職場や学校への復帰も…補助人工心臓の治療の今と課題とは?
去年4月、国内で、心臓移植を前提としなくても、植え込み型の人工心臓による治療ができるようになりました。9月23日から京都で開催されている学会で、この治療の第一線で活躍する東京大学の波多野将医師は、教育講演を行い、社会復帰を遂げた患者について紹介し、「できる限り生活の質を保つのが、この治療の目標」と話しました。
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9月23日から京都で「第70回 日本心臓病学会学術集会」が開催され、東京大学医学部附属病院 高度心不全治療センター センター長・准教授の波多野将医師が、「補助人工心臓の適応と現状」について教育講演を行いました。
これまで、重度の心不全の患者は、心臓移植の登録をした上で、補助人工心臓による治療を受けていました。
しかし、去年4月末に適応が拡大され、年齢や腎機能などの基準をクリアした患者は、心臓移植を前提としなくても、補助人工心臓による治療が受けることができるようになりました。
この治療は、現在、東京大学や千葉大学など7施設で行われていて、順次拡大していくということです。
補助人工心臓は、体の外に設置するタイプから、現在は、体の中に植え込むタイプが主流となっていて、この変化により、感染症などの合併症は減っているものの、「補助人工心臓を装着しているにもかかわらず再度心不全を呈してしまう、晩期心不全などの合併症をいかに解決していくかが今後の課題だ」と波多野医師は、指摘しています。
また、体の外に設置する補助人工心臓は、入院が必須となっていましたが、植え込み型が主流となったおかげで、治療しながらでも退院することも可能になりました。
また、東京大学における補助人工心臓の手術後の5年生存率は83%で、日本が世界で一番の成績だということです。
こうした中、移植を前提としない補助人工心臓の治療は、「終わりの始まりでもある」と波多野医師は話しています。
補助人工心臓を植え込んだまま死亡することが前提となり、将来、胃ろうをするのか、人工呼吸器をつけるのかなど、「どのような“終わり”にするのか考えないといけない治療」だと指摘しています。
座長をつとめた東京大学大学院医学系研究科・心臓外科の小野稔教授から、退院後の生活の質=QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を保った生活をどれだけ送れているのかについて問われると、波多野医師は、「この治療は社会復帰をしていただくことを目標にしている」と話し、治療を受けた患者が、職場への復帰や大学に復学した例をあげました。
波多野医師は、「できる限り生活の質を保つのが、この治療の目標なので、多くの方にそうしていただけるように願いを込めて治療している」と話しています。
一方、心臓移植については、ドナー(提供者)不足が指摘され、移植を待つ患者は毎年増加しており、移植までに平均して6年~7年の時間が必要になるということです。