に経済的支援を強化するとしています。ただ、日本は諸外国に比べて、子育てへの公的な支援は手薄です。OECD(=経済協力開発機構)による2017年の調査によると、日本の子ども・子育て支援への公的支出は対GDP比で1.79%だということで、OECDに加盟する38か国平均の2.34%を下回っています。さらに、支援に力を入れるフランス(3.6%)やスウェーデン(3.4%)と比べると、約半分にすぎない比率です。

岸田首相は、来年度の「骨太の方針」までに子ども関連の予算を倍増するための大枠を提示するとしていますが、それを賄うだけの具体的な財源は固まっていません。

■専門家「最大の問題は将来かかる教育費」

こうした国や都が今年から始めようとしている新たな少子化対策について、家族社会学が専門の中央大学・山田昌弘教授は「一歩前進で、やらないよりはいいが、これだけで少子化が止まるとは思わないでほしい」と話しています。

結婚している夫婦が2人目、3人目の子どもを持てないのは、子育てや教育にお金がかかりすぎるからです。学習費の総額は、例えば、幼稚園から高校まですべて公立なら500万円以上、すべて私立なら1800万円以上、そして大学まで進学したらさらにかかるということです。山田教授は「最大の問題は目の前のコストではなく、将来かかる教育費で、その不安をなくすことがとても重要」だと話していました。

    ◇

山田教授は「日本では“子育ては親や家庭が経済的負担も含めて担うべき”との意識が根強く、社会全体で子どもを育んでいくという意識が希薄」だとも指摘しています。所得や子どもの有無にかかわらず、子どもを日本の次世代を担う大切な存在として捉えることが、“待ったなし”の少子化対策には求められています。

(2022年1月5日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)

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