人間に近づく生成AI 共存で高まる幸福度【SENSORS】
あらかじめ学習した大量のデータをもとに、自動的に文章・画像・音楽などを作り出す、生成AI(ジェネレーティブAI)が大きな注目を集めている。
人間を相手にしているかのようにAIとチャットができる「ChatGPT」、言葉で指示した条件に沿った画像を作成してくれる「Stable Diffusion」や「Midjourney」などは、すでにブームを超えて日常に浸透しつつある。
急速な進化を遂げる生成AIが、私たちの生活やものづくりにどんな影響を与えるのかについて、生成AIの最前線に立つ4人が語り合った。
■生成AIは“人間を超える何か”ではなく、“人間そのもの”に近づいている
これまでさまざまな新しいテクノロジーが登場してきたが、生成AIは、プログラマーだけでなくあらゆる人が使いこなせる点で、特に大きなインパクトがある。そう語るのは、株式会社 THE GUILD 代表でインタラクションデザイナーの深津貴之さんだ。
「最後に生き残るのは、“誰でも使いこなせるテクノロジー”だと思います。普通の人が絵や文章やゲームを作れるというのは、ものすごく新しくて珍しい角度のイノベーションです」
例えば、AIとチャットができる「ChatGPT」は、人間同士のような自然な会話はもちろん、メールや記事などの文章作成、詩や小説の執筆、プログラミングまでもこなす。画像生成AI「Stable Diffusion」や「Midjourney」では、作って欲しい画像を指示すれば、何十〜何百種類を、たった数秒〜数分で作り上げてしまう。
生成AIは、人間が生み出したコンテンツやモノの特徴を学び、人間に求められることを予測して文章や画像を作り出しており、「人間らしいかどうか」が重視される。そこに生成AIのおもしろさがあると、東京大学生産技術研究所特任教授の三宅陽一郎さんはいう。
「AIブームの初期は、AIが人間を超えるかもしれないという話が多かったですが、生成AIがブームになってから、どれだけ人間っぽい生成ができるかがメインの議論になってきたのは、おもしろいですよね。人間が言いそうなことを言ったり、人間が作るであろう画像を生成したり。生成AI系って、どんどん人間になっているんですよね」
■次代のクリエイターに必要なのは、AIの性質を見極め役割分担する力
生成AIが人間らしくなるに従って、クリエイターの仕事が減るのではないかという議論もさらに加速しそうだ。三宅さんは、AIの性質を見極めて活用し、共存する力がクリエイターに求められると話す。
「ここまではAIにやらせて、ここからは自分がやるという、AIの仕事と自分の仕事を上手に混ぜる力が、これからのクリエイターには必要です」
AIの最大の特徴は、人間が設定した問題を解決へ導くことが得意な点だ。例えば、桜を描く際「淡いピンク色をした、奈良県でよく見るソメイヨシノのような桜を、右手前に大きく3本描いてください」など、指示を具体化すればするほど質の高いアウトプットを生成する。
一方で、設定した問題の範囲を広げることや、生成した作品をクライアントに渡してコミュニケーションをとることは、AIにはできない。
生成AIは人間の脅威ではなく、人間が創り出すクリエイティブの質を向上するものであると深津さんは捉える。クリエイター人口やコンテンツ数が増えるほど、よりよいクリエイターや作品が出てくる可能性は高まるはずだという。
■自己表現が当たり前の社会へ AIがもたらす“新しい幸せ”
生成AIによって、個人の創作活動は加速することが見込まれる。人間そっくりの姿のCGであるバーチャルヒューマン「imma」をプロデュースするAww Inc.のジューストー沙羅さんは「たった1人の監督がすべてを作るような映画がオスカーを取る日も来るのではないか」と話す。
「生成AIで、誰もが作りたいものを作れるんです。実際、当社にいる最年少の高校三年生の子は、自分でソフトウェアを学んで、ハリウッド映画レベルの3〜4分のSF映画を全部作っています。そういうことがもう普通になってきているんですよね」
その流れは、この10年ほどですでに起きていることだと三宅さんはいう。
「ゲーム『Minecraft』のブームによってユーザーがコンテンツを生成する文化がどんどん広まっていきました。昔はデジタルコンテンツはプロフェッショナルが作って、ユーザーに伝えるものでしたが、今は作り手・受け手という図式がどんどん壊れています。音楽業界なんかでは、ネットから出てきたほうがメジャーになっているようなところがありますよね」
「Minecraft」は日本では「マイクラ」と呼ばれて親しまれるゲームで、ゲーム内のブロックを使い、街や建物などあらゆるものを作ることができる。プログラミングをしながら自由に世界を創造できるツールとして、学校教育でも取り入れられている。
生成AIは、人を手助けして、より簡単に大量のコンテンツを制作することを可能にする。その先には、自己表現が歓迎される社会がやってくると沙羅さんは話す。
「性別や年齢や肌の色にかかわらず、自分というものを前に出せるっていうのが、次の社会なんじゃないでしょうか。それが、AIの効率化によって、集団じゃなくても個人でどんどん表現できるっていうのはすごく幸せなことだと思います」
生成AIをはじめとしたテクノロジートレンドをクリエイティブ目線・ビジネス目線でプロデュースするHEART CATCH代表の西村真里子さんは、「“生成AIネイティブ”の世代には、アイデンティティは生身の存在だけではなく生成されたものに対しても当たり前のように存在していくかもしれないですね」と同意する。
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これまでAIについては「人間を超えるかもしれない」と、しばしば恐ろしいもののように論じられてきた。しかし、人間に近づいており、私たちのクリエイティビティや幸福感を高めてくれるという。AIと親密に共創する時代がやってきたのかもしれない。