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ミャンマークーデターから1年 根本敬教授に聞く(後編)

2022年2月2日 0:21
ミャンマークーデターから1年 根本敬教授に聞く(後編)

去年2月1日の軍事クーデターから1年、上智大学の根本敬教授(ミャンマー近現代史)に、スー・チー氏の次のリーダー、日本ができることなどについて聞いた。

■少数民族出身医師が広報担当

──スー・チー氏も高齢な上、拘束されたままです。民主勢力側を束ねるリーダーは育っているのでしょうか?

NUG(国民統一政府)のトップはウィン・ミン氏だが、拘束され、動けない。

指導層は30人いて、そのうち11人は少数民族出身。スターというか、カリスマがある人はなかなかいないが、あえていうなら、チン州出身の医師、ササ氏だ。(注:40歳ともいわれるが、村では記録がないため正確な年齢不明)

彼は広報の役割を担っていて、弁がたつし、イギリスやEUとも関係が深い。しかし、いきなりリーダーとは難しいだろう。チン州は、ミャンマーの各州のうち下から2番目に小さい。その小さい州の少数民族出身者が、大多数をしめるビルマ人から支持を得られるのか、スー・チー氏の後のリーダーは難しい。

クーデター後、スー・チー氏は捕まってどこにいるのかもわからず、彼女は何もできない。皮肉なことに、その状況で、ミャンマーの人々はスー・チー氏への「個人崇拝」から卒業した。

「政治はスー・チーさんに任せておけばいい」と関心が薄い状況もあったし、民主勢力内でも、彼女にいちいちおうかがいをたてていたが、自分たちで考えるようになった。

■国際社会はどうすべきか

──非常に難しいが、仮に軍と民主勢力の交渉を模索する場合、どういった可能性がありますか

ASEAN(東南アジア諸国連合)と軍事政権が去年4月に合意した5つの約束(暴力の即時停止など)について、軍事政権は提案を受けたにすぎないなどといっていて、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどはかんかんに怒っている。ASEANが無理なら、もう仲介役がいない。国連もほかの国も何もできていない。ASEANにボールを投げてしまっているが、ASEANだけでは荷が重すぎる。

仮に枠組みを作るなら、ASEANに、G7とか、理想は中国、インドを加えるのがいい。ロシアは絶対入らないだろう。中国はアメリカに対抗するので、加わるかわからないが。それらの国でも、和解のテーブル作りは難しいだろう。ミン・アウン・フライン(総司令官)への圧力を強めて、妥協させることを目指すことになると思う。

──中国は軍事政権と親しいが、方針を変えてきているのか?

中国は、軍に近いとみられてきたが、実はスー・チー氏の方がくみしやすいと思っているのではないか。中国が国連安保理で、軍事政権を助けてやっているのに、事前連絡もなくクーデターを起こしたり。軍主導だとナショナリズムが強まり、扱いにくい。

一方、スー・チー氏は中国とうまくやっていた。象徴的だったのは、去年3月27日の国軍記念日の式典に代表を送ったのは8か国のみとわずかだったが、中国からはミャンマー駐在の武官(軍人の外交官)が出席し、大使さえ出なかった。中国は西欧諸国のように経済制裁こそしないが、軍事政権へのけん制だろう。

また、北京とネピドー(首都)の関係と同時に、中国とミャンマーの長い国境地帯に住む少数民族との長年の関係がある。ミャンマー北部の少数民族カチン族の軍司令官レベルは中国語ができるといわれ、こうした関係は必ずしも北京の意向を反映しているわけではない。

■日本ができることは

日本政府は、ミャンマー軍事政権と太いパイプを持っているといいながら、パイプを持っている人にそんたくしていると思う。日本人でミャンマー軍と太いパイプを持つのは、日本ミャンマー協会の渡辺秀央会長、日本財団の笹川陽平会長(ミャンマー国民和解担当日本政府代表)、丸山市郎大使だ。丸山大使はミャンマー語が堪能で、軍との関係が深く、ノンキャリアから異例の大使就任となった。

3人はミャンマー軍トップのミン・アウン・フライン総司令官と直接話せるというが、渡辺氏、笹川氏は「ミン・アウン・フライン総司令官と友人であること」の維持が大事で、一番いわなければいけないことは言わない、言う気がないようにみえる。日本ミャンマー協会には大企業が加入し、自民党や立憲民主党の重鎮もいる。

外務省は政府開発援助(ODA)の新規実施を中止したが、すでに実施されたものはやめていない。日本政府は、渡辺氏、笹川氏にこれまでさまざまな調整などをしてもらってきたのだろうが、あえて距離をおかなければいけないと思う。

■市民としてできること

例えば、東京の池袋に、ミャンマー人のいわゆるZ世代が開いたレストランがあり、食事やグッズの売り上げを現地の民主勢力に送っている。彼らのような在日ミャンマー人や、日本のNGOを通じて医療品や資金を寄付することができる。クラウドファンディングも立ち上がっている。

もちろん日本政府に、ミャンマーの民主化を支援するよう働きかけることもできる。国が動かないなら市民が動くということだろうと思う。