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【NNNドキュメント】あなたが私を忘れても… "若年性認知症"と夫婦の思い NNNセレクション

2023年11月4日 16:39
【NNNドキュメント】あなたが私を忘れても… "若年性認知症"と夫婦の思い NNNセレクション

全国600万人以上といわれる認知症の当事者。65歳未満で発症する若年性認知症は、働き盛り世代の経済面・精神的な問題を浮き彫りにしています。認知症の進行を抑える治療薬の実用化が加速する中、今を生きる若年性認知症・当事者たちの姿に光を当てます。

わたしのこと、まだわかる?

加藤雅津美さん
「見える? 海ですよ。まーちゃんちょっと目を開けてみてよ。ねえ、まーちゃん。前に来たときは、あの先のホテルに泊まったんちゃう? 覚えている?」

加藤正哉(かとう・まさや)さんが、若年性認知症を発症したのは9年前。百貨店や外資系の製薬会社で経理を担当していました。妻の雅津美(かつみ)さんが、異変に気づいたのは、転職のために面接を受けた日のことでした。

雅津美さん
「会社から電話があって『先方さんが怒っている』と。『(正哉さんが)遅刻してきたのに何の挨拶もない。どういうことでしたか?』って。ビルにはたどり着いたけど、どの部屋なのかわからなくて、『これはおかしいやろ』って」

最初の診断では認知症は見落とされ、ストレスによる心の不調だと診断されました。

雅津美さん
「『会社を退職したことによる うつ症状だ』と。『どうもない』とおっしゃった。脳がどうもないんやったら、気持ち的なことだったら何とかなると」

認知症と診断されるまで3年かかりました。経理の仕事を続けたいと願いましたが叶いませんでした。ようやく見つけた介護の仕事で、送迎の手順を忘れないために書いたメモ。

雅津美さん
「このノートを書いてはビリビリ破って。これが破った後のノートなんですけど、どっさりある。覚えている? これ?」
「これ まーちゃん書いたんやで」
「真面目なんです。働かなあかんと。ありがたいことなんですけど、私を養わなあかんと。その3年間が本当に…いま、ご飯を食べられなくなったりとかいろいろあるんだけど、その時の彼の頑張りが…本当に尊敬しています。すごいです」

失われていく記憶を何とか留めようと、闘った証。

ある日突然、そして少しずつ以前と同じことができなくなる現実。

♢♢

夏、正哉さんと 妻の雅津美さんは、"思い出の水族館"を訪ねることにしました。

雅津美さん
「私がショーに参加した時の写真なんですけど。雨で観客が少なくて、私がショーに出る羽目になったんですけど。この時のことをいつまでも言ってましたね。『あんなところ出て恥ずかしい』と言いながらも写真を撮ってくれてたので。楽しかったと思います」

写真を撮ることができなくなった正哉さん。雅津美さんは、同じ認知症の下坂厚さんに、旅の記録係をお願いしました。夫婦で積み重ねてきた26年。一緒に振り返ることができるのは、夫の正哉さんだけ。13年前、シャッターチャンスを逃すまいと目を凝らした"ステージ"です。

雅津美さん
「たぶん…涙を流していたんですよね。目を開いて見ていた。何か思い出したかなと思いました」

♢♢

認知症になると、いずれは記憶を失ってしまうのでしょうか。

雅津美さん
「『私の名前をこの頃は呼ばないけど、わかっている?』って聞いた時に、その時に、すごく『わるっ!』っていう顔をしたんですよ」

正哉さん
「ちょっと待ってくださいよって(笑)」

雅津美さん
「『わるっ!』っていう顔をした。その時の顔が出てこないけど、出てこないことは悪いこととわかっていた。しまったという顔をした。たぶん私の名前は出てこなくても、わかっている。絶対わかっている。全然忘れていないっていうのは、自信があります」

『記憶は、失われるのではなく、思い出が仕舞ってある引き出しが、うまく開かなくなっただけ』雅津美さんは、そう確信しています。

雅津美さん
「『どういう生活したいですか?』と、ケアマネジャーさんが(正哉さんに)聞いた。『(妻を)自由にしてやりたい』と言った。それに感動して。(夫)らしいなと。最後まで見なしょーがないなという気にさせてくれたね」

正哉さん
「ありがとう」


2023年9月10日放送 NNNドキュメント'23『私のこと、まだわかる?~夫は若年性認知症~』をダイジェスト版にしました。