専門家に聞く!新型コロナワクチンQ&A
国内で新型コロナウイルスのワクチン接種が医療従事者を対象に始まった。ワクチンにまつわる様々な疑問を、東京大学医科学研究所の石井健教授に聞いた。
■重篤な副反応は100万人に数例
――そもそもワクチンとは?
ワクチンとは、接種することでウイルスの一部を体に取り入れて、体に覚えさせ、本当にウイルスが体に入り込んだ時に強い免疫が出せるようにする予防薬のようなものです。ウイルスが体に入り込んでも、早く免疫を起こすことで体が病気にならないという仕組みです。
――ワクチンの副反応とは?
ワクチンでウイルスへの抗体ができるような反応を「主反応」という言い方をすると、それとは別の反応を「副反応」といいます。ワクチンを接種すると、ウイルスに感染した時のように体がまねをして副反応が出ます。軽いものだと打った所が腫れたり赤くなったりします。全身ですと熱が出たり悪寒がすることがあります。ひどい時はアレルギー反応やアナフィラキシーという意識を失ってしまうような反応が起きます。
ただ、普通の人はアレルギー反応やアナフィラキシーはほとんど出なくて、100万人に数例のレベルです。自分が食物でひどいアレルギー反応が起きるという方は、心配でしたら打つ前にお医者さんに相談が必要ですが、基本的に健康だったら、副反応が出てもその日のうち、次の日までに収まれば、「それはワクチンが効いた証拠だね」と言われるようなことがほとんどだと思います。
■ファイザーのワクチン有効性95%
――ファイザーのワクチンとこれまでのワクチンとの違いは?
今まではウイルスそのものを不活化といって固めたり弱めたりして使っているものがほとんどです。もしくは季節型のインフルエンザワクチンなどは鶏の卵でウイルスを作ってばらばらにして、その一部を注射したりしています。しかし、今回のファイザーのワクチンは、メッセンジャーRNAワクチンと言って、その遺伝子情報の設計図をそのまま入れるという、全く新しい形のワクチンです。
新しいタイプだけに、想定外の副反応があるのではと心配されていましたが、この1年間でものすごい数の臨床試験や安全性試験が行われて、全く問題ないと言えるほど高い安全性と予想外に高い有効性が出ました。90%以上の有効率は、はしかや風疹などの感染症のワクチンに近い有効率です。メッセンジャーRNAワクチンは技術自体は10年以上前からあり、基本的にはワクチンとして使えると考えられていたのですが、短期間にこれだけ全世界の人に打たれるような規模で感染に有効なワクチンを製造できたことに、関係者も驚いている状況です。
――ワクチン接種で期待できる効果は?
発症予防ができる効果が確認されていますが、ウイルスが付着して体の中で増殖する、つまり感染するという可能性はゼロにはなりません。ただ実験の他のデータをみていると、他者に感染させてしまうリスクは極端に減ると思います。また、我々の聞いている限り、コロナ禍で一番ストレスがかかっているのはコロナの患者さんをみる医療機関だといわれています。彼らは義務や責任感で休みもなく仕事を続けていると思います。ワクチンの効果が集団免疫も含めて出てくるのは数か月かかりますが、コロナの患者さんに関わる医療関係者が安心感を得られ、不安が取り除かれるという意味では、ワクチン接種の効果が確実に得られると思います。
さらに、重症者のほとんどが高齢者で、長期入院を余儀なくされることで医療機関に負担がかかってきました。医療従事者の次に高齢者に接種されれば、重症者を減らすことができ、医療機関への負担軽減が期待されます。
――ワクチンの効果はいつ頃から出る?
ワクチンは2回接種します。今回の場合はおよそ3週間おいて打ちますので、最初の3週間は軽く免疫・抗体も含め出てくる段階で、最初の1週間くらいはほとんど何も分からないと思います。2回目接種して2週間3週間すると、感染した人以上に抗体が出てきたり、ウイルスに対する免疫が出てきます。統計学的な数字ですが、ファイザーのワクチンは有効性が95%ということです。
しかし、将来的にワクチンを接種したほとんどの人たちが発症しなくなったり、周りの人たちを感染させなくなる状態に達するには、接種率が8割9割を超えないと目にみえた効果が出ないと思います。半年や1年でそこまで到達できるとは思えないので、コロナ前の日常に戻るにはもうしばらく先になると思っておいてください。ワクチン接種が始まっても、今まで通りの感染予防対策を続けることが大切です。
■2~3日続く副反応は要相談
――副反応が出た場合、どのような対処が望ましい?
接種した所の痛み・赤み・発熱・悪寒などであっても、あまりにも我慢できない、どんどん悪くなっていくという時には、必ず医療機関に問い合わせた方がいいでしょう。全身の症状も一晩戻らない、2日も3日も続くということでしたら、必ず医療機関に再度問い合わせた方がいいと思います。
ただ、熱が出たからといって、すぐいろんな所に電話する方が増えてしまうと、その対応だけで自治体も医療機関もパンクしてしまうと思いますので、当日もしくは翌日は様子をみる形で良いと思います。
■「2回接種が望ましい」
――ファイザー製のワクチンは、2回接種が推奨されていますが、イギリス政府が1回の接種で発症リスクが6割以上低下したことなどを確認している。石井教授の見解は?
ワクチンはやはり2回接種すべきだと思います。ワクチンの需要が高まっていて、世界的に安定的に供給が受けられない状態が起きているだけに、1回の接種で広範囲に行う提案が海外で起きているのだと思いますが、ワクチン免疫学的に2回ワクチンを打たないと高い有効性が確保できず、結果的に効果が薄れてしまうと思います。
――ワクチンは変異ウイルスに効くの?今後は?
今のところファイザーのワクチンは変異ウイルスにも有効とされています。ただし、今後どのようにウイルスが変異していくかにもよるので、そのほかのワクチンも含め、製薬会社は今後変異ウイルスに合わせた研究・開発も必要になってくると思います。
【石井健:プロフィール】
東京大学医科学研究所、感染・免疫部門ワクチン科学分野教授。国際粘膜ワクチン開発研究センター、センター長。