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宮根キャスター 震災伝える意義とジレンマ

2021年3月8日 13:45
宮根キャスター 震災伝える意義とジレンマ

東日本大震災からまもなく10年。『情報ライブ ミヤネ屋』の宮根誠司キャスターは「メディアが節目を作ってしまうことに大きなジレンマを感じる」と言う。10年前の発災時は生放送中だった。宮根キャスターは「3.11」をどう捉えているのか、話を聞いた。

■“数字”を伝える苦しさ

――地震の瞬間は『情報ライブ ミヤネ屋』の生放送中でした。

大阪もかなり揺れて、阪神淡路大震災の記憶が蘇りました。最初はどこが震源地か分からず、東京のお台場で火災が起きていると聞いて、首都直下地震かなと思いました。阪神淡路大震災の時も僕は生放送中でしたので、放送中にこんな大きな地震が2回も来るのかとびっくりしました。

しばらくして岩手県宮古市の漁港の映像が入ってきて、建物が津波でどんどん浸水していく様子が見えました。僕はその時、津波の恐ろしさというものを知りませんでしたし、映像の中には人が映っていなかったので、まさかあそこまで大きな被害になっているというのは、番組中には分からなかったですね。とにかくあの時は、夢中でしゃべっていたことしか記憶にないです。

――その後しばらく、震災の報道が続きました。

とにかく入ってくるあらゆる情報を整理して、被災された方々や、東北ご出身の方、ご親戚やご家族の方のために情報をお伝えしようというのは心掛けていました。

ただ、「亡くなった方が何人で行方不明の方が何人で」と、“数字”を伝えなければならない。でもそのお一人お一人に人生があり、ご家族や知人、お友達もいらっしゃる訳です。阪神淡路大震災の時もそうでしたが、それを単に数字として伝えることの苦しさを痛烈に感じていました。

それに加え、福島第一原発事故がありました。原発事故というものをどうお伝えするか、我々としては経験のないことだったので、すごく難しかったですね。

■テレビに出ている人間の“役割”

――被災地を取材する中で、印象的だったことはありますか?

皆さん大変な思いをされている中で、嫌な顔もされず、丁寧にお話をして下さいました。

発生から1か月ほど経って福島の避難所に行った時、被災者の皆さんから「よかったらご飯食べていきなよ」と言われました。「皆さんが食べるものを僕が食べる訳にはいきません」とお断りしたんですが、「いいから食べて」と。仕方なくいただいたら、「宮根が食べた」って避難所の中に笑いが起きたんです。

そこで、“テレビに出ている人間の役割”を感じました。月曜から金曜までテレビに出ている人間が現地に行くことで、その方々に、一瞬だけでも日常が戻る感じがあるんです。「知ってるやつが来た」という感じで、「俺たちのこと忘れてないんだ」「こいつはきっと自分たちの思いを伝えてくれる」と思っていただける。その上で、その方々の思いや状況を聞いてお伝えする。テレビに出ている人間としてできることは、それ以上でもそれ以下でもないなと思いました。

■メディアとしての“ジレンマ”

――“あの日”から10年。どんなことを感じていますか?

僕は“本当の復興”というものが何を指すのか、いまだに分からないんです。阪神淡路大震災は今もまだ復興の道半ばですし、東日本大震災では原発もまだ大きな問題があり、とても復興とは言えません。まだ復興というものの答えを生み出せていない一方で、風化させてはいけないという課題もある。この2つをちゃんと考えないといけないと思っています。

――3月11日(木)には、NNN震災特別番組『未来へのチカラ』が放送されます。

僕たちメディアは、どうしても今回の「震災から10年」のように、節目をつけてしまいます。でも被災された方々は、毎日大変な思いをされている訳です。そんな中で僕らメディアが節目を作ってしまうことには、大きなジレンマを感じています。

一方で、二度と同じような災害を起こさないための教訓を残すのは、あの震災を経験した我々の責務だと思います。日々様々な情報があふれる中、未だにあの震災で苦しんでいる方がいることを再確認することも、とても意義があると思います。決して悲しいことばかりじゃなくて、「ここまで元気になった」とか「ここまで町が戻ってきた」とか、前向きなことも含めてお伝えすることが大事だと思っています。

■コロナは“正解のない災害”

――この1年は、新型コロナウイルスという“災害”を伝え続けてきました。

阪神淡路大震災や東日本大震災では、「ボランティアに行こう」とか「物資を届けに行こう」とか応援ができました。でもコロナはその全てが制限されている。現場に足を運ぶこともできない中でどう応援して支えればいいのか、正解がない災害だなと感じています。正解がない中で、向き合い続け考え続け、伝えていくしかないと思います。

コロナは、世界中の誰もが被害者です。医療の苦しさもあるし、飲食店の大変さもある。せめて皆さんの悲しみ苦しみを100%ぶつけていただけるような、信頼されるしゃべり手になりたいと思っています。

SNSを中心に、メディア環境も震災が起きた10年前とは大きく変わってきています。情報があふれている中でも「テレビで伝えていることは信用できる」と思っていただけるように、テレビは正確性や信憑性のあるメディアであらなければいけないと思います。

特別番組では、被災された方々のあるがままの現状をそのままお伝えしたいと思います。10年経って状況や環境が変化する中で、苦しんでいる方もいれば、頑張っていらっしゃる方もいる。小さかったお子さんは成長されていますし、ご家族を亡くされた方は時が止まっていらっしゃると思います。10年という時間が経過した皆さんの現状を、そのままご覧いただければと思います。