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ハイヒール履く僧侶 西村さんの軌跡と思い

2021年5月21日 18:02
ハイヒール履く僧侶 西村さんの軌跡と思い

LGBTQの当事者として、書籍の出版やレインボーステッカーの作成など、啓発活動に取り組む西村宏堂さん(32)。メイクアップアーティストで僧侶という異色のキャリアの持ち主でもある。西村さんがLGBTQを啓発する理由と、目指す社会とは。

■仏教はLGBTQを認めている

70か国以上―。2019年時点で同性愛が違法とみなされる国の数だ(※「難民研究フォーラム」調査)。その他の国でも、LGBTQへの差別は依然として多い。学校でのいじめや就職活動での不利益など、当事者は様々な困難を抱えている。

これらの問題を解決するため、西村さんが力を入れているのが、仏教界における啓発活動だ。全日本仏教会とともに、レインボーステッカーを作成。性だけでなく、人種の平等もうたったデザインとなっている。賛同する寺院に配布し、お寺の門や掲示板に貼ってもらう。一般の人もオンラインで購入でき、ステッカー画像もダウンロードできる。

「私は仏教関係者から、同性愛者であることを理由に差別的なことを言われた経験があります。仏教関係者にLGBTQについて正しく知ってもらうだけでなく、世界の人に仏教の平等性を伝えたいです。お寺に来る当事者の方々が安心して、プライバシーが守られた状態で相談できる環境を増やせればと考えています。2000年以上の歴史がある仏教がLGBTQを認めていることは、説得力があると思います」

西村さんは、他にもメイクアップアーティストと僧侶という立場から、講演やファッションショーのモデルなど、幅広い活動を行っている。

■私らしく生きてもいいんだ

浄土宗の寺に生まれた西村さん。自身の性に疑問を抱いたのは幼稚園の頃だった。皆の前で着替えることを恥じらい、カーテンに隠れて着替えていた。年を重ねると、男性が男性を好きになることをタブーに感じたという。

「生物的には男性である自分が、男の子を好きになるなんて、まるで自分が犯罪者であるかのごとく異常な存在と思われることを恐れ、どうにかして隠さなければと思いましたね」

隠すのは簡単ではなかった。高校では、自分のセクシュアリティを気付かれるのを恐れ、心を閉じてしまった。我慢の限界を感じた西村さんは、英語を勉強してアメリカへ留学。自分らしく生きられる場所を求めて環境を変えることを選んだのである。

ニューヨークで大好きなメイクやアートを学び、メイクアップアーティストとしてのキャリアを歩み始めた西村さん。異国での経験に価値観を大きく揺るがされた当時を振り返る。

「大学の先生が同性愛者を公表していました。他にも自分と同じ悩みを抱えながら、それを乗り越えて生きる人たちに出会ったんです。ニューヨークでは『LGBTQの人が堂々と生きることは正しいことなんだ』とされていました。私がLGBTQを隠さなければいけないと思っていたのも、偏った価値観にとらわれていたと気づきました。私らしく生きてもいいんと自信を持ちました」

■メイクをしても、ハイヒールを履いても、僧侶になれる

ミス・ユニバース世界大会でのメイク担当など、メイクアップアーティストとしてキャリアを順調に築いた西村さん。あるとき、自分のルーツである仏教を見直すようになった。

「子どもの頃は『将来はお寺を継ぐの?』と言われるのが嫌で、ずっと仏教が嫌いでした。でもそれは僧侶という職業への偏見ではないかと思うようになりました。自分自身が何者であるかを知るためにも、自分のルーツである仏教を勉強するべきだと思ったんです。私の父は大学教授と僧侶を両立しているから、自分もメイクアップアーティストを辞める必要はないはず。まずは仏教が何なのかをちゃんと知ってみようと修行を始めました」

修行はとても苦しかった。朝は早く、お経や歴史を覚えなければいけない。心が折れそうになった。何より悩んだのは、ありのままの自分が僧侶として認められるかどうかだった。
LGBTQである自分。自分らしいメイクやファッションを楽しめるようになったし、ハイヒールも履きたい。そんな自分が僧侶を名乗っていいのだろうか。誰かに迷惑がかかるのであれば僧侶になるべきではないのでは。葛藤は増すばかりだった。

意を決して、高名な僧侶の先生に相談した。すると「今の僧侶は様々な職業に就いています。医師をしている人は白衣を着る。スーツや時計を身につける人もいる。どんなものを身につけたとしても、皆が平等に救われるという仏教の教えを伝えられれば問題ない」という答えだった。西村さんはその言葉に救われたという。

「人はルールや伝統に重きをおいてしまいがちです。でも、そのせいで大事なことを見失うこともあります。お坊さんとして、いつも衣や作務衣を着ていなければならないのではなく、どんな格好でも大切な役割を果たすことができる。先生はそのことを正しく認識していらっしゃったのです。自分らしいままで僧侶になってもいいんだと勇気が出ました」

その後、先生に紹介されたお経『阿弥陀経』の中にある「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光」という一節にも、勇気づけられたという。

「極楽には色とりどりの蓮の花が咲いている。青い蓮の花は青く、黄色の花は黄色く、赤い花は赤く、白色の花は白く輝いている。それぞれの花がそれぞれの色で輝いていることが素晴らしいという意味です。これはまさに仏教が多様な人の生き方を称えている内容です。仏教が説く平等の教えがもっと広まれば、多様な人が生きやすい社会になるのではと感じました。これはLGBTQの当事者でありメイクアップアーティスト、そして僧侶である私だからこそ、発信していけると思ったんです」


■異なる価値観を分かりあえる社会を目指して

今後は仏教徒を中心にLGBTQの啓発をするのかと問うと、否定の言葉が返ってきた。

「仏教徒にかかわらず、世界の人に私の経験や学びをシェアしていきたいです。世界には色々な宗教があり、その教義によって苦しんでいるLGBTQの人もいます。私は他の宗教に対して意見を述べる立場にはありませんが、仏教では全ての人が平等であると教えていることを伝えていきたいです。来年私の本の海外出版が決まったので、多くの人にメッセージが届くとうれしいです」

最後に、西村さんが理想とする社会について聞いてみた。

「どんな場所でも、自分らしく、好きな装いで、自分の思ったことを言える。そして、それを互いに祝福しあえる社会が理想だと思います。そのために私が自分らしくいる幸せについて発信し続けていきます」


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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。