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「200m平泳ぎは自分の種目」岐阜出身・今井月選手、プライドをかけたパリ五輪への挑戦

2024年3月20日 18:00
「200m平泳ぎは自分の種目」岐阜出身・今井月選手、プライドをかけたパリ五輪への挑戦
岐阜県出身・今井月選手

パリ五輪をかけた、一発勝負の戦いが始まる。
「平泳ぎにはすごく自信を持っている。誰にも譲りたくない、すごくプライドがある種目」そう語るのは、岐阜県出身・今井月選手。移籍、フォーム改造、食事改善、過酷なトレーニングなど、五輪出場に向けてコーチと二人三脚で歩んできた月選手。彼女が掲げる“プライド”の裏側には、底知れない努力と強い覚悟がみなぎっていた。

自己ベスト更新!約6年ぶりに日本代表へ

ついに始まった競泳のパリ五輪選考会。100mバタフライでは、高校2年生の新星、愛知県刈谷市出身の平井瑞希選手が五輪への切符を手に入れ、池江璃花子選手が“復活の泳ぎ”で代表内定を勝ち取った。
その池江選手と同い年で親友。平泳ぎで決勝進出を決めたのは、岐阜市出身の今井月選手だ。2021年、東京オリンピック出場を逃し、一時は引退も考えたという今井選手。それでも、“今井月”としてのプライドのため、自分を信じてくれる指導者のもとへ移籍。もう一度、平泳ぎと向き合うことを決めた。

月選手のコーチ・飯塚正雄氏は、「(月選手は)とんでもない才能を持っているので、平泳ぎは本当に天才」と彼女の才能を高く評価。その言葉を意味を証明するかのように、月選手は去年4月の日本選手権で自己ベスト更新し優勝。約6年ぶりに日本代表に返り咲いた。そして去年7月には、初めて平泳ぎで世界選手権に出場。さらに、去年9月のアジア競技大会では銅メダルに輝くなど、月選手にとって“完全復活”の1年となった。

「思い通りじゃなかった」地元・岐阜で明かした本音

去年11月、久々に帰省した月選手。馴染みのマッサージ屋で心身ともにリラックスしたあと、帰りの車中で本音を明かした。世界を経験した2023年。“完全復活”を遂げた1年だったが、月選手からは「(2023年は)微妙だった」と予想外の答えが。
「自分の中では去年1月からうまくいってる感じがなくて。しっくりきてないまま、4月の選考会を迎えて日本選手権はなんとか代表に入れたけど、世界選手権も決勝に進めず、思い通りじゃなかった」と話した。続けて、「やばいなと感じたのは、世界との体格差。小学生が一緒に泳いでるみたいだと周りから言われた」と当時の心境を明かした。

国際舞台を経験したからこそ感じた世界との差。肉体改造を目指し、食事から改善。もっと体を大きくするため、カロリーの多い食生活へと変えた。これまでは試合前に体重を落とし、コンディションを崩すことが多かったという。さらに、ウエイトトレーニングの時間を増やし、筋力を強化。「いま(体重は)58㎏ぐらいあります。世界選手権のときは、52~53㎏しかなくて。(今は)太もも周りが太くなりましたね」と変化した体格について話した。

勝負の1年!ライバルたちとの前哨戦へ挑む

2024年1月2日、東京のプールで練習をスタートさせた月選手。パリ五輪に向けた1年が始まった。初日ということで、泳ぎを確かめながらかと思いきや、早くも全力モード。「今年はパリ五輪の年になるので、人生かけた1年だと思っている。去年よりも自信をもって3月の選考会に臨みたい。そのためにも1月の試合から勝ちぐせをつけていきたい」と2024年への思いを語った。
今年1月21日、その第1弾となる「KOSUKE KITAJIMA CUP2024」に出場。長年、200m平泳ぎを牽引し、代表争いをすることになるライバルたちと今年最初の勝負だ。レースは激しい争いとなり、勝負の行方はラスト5mに託されるほど接戦に。
レースを制したのは渡部香生子選手。月選手は2位となったが、手応えを感じていた。「後半バテながらも体は動いていたので、2分23秒が出るかと思っていたので、このタイムで少し悔しい」と悔しさを滲ませた月選手。しかし続けて、「しっかりいい感覚で泳げたので、いいスタートになった」と前向きな思いで締めくくった。

支え続けた父「娘の水泳を楽しみたい」

岐阜県にある月選手の実家を尋ねると、「いらっしゃいませ!」とビールを注ぐ父・博美さんの姿が。なんと、実家を改築し居酒屋をスタートしていたのだ。8歳の誕生日に母を亡くした月選手を、男手ひとつで育てあげた博美さん。月選手が15歳でリオ五輪出場を決めたときも、東京で生活を始めてからも、試合があると会場に駆けつけ、いつも試合は会場で応援。ずっと娘を支え続けてきた。

「私よりも期待してますから。私の事を」と、父・博美さんについて語る月選手。博美さんは今後について、「もうちょっと娘の水泳を楽しませてほしいからね。(月選手が)水泳を辞めちゃうと水泳ロスになっちゃって。俺も暇になっちゃうから」と話す。

続けて、「やっぱり日本記録を出してほしい。今も残っている彼女の学童記録にプラスして、日本記録を出せばちゃんと育ってきた選手なんだと記録で残るからね」と娘の未来に期待を寄せた。

コーチと二人三脚で“泳ぎ改造”

今年1月、雪が残る長野県。酸素が薄い標高1,700mの地で、月選手は高地合宿を行っていた。パリ五輪内定の切符をつかむには、派遣標準記録2分23秒31を突破し、2位以内に入らなければならない。そのために、この合宿で強化していたのは「フォーム改造」。フォームについて、月選手は「今までは背中を使うのがうまくなくて。上半身の動きは、肩甲骨からしっかり前に出すことを意識しています」と話す。

新しいフォームの参考にしたのは、200m平泳ぎ世界記録保持者の、ロシアのエフゲニア・チクノワ選手の動き。チクノワ選手の動きについて、「すごく背中が動いているような、肩が上がるような感じで水をキャッチをしていた」と特徴を話す。上半身を使った理想のフォームを求め、フォーム改造に取り組んだ月選手。肉体改造によるパワーを最大限にいかし、コーチと二人三脚で、何度も体にたたき込んでいた。

合宿終盤、月選手は50mのタイムトライアルを実施。連続6本を3セット半、連続4本を1セットを行う超過酷なメニューだ。改造したフォームを確認しながら、レースを想定した練習。本数を重ねるにつれて、体力も限界に近づくなか、最後の1本でこの日のベストタイムをたたき出した。

パリ五輪をかけた選考会は、3月22日(金)に実施。月選手は選考会に向けて、「東京五輪に行けなかった時、あのまま終わるのは恥ずかしいと思って、3年間やってきたので、自分の水泳はこんなもんじゃないと結果で証明したい。それを証明できるのがパリ五輪代表選考会やパリ五輪本番だと思う」と話す。続けて、「200m平泳ぎは自分の種目だと、アピールできるように本番は頑張りたい」と意気込みを語った。
選考会は一発勝負。8年ぶりの五輪出場に向けて、プライドをかけた戦いがついに始まる。

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