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【解説】避難所で感染症拡大のおそれも…「災害関連死」を防ぐには? 現地で医療支援の医師に聞く 能登半島地震発生から9日目

2024年1月9日 22:29
【解説】避難所で感染症拡大のおそれも…「災害関連死」を防ぐには? 現地で医療支援の医師に聞く 能登半島地震発生から9日目

2万6000人以上の方が避難生活を強いられている石川県。知事が「飽和状態」と懸念を示している避難所では、感染症の拡大も心配されています。

全日本病院協会の災害医療支援チームとして、7日まで能登町の避難所で活動した日本医科大学付属病院の増野智彦医師に、避難所の状況と課題について聞きました。

■終わり見えぬ避難生活 被災者の医療支援は

藤井貴彦キャスター
「増野医師が医療支援を行った能登町は、世帯数・約7200のうち多数が全壊・半壊となり、いまだ被害の全容は見えていません。現在、約2900人の方が避難しているということです。

増野医師は、能登町の避難所で実際に医療支援をされていました。避難をしている方の健康状態については、どんな印象を受けましたか」

増野医師
「私が入ったところでは、“地震によるケガなど”のみならず、寒い避難所などで集団生活をしている、普段と違った環境のなかで生活していることによって生じる“風邪や発熱など内科的疾患”、さらには、長期になってきている避難生活に伴って、“疲れや精神的な不安”…そのようなものがみられていました」

■必要な医療が変化…地震発生直後はケガ、その後は感染症や内科的疾患の対応へ

藤井キャスター
「地震発生の4日目から7日までの4日間、避難所で支援されたということですが、どのような医療支援が必要とされていたのでしょうか」

増野医師
「医療というものに対する直接的な支援もそうですが、地域は人手がものすごく不足しています。我々は医療のみならず、それ以外のことも含め、できることを探してお手伝いをさせていただいたと。マンパワーの少しでもお手伝いになればという形で、現地で活動させていただきました」

藤井キャスター
「地震発生直後はケガをした方の治療が中心だったと思いますが、発生から1週間がたって、避難所で必要な医療というのは変わってくるものなのでしょうか」

増野医師
「そうですね、そのフェイズ、フェイズによって、必要な内容が変わってきます。最初はケガの対応…地震そのもの等によるケガの対応ということになりますが、その後は、集団生活によって起こる感染症や内科的疾患の対応、その後はさらには、家を直すための作業等に伴ってくるケガとか、そういうものへの対応などが出てきます」

■避難所は“飽和状態” 感染症の拡大懸念

藤井キャスター
「避難生活が続くと、感染症のリスクも高まってきます」

「石川県などによると、これまでに少なくとも穴水町の避難所1か所で3人が新型コロナウイルスに感染。また、輪島市でも1か所の避難所で新型コロナウイルスが2人、ノロウイルスに感染した人が7人確認されたということです。

石川県の馳(はせ)知事は8日、『避難所で今後、感染症がまん延する懸念があり、感染者を隔離する必要があるが、すでに飽和状態』と危機感を表しています。

同じ避難所で新型コロナウイルスとノロウイルスが確認されましたが、1か所でさまざまな感染症が拡大する可能性があるんですね?」

増野医師
「そうですね。たとえば“飛まつ”を介してうつるような風邪やインフルエンザのようなもの、さらには、嘔吐物や便などによって広がるようなノロウイルスのようなもの、そういうものがこういった時期には増えてくる可能性がありますので、我々はそういうものを注意して避難所でみていました」

■「断水」で衛生環境悪化のおそれ 避難所での感染対策は?

藤井キャスター
「実際に、水が流れないということもあって、便がビニール袋などに集められている避難所などもかなり数多くありますので、そういうなかで衛生状態を維持するのは非常に難しいと思われます。

また、感染症などを防ぐためには衛生環境が大切になってきますが、石川県では、増野医師が医療支援を行った能登町など6つの自治体の全域で、ほぼ断水しているということです。県内では5万8000戸以上が断水している状況ですが、断水する中でも、感染対策というのはできるんでしょうか」

増野医師
「水が使えないという状況のなかで、プールの中にためていた水を使って流したりしていましたが、不衛生になりがちですので、トイレを衛生的に保つという意味で『ビニール袋を使った便の処理に変えましょう』と。そして、さらには、アルコールを使った手指衛生などを現地で行うなどしていました」

■1時間に1回「換気」を…“衛生をまもるため”

藤井キャスター
「一方で、マスクがある避難所ではマスクをしていただきたいですし、『換気』というのも重要になってくるのでしょうか」

増野医師
「先ほどお話しした“飛まつ”によって感染するようなもの、そういうものに対しては我々は現地で『できるだけ換気をしましょう』ということで、避難所の中で1時間に1度、換気を促すなどしていました。

“飛まつ”を介してうつるような疾患に関しては、『換気』はとても効果があると思います。ですので、我々は現地ではできるだけ、“衛生をまもるため”ということで『換気』をお願いしました。寒いので『換気』というのは現地の方にとっては大変なことではありますが、実際に、皆さん本当によく『換気』をしていただいていました」

■「災害関連死を防ぐ」には? 広い目で…必要な人に必要な支援を

藤井キャスター
「今後、長引けば長引くほど災害関連死、そして災害関連による重傷の方もでてくると思いますが、こういったことを防ぐために、医師の立場から、どんなことが支援できるとお考えでしょうか」

増野医師
「災害関連死を防ぐ、というのは本当に大きな課題になっています。

避難所はもとより、現在いろいろと、少しずつ電気が通ったりして、家の方に戻られたりしている、そんな方もいっぱいいらっしゃいます。そういう方が、自宅で気づかれずに体調を悪くする、そのようなことが災害関連死等にもつながってくる、というふうに思います。

ですので、地域全体の情報を、必要な人に必要な支援が届くように、情報をきっちりまとめたり、そこに、それを手伝うためのマンパワーを、必要な人を必要な所に配置したり…そのようなことを、もうちょっと広い目で行っていくことが、災害関連死を防ぐという意味ではとても重要なんじゃないかなというふうに考えています」