【NNNドキュメント】消えゆく記憶… "若年性認知症"の夫 寄り添う妻との時間 NNNセレクション
全国600万人以上といわれる認知症の当事者。65歳未満で発症する若年性認知症は、働き盛り世代の経済面・精神的な問題を浮き彫りにしています。認知症の進行を抑える治療薬の実用化が加速する中、今を生きる若年性認知症・当事者たちの姿に光を当てます。
わたしのこと、まだわかる?
下坂佳子さん:「自分の存在もそうだし、出会ってから今までのこととか、いろんなことがありましたよね。でもそれも忘れてしまうのかなと」
下坂厚(しもさか・あつし)さん。2019年の夏、46歳の時に若年性認知症と診断されました。
厚さん:「目の前が真っ暗になるというのはこういうことかと。職場に迷惑をかけたらあかんと思って『辞めます』と伝えて。死んだ方が住宅ローンもなくなって、病気のことも考えなくていいし、いっそ楽かなと考えていました」
落ち込んで、悩んで、少しずつ分かってきたことがあります。
「認知症になっても、人生は終わりではない」
厚さん:「診断を受けて2年にもなると、やっぱり失敗をずっとし続けるので、いろんなところで。でも、ふと考えたときに道を間違えたところで、何とか家に帰れているし。忘れたり間違ったりもするけど、生きていく上では大きく言えば、"かすり傷"みたいなもんかな」
厚さん:「忙しいよ。来週はイベントもあることだし。今度、何日かしたら、新潟に行かないといけないし」
佳子さん:「その他にもイベントがある」
厚さん:「あるな」
佳子さん:「仕事以外で何か大事なこと忘れていない?」
厚さん:「え?」
佳子さん:「11月で仕事以外でイベントで大事なこと」
厚さん:「仕事以外?11月やろ?何や?」
佳子さん:「ちょうど真ん中ぐらい。絶対忘れないと笑っていたけど忘れています」
厚さん:「忘れていないよ。そんなワケないやん」
佳子さん:「楽しみにしておくわ」
厚さん:「何をや?」
佳子さん:「11月15日ってヒントをあげている」
厚さん:「あぁ、アレね」
佳子さん:「あ、適当や」
厚さん:「知ってるよ。忘れたことない」
佳子さん:「知っているよと言って違っていたらびっくりする」
◇◇◇
認知症と診断された後、支援機関の紹介で高齢者施設のケアワーカーとして働き始めました。
厚さん:「どこか行きたい所ありますか?」利用者:「琵琶湖」厚さん:「琵琶湖ええな。ドライブ行きましょうか」
20年以上、鮮魚店で働いていました。異変が起きたのは、働き盛りの40代のとき。
厚さん:「お客さんの注文を忘れるとか、仕事の手順がわからなくなるとか、普段一緒に働いている従業員の名前が出てこないというのは、明らかにおかしいなと」
物忘れ外来を受診すると、アルツハイマー型の若年性認知症だと診断されました。年上でしっかり者で佳子さんと6年前に結婚。認知症だと分かったのは、その2年後のことでした。佳子さん:「たぶん主人の場合は(進行が)緩やかかなって思っているから…ちょっとずつ慣れてくるというか、心の準備ができるみたいな」
厚さんが趣味で撮る写真。ただ…診断の後は、撮る写真の"意味合い"が少し変わりました。
厚さん:「写真ではあるが、自分が見たまま、自分のその時の記憶。それが無いと、今はそのとき何をしていたのかわからないので」「こう見たら、食べた後なんだなと分かるが、それぞれの器があって、何が入っていたのか、食べた後に分からないという(笑)。だけど、ここにサンマの頭があるということは、サンマを食べたんだなというのは分かる。他は何を食べたかわからないということは…味もわからない(笑)奥さんに怒られます(笑)食べているときは、たぶんおいしいなと思いながら食べている」
佳子さん:「味とかどうでもいいと思っているでしょ(笑)」
◇◇◇
認知症になって4年。ケアワーカーとしての働きぶりが評価され、正社員になりました。得意の写真が仕事につながり、新たに広報の仕事を担当しています。
厚さん:「上!上!そのまま上。どこに行くんだ」
わたしのこと、まだわかる?
厚さん:「いきます。はい、いいですか。はい笑って」
佳子さん:「いま私の存在は、わかっているやろうな」
厚さん:「ハハハ(笑)」
佳子さん:「また笑いでごまかす!」