【首都直下地震シナリオ④】自宅で生活を続けるにはどんな課題がのし掛かるのか?
巨大地震が発生したのち、避難所に避難するのか住み慣れた自宅に留まるのか、大きな課題です。たとえ自宅が倒壊を免れ、自宅で生活を続けることができても様々な困難が圧し掛かってくる状況が、東京都が見直した首都直下地震の新たな想定の中でシナリオとして示されました。
■自宅での"避難生活"がスタート
強い揺れに襲われたものの、幸いにも自宅は大きな被害がなくて周囲に火災などの危険もない、備蓄もある程度あるというケースでは自宅で余震などに備えながら生活を続けることになります。特に中・高層階のマンションに住む人たちは、エレベーターが停止することによって地上との往復が困難となるので、あらかじめ水や食料、簡易トイレなどを備蓄しておいて在宅避難をするケースが多くなると想定されています。
■ライフラインや物流のストップが大きな足かせに
自宅で生活を続けるうえで大きな足かせになるのがライフラインのストップです。広域で発生する停電の影響は多岐にわたります。停電すると照明だけでなく冷蔵庫やエアコンも使えませんしテレビを見ることができず、情報収集も困難となります。エレベーターも使えなくなってしまいます。家族などの安否を確認するために重要なスマホなどの充電もできなくなってしまいます。
こうした場合、自動車でテレビやラジオをつけて情報収集するケースも多くなるとみられます。さらに車用の充電器を持っていれば携帯電話などへの充電も可能になります。車で過ごしていれば、余震など大きな揺れによる建物の倒壊の被害も避けられ、情報収集なども可能となることから、これまでの大きな地震の際にも地震発生直後に車で過ごす人が多くいました。ただ、停電が長く続く可能性も高いので、ガソリンをうまく節約して使っていかないとすぐにガス欠になってしまう可能性がありますし、車中泊避難ではエコノミークラス症候群の危険もあるので注意が必要です。
上下水道の被害も深刻です。上水道は揺れの強い地域や液状化した地域を中心に断水が発生、管路の被害によって23区部で約3割、多摩地域で約1割の水道が断水する想定です。応急給水も始まりますが、断水世帯数が多いため給水拠点に多数の住民が殺到して長蛇の列となるとみられます。夏場には炎天下で給水を待つ被災者が熱中症などになる可能性もあるのです。水道管が大丈夫でも、高いところに給水用の水槽が設置されている住宅やマンションなどでは、停電するとモーターが動かないため水が汲み上げられずに水道が使えなくなってしまうので注意が必要です。
トイレの問題も深刻です。下水道の被害は、都内全体の数%で利用が困難となる見込みで、このエリアではトイレが使えなくなってしまいます。また、停電・断水した地域では、自宅の建物に被害がなくてもトイレの使用が困難となります。周辺の公園や避難所などに仮設トイレが設置されるまでは被災者自身が携帯トイレなどで対応するしかありません。また、オフィスビルやマンションなどの集合住宅では、過去の地震の際にも排水管が損傷して汚物が途中階であふれてしまう被害が多く発生しています。建物の所有者や管理会社による排水管などの修理が終了するまでは、たとえ水道の供給が再開されていてもトイレが利用できないことに注意が必要です。マンションなどでは地震が起きたらどうするのか事前にルールなどをよく話し合っておくことが重要です。
ガスについては、各家庭にほぼ100%設置されているマイコンメーターが震度5弱程度以上の揺れを感知すると自動でガスを遮断します。揺れの大きかった地域では、建物内や家庭内のガス管が被災している場合があり、一戸一戸個別に安全点検・復旧作業が必要で、多くの利用者がこの作業が完了するまでガスが利用できなくなります。
地震後は物流がストップすることによって市内で物を買うことが厳しい状況が想定されます。「都心南部直下地震」では区部のみならず比較的揺れが小さい多摩地域においても必要以上のまとめ買いなどによって、スーパーやコンビニエンスストアで飲食料や生活必需品、防災用品などが数時間で売り切れ、住民が物資を確保することは当面困難となる見込みです。
■自宅で生活していても救援物資はもらえるの?
自宅で生活を続ける場合、備蓄が底をついてきたうえ物流がストップしてしまいスーパーなどで物を買うこともできず、飲み物や食料などの救援物資をもらいたいという状況になることも想定されます。また、自宅に留まることができずに避難する場合でも、指定避難所が満員となって避難所に入れなくなった人たちは民間施設や神社や寺などの場所を探して避難所以外の場所にまとまって避難するケースも想定されています。
こうした人たちも水や食料などの救援物資が必要になります。避難所以外にいる人たちはどうやったら自治体の支援を受けることができるのでしょうか?東京都によると、自宅で生活を続ける人や自分たちで集まって避難している人たちにも必要な場合には食料などの支援を提供するということです。しかし、指定避難所以外にできた避難所などを区市町村が把握できず、当初、水や食料などの物資が配給されない事態が発生すると見込まれています。こうした人たちは、自分たちがどこに避難しているのか、そして支援を必要としていることを速やかに地元の区市町村に伝えることが重要となります。
■数日が経過すると…
地震から3日ほど経つと、家庭内に備蓄してあった物を使い切ってしまって生活できなくなり、時間が経つにつれて避難所に避難してくる人が増えてきます。生活ごみや震災ごみが回収されずに取り残されたり不法に捨てられたりして、悪臭などの問題が発生してきます。
また大きな余震が続く場合、自宅で避難している人も不安を感じて車中泊やテントなどを使って屋外に避難することが想定されますが、冬場は体調悪化による被害の拡大も懸念されています。
電力の再開も始まっていますが、電気を開通させる際には通電火災に注意が必要になります。通電火災は電気が戻る際に倒壊した家屋などでショートを起こして火事になるもので、地震後に多く発生します。これを防ぐためには各戸の状況を細かく確認して電気を通す必要がありますが、電力会社の人員が不足したり居住者が不在で室内の確認ができなかったりすると電気の復旧が遅れることにもなります。
■時間の経過とともに体調を崩す人が増加していく
避難生活も1週間ほど経つと自宅に留まっていた被災者も避難生活の長期化に伴って生活不活発や避難生活上のストレスにより、体調を崩したり悪化させたりする人が増加します。高齢者などは動かない状態が続くことによって筋力の低下や関節等の痛みを発症することになります。それによってさらに心身機能が低下し、体調が一層悪化する場合もあるということです。
また、テントや車中泊などの野外で生活する人が、衛生環境が整っていないために体調を崩したり、エコノミークラス症候群を発症したりすることも想定されます。一部損壊の家屋でも、屋根の修理などが遅れて雨漏りがおきると室内環境が悪化し、体調を崩す可能性があります。
時間経過とともにトイレの問題も広がります。断水や停電が継続している地域では、トイレ機能が喪失したままとなるため、避難所や公園・公共施設の敷地といった公共の場所に仮設トイレが大量に設置されることになります。特にタワーマンションが立地するなど人口が多い地域では、地域内の避難所などに設置された仮設トイレの使用人数も膨大となるため、汲み取りなどの処理の必要回数が多くなり、し尿処理に係るバキュームカーや職員が不足することも指摘されました。
さらに1か月ほどが経過すると、心身機能の低下により、生活不活発病となるなど、体調を崩す人がさらに増加していきます。そして自宅の再建や修繕を望んでいても、建設業者や職人が確保できない可能性があるとしています。