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ワクチンで集団免疫は?…専門家に聞く

2021年2月1日 10:11
ワクチンで集団免疫は?…専門家に聞く

新型コロナウイルスの政府の政策決定やワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに、今更聞けない素朴なギモンから最新情報のアップデートまで聞く企画。第3回は、新型コロナの“国産ワクチン”の開発にも携わる国立感染症研究所のインフルエンザウイルス研究センターの長谷川秀樹センター長に取材した。(前編から続く)

■変異ウイルスでの効果は?

――イギリスや南アフリカの変異株への有効性は

今は、変異株に対して「有効だ」と言えるのではなくて「有効ではないと言える証拠はない」という言い方をしています。変異といっても色々ありますから、中には、1つの抗体に対して逃避するような変異もみられているのは確かです。ただ、ワクチンによる免疫というのは様々な部分に対する抗体が誘導されますので、一カ所だけ(逃避したこと)で、効果がなくなってしまうということはないと思います。ただ今後感染が広がる、もしくはワクチン接種が進んでいくと、そこから逃げようとする変異はより入りやすくなりますから注意が必要です。インフルエンザでもそうですけど、罹った人が多くなる、もしくはワクチン接種者が多くなると、そのワクチンの免疫から逃れるような変異というのが、どうしても入ってくるものなので。

■“集団免疫”はできる

――ワクチン接種で集団免疫は得られるのか?

もちろん、ワクチン接種によって得られます。ある程度の人口の割合以上の人たちが免疫を持つことで、集団で守ることは可能だと思います。ワクチンで感染を完璧には抑えられないといっても、やはりウイルスの量を減らす効果も期待できますので皆さんが免疫を持つことで、社会全体が守られていく可能性は高いと思います。

――どのくらいの割合の人がワクチンを打つことで集団免疫が得られる?

疾患によっても違うので難しいですが…一般的には6割以上といわれていますが、それより高いか低いか、そこまで達している国がまだないのでわかりません。

■「ワクチンは、コロナ収束の必須の武器」

――ワクチンの有効性・安全性は1年後にはある程度わかるのか?

何もないところからスタートして、1年間でここまでのエビデンスが集まってきているわけですから、これから1年経ったら、このワクチンの安全性・有効性のデータはすごく蓄積されると思います。

――ワクチン接種を続ける中で、ワクチンのおかげでコロナは収束していくと言えるのか?

もちろん、ワクチンがなかったらなかなか数年での収束は難しいと思うんですが、ワクチンによって免疫を獲得することは、収束には必須の武器だと思いますね。

■世界初“遺伝子ワクチン”だから短時間で開発できた

――ファイザーとモデルナのmRNAワクチン、遺伝子ワクチンとはどういうものなのか?

今までのワクチンは、ウイルスそのものを増やしたり、ウイルスの成分を増やして、それをワクチンとして接種して免疫を誘導していましたが、今回のファイザーとモデルナのワクチンは、ウイルスの遺伝子をワクチンにしたものです。ウイルスの遺伝子を我々の体に入れることによって、細胞の中でウイルスの成分を作り、それに対する免疫を誘導するというものです。ウイルスの遺伝子情報が手に入ると、結構、短期間でワクチンが作れるという特徴がありますし、変異株が出てきた時には遺伝子配列を変えることで、対応できるワクチンを作れるというメリットがあります。

――コロナのワクチン開発は短期間で進められたが、遺伝子ワクチンだからこそできた?

それは大きいです。遺伝子情報があればそれを元にワクチンを作ることができる。ちょうど他の新興感染症で(遺伝子ワクチンの開発が)試されていた時だったんです。MARS、ジカウイルス、エボラ出血熱といった新興感染症で、このmRNAを使ったワクチンの臨床試験がちょうど行われて、人にも試されていました。このワクチンが開発されつつあるタイミングとCOVID19のパンデミックのタイミングがちょうど重なり、これだけ早いタイミングでワクチン開発ができたのだと思います。

――新型コロナが見つかって1年で接種というスピードは

いや、信じられないですよ本当。5年から10年以上かかるプロセスを1年以内で終わらせて、すでに一般の人に打ち始めているという状況は本当に考えられないです。一番はこの病気のインパクト、重大性を各国が認識したこと、遺伝子を使ったワクチンが、他のウイルスで臨床試験されていたものがあり、ワクチン開発の土壌が育っていたことがあります。あとは、巨大な研究費と開発費をアメリカなどの国がサポートしたこと。さらに数万人規模の臨床試験を短期間でやるというのはすごく難しいことで、1つの企業でなかなかできることではなく、そこのサポートもすごくあったと思います。

■“国産ワクチン”の行方

――“国産ワクチン”の開発の現状は?

大阪大学とアンジェスという企業が行っているDNAワクチンが、治験の第1/2相終了、この後第3相に入っていく。あとは我々も関与している塩野義製薬の組み替えタンパクのワクチン。去年12月から第1/2相の治験が始まっているので、年度内にそれを終え、第3相のスケジュールが組まれると思います。もう1つ、我々が関与しているKMバイオロジクスの不活化ワクチン。これはこれから治験に入る段階です。(“国産ワクチン”は)すぐに打てるという段階ではなくて、まだしばらくかかると思っています。

――年内に国産ワクチン流通の可能性は?

例えばファイザーだと第3相の治験は4万人規模で、ワクチン接種群とプラセボ(偽薬)群の2つに分けて比較するんです。有効性は(その規模の治験可能な)ある程度流行地域でないと示せないので、その兼ね合いもあり、年内に示せるかはすごい難しいです。

――収束してほしいが、治験は流行国でないと示せない

なので中国で開発しているワクチンは、自国では流行が収束していて有効性が示せず、他国で行っている現状があります。

■新型コロナワクチンの未来は

――将来的には、どのワクチンがいいと選べる時代も?

くるかもしれません。今回のように、初めて免疫をつけるのに適しているワクチンやブースターワクチンとして、(感染したことがあり)免疫があるけど、それをブースト(強化)するワクチンにはどれが適しているのか、それぞれのワクチンに適性があると思います。例えば生ワクチンだと(すでに感染して)免疫がちょっとあるとワクチン自身が拒絶されて効かないとか、ブースターには不活化ワクチンやタンパクのワクチンが適していると私は思っているんですが、そういった形で使い分けも起こるかもしれません。

■プロフィール
長谷川秀樹
国立感染症研究所・インフルエンザウイルス研究センター長。塩野義製薬などの新型コロナのワクチンと、KMバイオロジクスなどのワクチンの開発にも携わる。