大きな被害を受ける前に移転するのは全国初 国が進める「防災集団移転促進事業」を活用 近年の豪雨で浸水被害に見舞われてきた島根県美郷町の港地区 全5世帯が高台に集団移転
近年の豪雨で浸水被害に見舞われてきた島根県美郷町の港地区。再び被害にあわないために地域の全世帯が高台に集団移転する工事が終了しました。
港地区 元自治会長 屋野忠弘さん
「今は本当に夢のようです。この5世帯の夢が今ここでかなった瞬間です。本当にありがとうございました」
3月22日に開かれた報告会。記念碑の除幕が行われ、高台への集団移転工事の完成を祝いました。島根県美郷町港地区には、江の川の支流の君谷川が近くを流れています。この君谷川は、豪雨の度にその姿を変えます。本流である江の川の水が支流の君谷川に逆流する「バックウォーター現象」で、地区全体が浸水してしまうのです。住民自らボートを購入し、助け合ってきましたが、2018年、そして2020年と立て続けに水害に見舞われました。
港地区 元自治会長 屋野忠弘さん
Q.こんなに頻繁にあるのは?
「ないですね。だから移転という言葉は全然、行動もないし、考えも。(次の水害は)あと50年先だろうと。だけど一年おいてきたから皆もうやれんという気になりました」
港地区は、全5世帯の総意として集団移転を希望する要望書を美郷町に提出。地区の高台に住宅地を造成し、集団移転することになったのです。
港地区 元自治会長 屋野忠弘さん
「 ここは高いです。もうここが浸かることはないです」
3月中には全世帯の引っ越しが完了する予定で、住民からは喜びと安どの声が…。
港地区在住の夫婦
夫「安心安全の場所に引っ越せて…」
妻「おじいちゃん、おばあちゃんもこういう生活をさせてあげたかったなと思って」
「ちょっと寂しい思いもありますけどね、ここで見守りながら過ごせるゆうのが、5軒の一番の願いだったので」
実は、この移転は国が進める「防災集団移転促進事業」。事業主体は美郷町ですが、事業費約1億2000万円のうち半額以上を国が補助します。この制度は、主に東日本大震災の被災地などで活用されてきましたが、大きな被害を受ける前に移転するのは全国で初めてです。
美郷町 嘉戸隆 町長
「地域が非常に強い思いでこの地に残りたい、ここに地域全体で残りたいっていうその気持ちが最初から最後までずっと持ち続けられてて、団結力がありましたのでそれが原動力となってここまで事業が進められたんじゃないかなとそういうふうに思います」
これまで住んでいた場所は災害危険区域に指定され、建物は取り壊わされることになります。それでも故郷を守りたい願いは次の世代へのつながりを生んでいます。進学していた屋野さんの孫つかささんが、地元就職をして帰ってくることになったのです。
港地区 元自治会長 屋野忠弘さん
「とにかくこれまで以上にコミュニティを強くして、明るい助け合いのある団地に。それで子ども・孫にも引き継いでいければいいかなと思って。田舎ならではのコミュニティを作っていきたいと思っております」
度重なる水害のたびに地域の“きずな”を強めてきた港地区。想定外の災害から身を守るため、地域でできることは広がっています。