【皇室コラム】天皇陛下とエリザベス女王
【皇室コラム】「その時そこにエピソードが」第20回 天皇陛下とエリザベス女王
英国のエリザベス女王は、留学中の天皇陛下を王室メンバーの一員のように温かく迎えてくれた人でした。天皇皇后両陛下が参列された19日の葬儀をテレビ中継で見ながら、女王は二男と同い年の陛下の成長をずっと気にかけ、君主のあり方を示してくれた人だったことを思いました。(日本テレビ客員解説員 井上茂男)
■渡英翌日に招かれて見学した国会開会式
1983(昭和58)年6月22日。天皇陛下の留学先での〝社会勉強〟は、渡英の翌日、英国議会の上院で行われた開会式を見学されたことに始まりました。
陛下の著書『テムズとともに――英国の二年間』(学習院教養新書)によると、上院議員たちが赤や金の礼服で着席するなか、フォーマルな装いのエリザベス女王が夫の故フィリップ殿下と入場します。やがて使者が下院を訪ね、ドアをたたきます。開けては閉められること2度。3度目にやっと開けられ、下院議員が上院へ向かいます。女王は第2次サッチャー内閣の施政方針を読み上げ、30分ほどで終了しました。
女王の使者に〝三顧の礼〟を尽くさせる流れに、陛下は「ピューリタン革命にまで遡る、王権から自立した、議会を主体とする政治の理念」を思います。伝統の国イギリス――それを実感する最初の機会をつくってくれたのが女王でした。
■女王が自らいれてくれた紅茶
翌23日。エリザベス女王は陛下を「ティー」に招きます。バッキンガム宮殿の2階のプライベートな部屋で、女王は自ら紅茶をいれてもてなしました。
「もう旅の疲れはとれましたか」。女王は優しく尋ねます。
「オックスフォード大では何を勉強されるのですか」。陛下は中世の交通史を研究する抱負を話されました。
「ティー」には、二男のアンドルーと三男のエドワードの両王子も加わりました。同い年のアンドルー王子は「生年月日が4日違うだけ」と陛下に気さくに声をかけました。約1時間。緊張しつつも楽しい時間で、陛下は女王の紅茶のいれ方や、紅茶と共に並べられたサンドイッチとケーキの組み合わせに興味を持たれました。報道によれば、女王がいれてくれたのは「英王室風の薄い紅茶」でした。