未来に向け語り継ぐ 福島の20歳の“語り部”が伝えたいこと
東日本大震災の被災地では震災の伝承活動が行われていますが、語り部の高齢化が課題となっています。福島県双葉町にある震災の伝承館では、若い職員を語り部に育てる取り組みが始まっています。福島の未来にむけ歩み始めた20歳の“語り部”を取材しました。
■「災害を自分事として考えてもらえれば」
福島県双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館で働く遠藤美来さん(20)。伝承館の職員として働きながら、去年5月から語り部としての活動を始めました。
遠藤さんは小学校3年生の時、福島県いわき市で被災しました。大きな揺れと共に記憶に残っているのは、切れた電線が垂れ下がり、パチパチと火花が落ちてきたこと。『当たったら死んでしまうのでは』という怖さが脳裏をよぎり、今でも忘れられないといいます。
被災後に直面したのは、食料がなくなるという恐怖でした。
遠藤さん
「コンビニでは食料は全く売っていませんでした。毎日の生活の中で、食べることが当たり前のように感じていましたが、実際に食べることができなくなるかもしれないと思った時に、とても恐怖を感じました」
その後、家族と共に東京に一時避難をします。事前にガソリンを入れなかったことで、移動中にガソリンが切れかけハラハラしたといいます。
遠藤さん
「災害はいつ来るかわからないので、いち早く行動できるように防災セットを用意しておくなどの準備が大切です。自分の命を守るために東日本大震災を通して、自分事として考えてもらえれば」
遠藤さんは日ごろの準備や心がけが大切だと話します。
■きっかけは”地域のおばあちゃん”たちとの交流
遠藤さんが語り部を始めたきっかけは、高校の授業の一環で地元の高齢者と交流したことでした。
遠藤さんの通っていた福島県立ふたば未来学園は、授業の一環として地域課題の解決などに取り組んでいます。
高校のある福島県広野町は、震災の影響で高齢化が加速し、活気を失っていました。
昔のようにコミュニティを取り戻し、笑顔になって欲しい。
遠藤さんは、地域の高齢者から料理を学び、一緒に食卓を囲むプロジェクトをたちあげました。
料理をテーマにしたのは、震災の時に「食べること」がどれほど大切かを感じたからだといいます。
場所や費用などは全て自分たちで準備し、このプロジェクトは成功しました。おばあちゃんたちは喜び、また一緒に食事をしようと誘われたといいます。
遠藤さん
「地域の方々の優しさに触れて、その人たちのために私はどうやって恩返しができるかと考えました。語り部を始めれば、広野町の現状などを伝えていけるのではないかと思いました」
■“将来にわたり伝えるには若い語り部の育成が必要”
東日本大震災から11年が経ち、被災地では語り部の高齢化が課題となっています。
東日本大震災・原子力災害伝承館に登録している語り部は33人、平均年齢は63.6歳
(今年1月時点)。継続的に語り継いでいくためには、若い語り部を育てることが必要だと小林副館長は話します。
小林孝副館長
「この未曾有の複合災害を将来にわたって伝えていくために若い語り部を育て、若い人間がまたさらに若い人に伝えていき、風化させないようにしていきたいと考えています」
■「私が語り部をやってもいいのか」つきまとう不安
遠藤さんは、避難指示の出た区域で生活していたわけではなく、また津波による被害を受けた経験もありません。
自分よりももっとつらい体験をしている人もいるのに、自分が語り部をやっていいのかという悩みがあったそうです。
しかし、語り部を続けていると『防災意識を高めていかなければと思った』『若いのに自分のことを発信するのはすごい』という励ましの言葉をかけてもらえるようになったといいます。
少しずつ不安が払しょくされ、今は“私なりの語り”を伝えていこうと考えるようになったといいます。
■“震災を風化させず未来にむけて福島を発信”
今後は震災を風化させないこととともに、福島へのネガティブな印象を払拭したいと遠藤さんは話します。
「今でも福島県は、震災・原発事故があった県のイメージが強いと思います。震災を学ぼうとするきっかけにするのは嬉しいですが、自然豊かでおいしいものがたくさんあり、地域の人も温かいです。福島県を知ろうと思って福島県に来てもらえる。そういう未来になってほしいです」