「経営陣は知らなかった」「報告を受け、がく然とした」「本当に許しがたい」ビッグモーター・兼重社長が会見 経営陣の関与を繰り返し否定
保険金の不正請求問題を受けて、中古車販売大手「ビッグモーター」の兼重社長が25日に初めて会見を開きました。従業員の不正行為について、兼重社長は「知らなかった」と繰り返し、「がく然とした。許しがたい」と話しました。
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25日午前11時すぎ。“不正行為”が白日の下にさらされて以降、初めて企業のトップが公の場に姿を見せました。
ビッグモーター 兼重宏行社長
「経営のトップとしての私の責任だと、極めて重く受け止めており、責任を痛感し、深く反省しているところです」
中古車販売大手「ビッグモーター」の兼重宏行社長が口にしたのは“自身の責任”という言葉でした。深く頭を下げ、謝罪しました。
ビッグモーター 兼重宏行社長
「このたびは誠に申し訳ございませんでした」
修理に出された車を、工具を使ってひっかいたり、ゴルフボールを靴下に入れて車体をたたいたり。ビッグモーターは車体にわざと傷をつけるなどして、損害保険会社に対し“保険金の不正請求”をしていたことが明るみに出ています。少なくとも1275件、約4995万円を水増し請求していたといいます。
これまで会見が行われなかった理由については、“認識の甘さ”があったと説明しました。
ビッグモーター 兼重宏行社長
「私の認識の甘さが原因だったと思います。役員の処分と再発防止等を開示すればもうそれでいいと。『全然、これでは説明責任を果たしていない』というお声がたくさん寄せられましたので、これでは十分じゃないなということで、今日、この日の記者会見を段取りしました」
まず問われたのは、不正行為を経営陣が知っていたかどうかです。
ビッグモーター 兼重宏行社長
「ほかの経営陣は知らなかった。これが事実だと思います。報告書をうけて、本当…耳を疑った。こんなことまでやるのかとがく然としましたね。大事な大切なお客さまの車をお預かりして、これから修理する人間が傷をつけて水増し請求をする。あり得んですよ、本当に許しがたい」
「ゴルフボールを靴下に入れて振り回して『ひょう害車』の損傷範囲を広げて水増し請求する。本当に許せません。ゴルフボールで傷をつける。ゴルフを愛する人に対する冒とく。刑事告訴を含む厳正な対処をしたいと考えています」
「経営陣は誰も知らなかった」と説明。「不正を働いた従業員に対し刑事告訴を検討する」と発言しました。
――社長を含め、経営陣が知らなかったのは信じられないのですが…
ビッグモーター 兼重宏行社長
「天地神明に誓って知らなかったといえます」
また、不正が“組織ぐるみ”だったのかを問われると――
ビッグモーター 兼重宏行社長
「私は組織ぐるみではないと思っていますから。個々の工場長が、この原因は工場長が指示してやったんじゃないかと。報告書を見ると40%。手を染めたのが104名いたと書かれていますけど、組織的と思われてもこれはいたしかたないですけど、決してそんなことはありません」
工場長による指示で“組織ぐるみ”ではないと強く否定しました。
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では、なぜ不正が横行したのか。その背景にあるとされるのが「修理費用の目標値」です。ビッグモーターでは、車1台あたり14万円前後に設定されていて、プレッシャーに耐えかねた工場長らを中心に不正が広がったといいます。
この点について指摘されると、修理費用の目標値は“勘違い”で生まれたもので、会社として定めたものではないと説明しました。
――修理代金は事故の重大さによるもので、コントロールするものではないと思うが
ビッグモーター 兼重宏行社長
「まさにおっしゃる通りで、目標を決める、そんなのは不合理の極みでありまして。勘違いした本部長が…、誰も文句が言えなかったんでしょうね。何を勘違いしたかわからないんですけど、それで運用されていたと。びっくりしますよね、小学生でもわかる理屈ですから」
ビッグモーターを巡っては、“降格人事”も問題になっています。ノルマを達成できない場合、厳しいペナルティーが課せられたと言いますが――
ビッグモーター 兼重宏行社長
「人事に関しましては『抜てき人事』です。この人だったらできるだろうという『抜てき人事』です。仕事をやってもらって、『ちょっとまだ十分な力がないね』という場合はすぐ降格します。すぐ敗者復活、その繰り返しで、これを一つの社員教育の一環と思ってやっていましたので。ちょっといきすぎだったのかもわかりませんけども、悪意を持ってやるということは一切ありません」
会見は、まるで“ひとごと”のような無責任な発言が続きました。記者からは厳しい指摘も飛び出しました。
――ご認識として社長自身は被害者なのか加害者なのか
ビッグモーター 兼重宏行社長
「不正請求の問題は、私の管理不足でこういうことを招いてしまったことは、私どもの責任と考えております」
――加害なのか被害なのか
ビッグモーター 兼重宏行社長
「おっしゃる通り、加害者」
会見冒頭では、兼重社長は刑事告訴について話していました。会見が終わるころ突然――
ビッグモーター 兼重宏行社長
「先ほど刑事告発うんぬんをお話ししましたけども、ご質問を受けて今考えてみると、その責任も私がある。そこまで(刑事告訴)する必要がないと考え直しますのでお伝えします」
会見で兼重社長は息子の宏一副社長とともに、26日付で辞任することを発表しました。会見に同席した和泉伸二専務が新社長となるということです。
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一方、水増し請求されていた損保会社で、ビッグモーターに多数の出向者を出していた損害保険ジャパンの社長が私たちの取材に応じました。
損害保険ジャパン 白川儀一社長
「不正行為が行われている現場には、立ち入りをさせてもらっていないのが実態。私どもが知りようがなかった。会社・査定部門全部含めて、会社として見抜けなかったことは申し訳ない」
出向者の中には、不正行為が確認されている時期に板金塗装部門の担当部長を務めていた人もいました。損害保険ジャパンは原因を究明するとしています。
ビッグモーターの会見をうけ、経済同友会の新浪代表幹事は――
経済同友会 新浪剛史代表幹事
「こういう経営をされてきたこと、私自身、また多くの経営者が遺憾に思っているんではないかなと」
ビッグモーターの不正問題は今後、国交省や金融庁も調査を行っていくとしています。全容解明とともに、被害を受けた客への対応や経営改革などが焦点となります。