街頭募金などの寄付で成り立つ「あしなが奨学金」 活動スタッフ不足が慢性化する中、自身も奨学金を受けながら街頭活動を行う女性の思い 「自分の夢をあきらめないでほしい」
あしなが奨学金の存在はご存じでしょうか。“必要なすべての子どもに支援を届けたい”。街頭募金に立つ学生の思いを取材しました。
親が亡くなったり、病気で働くことができなくなったりした家庭の子どもを対象に進学を支援する「あしなが奨学金」。1988年に始まった一般財団法人あしなが育英会の奨学金です。
伊藤愛唯さん
「家庭の経済状況を考えると進学なんてとてもできるものじゃありませんでした。それでもこの奨学金があったから私は進学でき、こうしてここにいます」
JR松江駅前で募金を呼び掛ける、伊藤愛唯さん(19)もその奨学金を受けているひとり。伊藤さんは、島根県出雲市出身の5人家族。中学1年生のころ、突然父親の博さんが脳梗塞で倒れ、左半身の麻痺と高次脳機能障害が残り、仕事ができなくなりました。
伊藤愛唯さん
「高校とか大学とか進学できるのかなと思いながら、でも子どもが家庭の経済状況に口出しするのもどうなのかなって、なるべく普通っぽくいれるように普通に勉強して普通に部活頑張ってみたいな」
将来が描けず部活やバイトに没頭することで逃げていた時期もー。そんな時、転機となったのが、学校の掲示板で見かけた「あしなが奨学金」の案内でした。現在、伊藤さんは作業療法士になるため、奥出雲町にある島根リハビリテーション学院に通っています。
伊藤愛唯さん
「自分の経験から子どもが自由に生活するためには親が健康でいることって不可欠なんだなと思って。だから親の健康を守ることで間接的に子どもの自由な人生を守れたらいいなと思って作業療法士になりたいなと思いました」
患者だけでなく家族もサポートできる作業療法士を目指して日々勉強に励んでいます。
伊藤愛唯さん
「この奨学金がなかったら、そもそも作業療法士になりたいとすら言えてなかった」
3か月ごとに、12万円振り込まれるあしなが奨学金。伊藤さんの場合、これに、日本学生支援機構の奨学金とコンビニのアルバイト代を足して学費、生活費などに充てています。
伊藤愛唯さん
「たまにテスト前にうっかり(バイト)入れちゃって『徹夜だ』ってなる時があるんですけど、常連さんが『会いに来たよ』とか言ってくれて、やりがいがあって結構楽しいです」
伊藤さんが作業療法士への道を踏み出すきっかけをくれた「あしなが奨学金」。実は、街頭募金などの寄付で成り立っています。しかし、新型コロナの影響を受け2019年からの3年間は募金活動を休止。さらに高校生への給付は去年から全額給付型へ。安定的な財源確保が課題となっています。おととしようやく再開した募金活動ですがー。
あしなが奨学金の学生スタッフ
「この2人が4年生で今年でこの活動が終わってしまうので、来年からこれ以上(スタッフ)が増えないと伊藤さん1人になってしまいますね」
募金活動を支えているのは、伊藤さんのように奨学金を受け取っている地域の学生スタッフ。山陰地方の学生スタッフは現在、伊藤さんを含めて、来年鳥取大学を卒業する清水紗良さん、北村亜依香さんの3人しかいません。活動スタッフ不足は慢性化しています。
募金した人
「自分が少額ですけど入れることによって誰かが助かればいいなと思って」
「ひとつはこういう所でこういう人たちが一生懸命やってるから1000円出したくなった」
この日は地元の高校生ボランティアの力も借り、6時間の街頭募金を行いました。
伊藤愛唯さん
「やっぱり遺児家庭とか障害者家庭で暮らしていたら元気がなくなっちゃうときとかあると思うんですけど、自分たちのことを全然知らなくても応援してくれる大人が周りにいっぱいいるって絶対わかると思うので、頑張って自分の夢を諦めないでほしいなと思います」
これからも、自分と同じ立場に置かれている子どもたちの夢や未来をつなぐためにー。
伊藤愛唯さん
「自分や自分の大切な人が明日も明後日も学校に通うために、そして夢を諦めなくてすむように自分のことのように考えてみてください」
伊藤さんたちは街頭に立ち、思いを込めて呼び掛けを続けます。