箱根ランナー「警察官」を目指す 父は3月に警察官引退を控え…子へとつながれた“たすき” 父からの「贈る言葉」
今年1月に箱根駅伝に出場した、駒澤大学のあるランナー。彼はその後、警察学校で訓練を受けていました。彼の父親は、まもなく引退する警察官。その“たすき”を引き継ぐ思いを取材しました。
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今年の新春に行われた、第98回箱根駅伝。その復路で、芦ノ湖からスタートする1人の青年がいました。
アナウンサー実況
「やはり、青山学院を追いかける1番手は、この藤色の駒澤なのか。さあ、佃康平が6区・山下りでロケットスタートを決めて、フレッシュグリーンを追っていきます!」
――その箱根路の6区を任された駒澤大学の青年の姿は…千葉県警警察学校にありました。彼が警察官を目指したきっかけは、40年、警察官を務め、来年3月に引退を控えた“父親の存在”でした。父から子へ…つながれる“たすき”に込められた思いとは。
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今年6月、警察学校の教室に教官が入ってきます。
学生「おはようございます!」
教官「おはよう」
初任科生の佃康平巡査。この日、行われたのは、市民の安全を守るための逮捕術の訓練。警察官に必要な知識を学ぶため、半年間の共同生活を送ります。
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なぜ彼は「警察官」を目指しているのでしょうか。
佃康平巡査
「小学校の頃に職場体験みたいなので父に少しだけ同行させてもらったときも、すごい、そこが憧れの始まりで」
”父への憧れ”。父親の佃章博警部補(61)は鑑識係を20年以上務め、来年3月に引退を控える大ベテランです。駅伝ランナーの息子を、夫婦で支え続けてきました。
父・佃章博警部補「やっぱり自分と同じ仕事をやってくれるということは、もうかなりうれしいのが本音ですね」
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この日は、父親が長年やってきた「鑑識」の実習。家屋に不審者が侵入した想定で、犯人の手がかりを探します。道具を手にした佃康平巡査は、建物を前に「これ、どうやったら分かるんだろう…。わかんないよね?」と戸惑い気味。サッシのふちにパウダーをかけながら、「出てるかな…」と不安げな様子です。
佃康平巡査「おっ、とれた!」
指紋を採取したシートを仲間に見せると、「おー、すごい!」の声があがります。
佃康平巡査「とれました! これは指紋です。これは犯人の指紋です」
鑑識の実習を体験した佃巡査は「実際に(父が)やってるところをあまり見たことはないんですけど、こういう仕事をしていたんだなって。父に対する尊敬というか、そういうのも改めて感じました」と話し、うなずきました。
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警察学校も夏休みを迎え、佃巡査は9月に久しぶりに帰省しました。佃巡査は大学時代から寮生活。久しぶりに家族と食卓を囲みます。
父・佃章博警部補「あとちょっとだからね。警察学校も」
佃康平巡査「うん」
父・佃章博警部補「これからが本番だからね、がんばってね」
佃康平巡査「うん」
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夏休みも終わり、佃巡査は再び学校へ。卒業に向けてラストスパートをかけます。
教官「この訓練やるために、大事なこと…佃!」
佃康平巡査「はい! 警察官の気迫です!」
教官「気迫だよ、気迫!」
卒業が迫り、訓練も佳境に…。
教官「今まで5か月間、なに学んできたんだよ、おまえら! やれ、最初から!」
生徒「了解!」
市民の安全を守るための警備訓練を行います。
教官「みんな同じことやってんだから、みんなつれーんだよ!」
生徒「了解!」
教官がシールドを持ち上げている佃巡査に声をかけます。
教官「対象は目の前にいるからな!」
佃康平巡査「了解!」
教官「つらければよ、声かけあってよ、励ましあえよ!」
――厳しい訓練も、全員で乗り越えました。
生徒「ありがとうございました!」
教官「お疲れさまでした! きょう、この訓練やることによって、君たちはまた一段と強くなった…と思う人、手をあげろ!」
佃巡査も力強く手をあげ、うなずきました。
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そして10月、迎えた卒業の日。
教官「進め!」
晴れやかな表情の息子を、父はじっと見つめ、母の目には涙が…。いよいよ現場に立つ息子に、父が贈った言葉は――
父親 佃章博警部補「あなたも大学でいろいろやってきたから、その仲間…ここで作った仲間も大事にして、感謝しながら一生懸命がんばってください」
佃康平巡査「地域の皆さまから信頼してもらえるような立派な警察官になるので、これからも応援よろしくお願いします 」
箱根路を駆け抜けてから約10か月後、父から子へつながれた“たすき”に込められた「仲間を大切にする思い」を胸に、佃巡査は警察官として走り始めています。