70歳まで働き抜くには「専門バカ」はダメ
4月から制度が変わり70歳まで働ける社会になります。65歳から70歳までの期間について企業側に雇用確保の努力義務が課されることになります。一方、専門家は、働くシニア側にも「自慢話はしない」などの注意が必要だと言います。詳しく解説します。
■4月から“70歳まで働ける社会”
4月1日から改正高年齢者雇用安定法、『70歳就業法』ともよばれている法律が施行されます。これまで企業は定年を60歳としていても希望があれば65歳までは継続して雇用するなど、働く場を提供する義務がありました。4月からは、これがさらに一歩進み、65歳から70歳までの期間についても企業側に雇用確保の『努力義務』が必要となります。
■あなたは何歳まで働きたい?
街でみなさんの声を聞いてきました。
医療関係50代「可能であれば70歳くらいまでは(働きたい)。身体的にまだまだがんばれるかなっていう思いをもっているものですから、それを社会に少しでも役立てられれば」
医療関係40代「ずっと家にいるんじゃなく、仕事をやることで生きがいというか、生き生きしてる時間が長いのはありがたいかなと」
スポーツインストラクター30代「70まで働いた方がいいのかなと。年金だけだと暮らしていくのもけっこう大変かなと思うので」
保険会社が全国の20代から60代を対象に行った調査では、「あなたは何歳まで働きたいですか」という質問に対し、「65歳以上」と答えた人は合わせて35%でした。「健康である限り」長く働きたいと答えた人も24%いました。
理由について、20代女性は「何歳まで生きるかわからないので生活費獲得ため働く必要はある」と答えています。「60歳から64歳」までと答えた50代男性は、「残りの人生を元気なうちに楽しみたい」と回答。ほかにも30代女性からは「70歳で満員電車に乗りたくない」という意見もありました。
(*富国生命保険相互会社 20~60代男女 計1250人に調査)
■『70歳就業法』整備の背景
さまざまな意見がある中で、今回70歳まで働けるという法律が整備された背景は、大きく分けて3つあります。
(1)まずは『長寿』になったからということですね。2019年の平均寿命は「男性=81.41歳」「女性=87.45歳」ですが、2065年には「男性=84.95歳」「女性=91.35歳」という推計があります。
(2)2つめは、少子高齢化による社会保障費の圧迫です。かつては10人くらいの現役世代でお年寄り1人を支えていましたが、現在は2.3人で支えています。医療、年金、介護など社会保障費も膨らんでいるため、元気な高齢者は働いて支える側にもまわってもらいたいという事情があります。
(3)3つめは『労働力』不足です。建築業界など若手のなり手が少ない業種では既に人手不足が深刻となっています。
こうした社会的背景もあって、70歳雇用を始めている会社も少なくありません。今年1月に発表された厚労省の調査結果によると、全国およそ16万の企業のうち、70歳以上が働ける制度があるのは「31.5%」でした。
■企業側にも広い選択肢 違う業態で働いてもらうことも
働き方にも課題がありそうです。これまでの制度では60歳から65歳へ向かうときに、その時にやっていた仕事を継続するケースも多くありましたが、今回の改正では、幅広い選択を企業に与えています。
まず、新たに、事業主が委託や出資をしている団体で働くという選択肢です。車をつくっていた人が関連の教育事業に携わるなど、業態が違うこともあり得ることになります。
さらに、元社員の人と業務ごとに個人的な契約を結ぶという選択肢も示されています。
こうした様々なパターンが制度として整備されるようになり、活用も進んでいくものと思われます。そうした中で今までとは全く違う仕事をすることも想定しておかなければならないということにもなります。
■70歳まで働き抜くヒント…「専門バカ」にならない
70歳まで働き抜くヒントを、シニアビジネスに詳しい東北大学特任教授の村田裕之さんに聞きました。村田さんは、「一言でいうと『役に立つ人』『あの人がいると助かる』と思われる人になることが大切だ」と言います。そのために大事な点として、次の3つを挙げています。
(1)専門性を持つこと。
(2)社内外の専門家やキーパーソンを知っていること。
また、調整力があると頼られる存在になれると言います。
(3)健康と体力。
日々の健康管理を習慣化できる人が好まれます。
ただ、(1)の「専門性」については、シニアで働き続ける際に陥りがちな注意点としても挙げられていて、『専門バカ』にならないことが大切だと言います。
村田さんは、「私はこれしかできない」「私はこれが専門だから…」という発言はなるべく控えた方がいいと指摘しています。時代が変われば必要なくなる専門性もありますし、時代と合っていても、できる人はほかにもいる可能性があるので注意が必要です。そして、『自慢話』をしないことが大切だと言います。「俺の時代はこうだった」などと言いたくなることもあるかもしれませんが、そこはグッと堪えたほうがいいですよ、とアドバイスしてくれました。
村田さんによると、こうした傾向はトップよりも中間管理職に多いということで、組織の肩書きを背景に仕事をすることに慣れてしまっていて、無意識のうちにこうした態度が染みついてしまっていることがあるそうです。自慢話などをすることで、若い人のモチベーションを下げてしまうことがあるので注意が必要だそうです。異なる世代と共通の課題を一緒に解決しようとする姿勢が大事だと話していました。
長く働ける時代になる中、働くことが生きがいになり、元気になるという調査結果もあります。自分が役立つことはなんなのか、本人に気づいてもらったり、気づく機会を与えたり、企業側も引き出す努力をしていくことが重要です。
(2021年3月29日16時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)