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【解説】「成果はなかったが意味はあった」水俣病被害者と環境相の再懇談を振り返る

2024年7月12日 19:27
【解説】「成果はなかったが意味はあった」水俣病被害者と環境相の再懇談を振り返る
伊藤環境相
7月8日から11日まで、3回にわたり水俣病の被害者と伊藤環境相の再懇談が行われました。再懇談の成果は何なのか、取材した東島大記者と振り返ります。

(緒方太郎キャスター)
東島さん、再懇談の成果をひと言でまとめると?
(東島大記者)
「成果はなかったけれども、懇談をやった意味はあった」ということです。おかしな言い方ですが、まずこちらのVTRを見てください。

【VTR】
まずは8日の再懇談1日目、被害者団体と伊藤環境相のやり取りです。
■水俣病不知火患者会 元島市朗事務局長
「水俣病の68年の歴史の中で、こういう風景はなかったんじゃないか。非常に感激しています。ようやく水俣病の解決が始まるのか。環境省がその決意に立ってくれたのか。本当に涙が出ました。ごめんなさい、本当に感動しました」

■伊藤環境相
「私も政治家になって23年になりますけれども…すみませんちょっと感情が高ぶって…きょうぐらい感動した懇談はありません。ありがとうございました」

10日の2日目では、伊藤大臣が、得意の映画の話も披露する場面もありました。
■伊藤環境相
「ハリウッドで昔の映画をどう保存しているかというと、実はテープにデジタルで記録しているんだよ」
■一同
「ははぁ…」
■水俣病患者連合事務局 永野三智さん
「引退したら、ぜひ水俣病の映画を作って下さいと思いますけど。その前に、政治家としてできることとして、ここの資料を残しましょうよ、水俣病の資料を」

しかし。こうしたやりとりの一方で。
■水俣病患者連合事務局 永野三智さん
「やる気があるんですか?ないんですか?」
■伊藤環境相
「環境省としてやれることを…」
■水俣病患者連合事務局 永野三智さん
「やる気があるんですか?ないんですか?」
■再懇談の参加者
「一筆書いてもらうか。他の患者さんたちも納得できんとばってん」
■水俣病患者連合事務局 永野三智さん
「泣いているけど、私たち泣いている場合じゃないんです」

(7月8日)
■水俣病被害市民の会 山下善寛さん
「ゼロ回答。非常に問題だと思います。ぜんぜん向こうの言い方とかみ合っていない。あれでは今後も進んでいかない」
■水俣病被害者互助会 佐藤英樹さん
「何も変わらない。今まで通りの政策をやるような考えだなと思いました」

【スタジオ】
(緒方キャスター)
「感動した」と言っている一方で、話がかみ合っていない、一筆書いて欲しいという場面もあって、どうなっているんでしょうか?

(東島記者)
とても不思議な会合でした。3日間の懇談で議題になった水俣病の問題は、伊藤環境相自身が数えただけでも60にのぼります。
その代表的なものを紹介しますと、まず「国の認定基準の問題」です。これに対する環境相の見解は見直しに否定的でした。

そして、「改善して欲しい」と団体側が要望したのに対して「検討する」と答えただけに終わったものには、次のようなものがあります。
▽高齢化する認定患者の介護費用や入居施設の問題
▽認定された患者だけに利用が認められている水俣市の療養施設を、水俣病特措法などで救済の対象となった人たちにも開放してほしいという問題
▽特措法で救済された人たちへの手当の改善
▽特措法で救済された人たちへのさまざまな手当の改善

離島に住む人が島外の医療機関などに通院した際に支給される「離島加算」は改善の方向で検討としましたが、それ以外の諸手当については「難しい問題」としました。

(平井友莉キャスター)
やはり「ゼロ回答」だったということでしょうか?

(東島記者)
そうです。3日間の議論で環境省が比較的前向きに回答したのは、離島加算と水俣病の資料の保存、あとは御所浦島のマッサージ器が故障しているのでなんとかしますというくらいでした。

(緒方キャスター)
伊藤環境相は、水俣病特措法に定められながらも、15年間実施されていない地域住民の健康調査について2年以内に開始したいとしたようですが?

(東島記者)
懇談で伊藤環境相が「2年以内に始めたい」と国としては初めて具体的な時期に言及したのですが、それを言うたびに、同席した環境省の環境保健部長が「実施できる準備を整えたい」と言い直すのが印象的でした。

環境省が計画している案は、全ての被害者団体が強く反対していますし、専門家からも疑問の声が出ています。それを無視して2年以内に始めるというのは、強引な押しつけと取られかねません。

熊本県の木村知事も、「環境省の方針でいいのか、県としても今後積極的に関与したい」と発言しました。まさにほぼゼロ回答だったというわけです。

(平井キャスター)
でも、団体の方は「感動した」とも言っていましたよね。

(東島記者)
今回の懇談のポイントはそこにあります。私も長く水俣病問題を取材していますが、環境相や事務方の責任者、知事が水俣病の被害者団体とこれだけの時間向き合って議論するということは初めてです。

これだけの課題があるのに、行政は裁判を続けるだけで一切向き合ってきませんでした。環境省は水俣病をきっかけに生まれたというのに、この数十年、環境省は水俣病被害者と敵対し続けてきた、少なくとも多くの被害者団体はそう受けとめているんです。

今回初めて同じ土俵で議論をした、それだけにとどまらず、今後も継続的に協議を続けていくと環境相自ら確約した、そういう点に被害者団体は心を揺さぶられたというわけです。

(緒方キャスター)
すると協議は今後も続くのでしょうか?

(東島記者)
早ければ、7月中にも事務レベルの協議が始まります。また熊本県の木村知事も、県独自の懇談を8月4日に開き、県が関わる課題について議論する予定です。

木村知事は関係する自治体にも議論のテーブルに着くよう呼びかけていて、例えば今回の懇談に水俣市長は一度も顔を見せませんでしたが、今後は一緒に問題の解決にあたりたいとしています。

(緒方キャスター)
「マイク遮断」の教訓が生かせるかどうかは、今後の協議の行方次第ということになりますね。

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