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「早く消火できていれば救助、救出も…」消防隊員が語る、あの日の“津波火災” 福島

2025年3月10日 18:50
「早く消火できていれば救助、救出も…」消防隊員が語る、あの日の“津波火災” 福島
陸橋で待機する隊員ら 提供:いわき市消防本部(2011年3月11日撮影)

震災と原発事故から14年。シリーズ173回目を迎えた、「ふくしまの未来」です。沿岸部のいわき市久之浜地区では津波に襲われた直後、大きな火災が発生しました。その恐怖を当時の消防隊員が語りました。

■カメラマン
「火の手が上がって…炎が見えます」

地震、津波、そして…。繰り返される…津波火災。いわき市消防本部の谷平昌典さんには今でも忘れられない現場があります。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「当時は家がもっと密集してましたし、いろんなお店もあったりとか」

沿岸部に位置するいわき市久之浜地区。谷平さんの地元でもあるこの場所は14年前、大きな津波に襲われました。

「家が流されています」「上に避難します」

住宅が次々と流される中、直後に起きたのが…火災でした。谷平さんたち消防隊員は通報を受けて現場に駆け付けますが…。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「この道路自体も縁石から切れているあたりから先は、がれきで車が通行できない状態、がれきは私の背の高さくらいはありましたので」

がれきによって道路は寸断。ホースをつなぎながら歩いて火の手に向かって行きました。さらに…現場付近は断水し、消火に必要な水源は近くの川から汲み上げました。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「川も余震で複数回遡上している津波もありまして、なかなか安定して取水できなかった」

安定した消火ができない中、火の勢いは増すばかり。火の恐怖、津波の恐怖との戦いでした。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「今まで体験したことのないガスのにおいと、あちこちでプロパンガスの爆発も起きていましたし、現場のすぐ10メートル先でも爆発して、隊員はけがはしませんでしたが、飛んで逃げるような状況でもありましたので、恐怖との戦いと先行きへの不安といろいろ入り混じって複雑な思いといいますか、メンタルを保つのが難しかった現場でした」

消防団も含め54人が消火活動に当たり、通報から7時間後の午後11時ごろようやく火の勢いが弱まり、鎮圧状態に近づきます。しかし…ここである連絡が入ります。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「自衛隊からの情報で海上に津波が見えるとの緊急退避命令が出されたので、ここから直線距離で300メートルくらいのこの駅の一番高いところが跨線橋(陸橋)だったものですから隊員全員で避難した」

消火活動は一時休止。安全が確認されるまで谷平さんたちは再び火の海となる現場を見ることしかできませんでした。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「目の前の現場から背を向けて離脱するのが初めての経験だったので、複雑な思いを抱いたのが印象に残っています」

退避からおよそ3時間後にようやく消火活動が再開。完全に鎮火したのは通報から15時間後の夜が明けた午前7時でした。およそ1.5ヘクタール、50棟ほどの住宅が焼けた久之浜地区。この地区では地震や津波で69人が亡くなりました。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「もっと早く消火できていれば救助、救出といった活動にも展開できたというところは、残念な思いは今でもあります」

消防では1か所で起きた火事ががれきによって広まっていったと分析しています。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「燃えやすい状態で付近にがれきが散乱しているということで、延焼速度をあげてしまったのが大きな被害につながった原因なのかなと」

津波によって押し流され、集積した建物や車から出火し、燃料やがれきに引火するなどして燃え広がる“津波火災”。東日本大震災で起きた火災のおよそ4割がこの津波火災とみられています。去年起きた能登半島地震でも“津波火災”が…。今後30年以内に80パーセント程度の確率で発生するとされている南海トラフの巨大地震では大都市湾岸部のコンビナートが破壊され、津波火災を引き起こす危険性が指摘されています。

■いわき市消防本部谷平昌典さん
「津波ですとか地震で建物が崩れてしまえば、津波と同じがれきのような状態になりますので、延焼は早める可能性はある」

全国各地で相次ぐ災害。少しでも被害を減らすために過去を教訓とした対策が必要です。

地震が起きた時には火災が同時に多くの地点で発生するおそれがあるため住宅密集地などでは大規模な火災の危険性が高くなります。東日本大震災で起きた火災では原因が特定されたもののうち半分以上が電気が原因でした。消防庁は、地震火災を防ぐために事前にできる備えとして…。
・家具などが転倒しないよう固定をする。
・感震ブレーカーを設置する。
・地震直後の行動として停電中は電化製品のスイッチを切るとともに電源プラグをコンセントから抜く。
・避難するときはブレーカーを落とす。

こうした対策を呼びかけています。

最終更新日:2025年3月10日 18:50
    福島中央テレビのニュース