【特集】インクルーシブ教育 異なる個性や価値観、障害があってなくても 13トリソミー症候群の女の子、小学校入学
新年度に入り、学校生活がスタートしました。障害のある・なしに関わらず、児童が同じ環境で一緒に学ぶ取り組み「インクルーシブ教育」を特集します。福井市のケースを取材しました。
森田小学校の入学式。新1年生の堂下礼衣さん(6)です。気管にたまるたんの吸引など、日常的に医療行為を必要するいわゆる“医療的ケア児”が特別支援学校ではない一般の小学校に入学するのは珍しく、森田小学校での受け入れは初めてです。
礼衣さんに言葉はありませんが、足をバタバタさせるのは彼女にとってうれしい合図だといいます。
■礼衣さんの母・麻衣さん
「夢みたい。地域の小学校に入れてもらえるなんて。またどんな生活が待っているか楽しみです」
礼衣さんには、13トリソミー症候群という染色体の病気があり、呼吸を安定させるため、生後2か月で気管を切開しなければいけませんでした。一度発作が起きれば、命にも関わります。
それでも…。
「同じ年ごろの子どもたちと一緒に過ごさせてあげたい」
両親の願いが叶って、礼衣さんは家の近くの幼稚園で3年間を過ごしてきました。
■看護師・吉田淳子さん
「言葉でというのは難しいけど、何かしらの光とか、子どもたちの声とか、ピアノの音とか、そういうのに反応するので、笑顔も出るようになる」
園でも医療的ケア児の受け入れは初めて。専属の看護師がケアを担当します。
一緒に過ごす子どもたちは…。
■園児
(礼衣ちゃんの好きなところ教えて?)
「一緒に遊べるところ」
「鍵盤ハーモニカを弾いて楽しませることが楽しかった」
「心が落ち着く」
給食もみんなと一緒です。
■看護師
「コロッケ。れいちゃん、ご飯入るよ」
礼衣さんは“胃ろう”で直接、胃から栄養を摂っています。
■幼稚園教諭
「れいちゃんがお腹からご飯食べるのも普通。れいちゃんが車イスからバギーに移し変わるのも普通。段差が難しくてそれを手伝うのも普通。特別なことじゃなく。毎日が当たり前に過ごしている。そんな子どもたち」
迎えた卒園式。
「堂下礼衣さん」
「はい!」
礼衣さんの代わりにクラスのみんなが返事をしてくれました。
■礼衣さんの母・麻衣さん
「周りのお友達も礼衣と関わることでどんどん優しく育っているというのが、私から見ても感じていたので、入園しただけでうれしかったことが、日々の関わりの中で成長もうれしいことになって、だんだんそれが当たり前の日常になってきて、いい3年間過ごさせてもらったと思っている」
そんな中、地域の小学校への入学の話が舞い込みました。
この日は礼衣さんの主治医をはじめ医療や学校関係者が集まりました。
■森田小学校 南部隆幸教頭
「音楽室も本当は2階なんだけど、特別に1階に3つ目の音楽室を作った。とりあえず来年度は上下移動がなくて過ごせるように工夫している」
障害のあるなしに関わらず、子どもたちが同じ環境で一緒に教育を受ける「インクルーシブ教育」。通常学級を受け持つ教師たちにとっては、初めての医療ケア講習です。
■通常学級の教諭
「お父さんとお母さんの特別扱いしないでほしいという思いを感じる。特別な配慮はしないけど、でも礼衣ちゃんが楽しめるように工夫はしないといけないかなと思う。同じ園から上がってくる子ばっかりじゃないので、クラスの子らにもちゃんとうまく説明しないとだめだなと思いました」
■森田小学校 南部隆幸教頭
「本当に分からないので、できることを精一杯しようって。周りの子どもたちもそうだし、親御さんもそうだし。全体の理解がないと進まないので、うまいことそれがいい方に、みんなが育つようないい方向に向くといいなという期待感もある。心配半分、期待半分」
礼衣さんは校内の特別支援学級に通いながら、音楽や体育など毎日2時間ほど、通常学級での活動を予定しています。
■礼衣さんの母・麻衣さん
「関わりを通して、新しい友達がたくさんできて礼衣のことを知ってくれる子がたくさん出来るといいなと思っている」
入学式の後、同じクラスの児童から手紙が…。
絵には車イスに乗る礼衣さん。
そのお腹には穴が一つ。
自分とは異なる個性や価値観を受け入れ、ともに心を育むインクルーシブ教育。子どもたちの可能性が芽吹き始めています。