【奮闘】復旧費用は“19億円“ 大雨被害で全線再開の見通しが立たない「大井川鉄道」…再生のための課題とは?(every.しずおか特集)
SLやトーマス号を目当てに、多くの観光客が訪れる「大井川鉄道」。しかし、その運行区間は全体の半分だけ。2022年9月の大雨による被害で、残り半分は再開のめどすら立っていません。復旧費用は、なんと19億円…。コロナ禍以降、赤字経営が続く中、とても捻出できません。もう再開する方法はないのか?そのヒントが熊本にありました。自力復旧が絶望的な大井川鉄道で全線再開はできるのか?復活を信じて奮闘する人たちと、課題を追いました。
2022年9月、台風15号の”記録的な大雨”により、甚大な被害が出た大井川鉄道。金谷駅から千頭駅までの全区間が不通となる非常事態に。
その後、比較的被害が少なかった金谷~家山間で運転を再開し、被災から1年が経った10月1日、家山から2駅分の川根温泉笹間渡までがようやく再開しました。
(運転士)
「久々に運転しているので懐かしいなと。1年ぶりなので、ちょっと楽しみにしてここまで来ました」
(東京から来た鉄道ファン)
「一部とはいえ再開すると聞いたら矢も楯もたまらなくなって、第一列車に乗りに来ようと思いました」
しかし、残りの半分の区間は再開の見込みすらたっていません。
(大井川鉄道 広報 加冷英鵬 さん)
「当社の敷地外から流れ込んだ土砂で(線路が)埋まってしまっています」
不通区間には、このような大きな被害が20か所もあり、その復旧には約19億円かかると見込まれています。
大井川鉄道はそのほとんどが観光客からの収入のため、コロナ禍以降、赤字が続き、その額は8億円近くにものぼります。とても19億円もの復旧工事を自力で行うことはできません。県などに支援を求めていますが、いまだ具体的な動きはありません。
大井川鉄道の恩恵を受けてきた沿線にとっても、運休は死活問題です。こちらの食堂でも…。
(三ツ星村 渡辺育枝 さん)
「大井川鉄道が通っていないとお客さんも少ない。今まではトーマスや機関車を撮影する人が寄ってくださったんですけど…なんとかならないかなと思います」
大井川鉄道も、何もせずに手をこまねいているわけではありません。運休を逆手に取ったイベントを企画して、少しでも収益につなげようとしています。
(大井川鉄道 広報 加冷英鵬 さん)
「列車が走っていない今だからこそできる、線路の上を歩ける珍しいイベントとして企画しました」
(神奈川から参加)
「(線路を)歩きながら解説も聞けたので、すごくおもしろかったです」
さらに、被災以降、新たなかたちのツアーを積極的に企画しています。
9月に実施したのが「2泊3日の熊本ツアー」。大井川鉄道と同じく、豪雨による甚大な被害からようやく復活した鉄道に乗って応援しようという企画で、全国から20人以上の鉄道ファンが参加しました。そこには、災害に負けずに復活した鉄道会社に「大井川鉄道の未来」を重ね、復旧に向けて大井川鉄道が必要なものを感じてほしいという思いもありました。
(東京からツアーに参加)
「いち鉄道ファンとして何ができるか考えたいなと思って参加した」
今回乗車した鉄道の1つ、熊本の「くま川鉄道」は、2020年7月の熊本豪雨で車庫に濁流が流れ込み、全ての車両が浸水。さらに、鉄橋が土台ごと流されるなど施設も甚大な被害を受けました。大井川鉄道と同じく全線が運休となりましたが、復旧費用の97.5%を国が負担することが決まり、2025年をめどに全線が再開される予定です。
今回のツアーには名物広報の山本豊福さんも同行。全線復旧に向けて何かヒントは無いかと、くま川鉄道の社長に、アドバイスを求めます。
(大井川鉄道 広報 山本豊福 さん)
「くま川鉄道さんは復旧に当たってはどんなかたちで?」
(くま川鉄道 永江友二 社長)
「国の97.5%という支援があるからこそ、赤字会社のくま川鉄道も復旧できる。国が支援にあたって条件を出している、”上下分離方式” が第一条件」
「上下分離方式」とは、自治体が線路や駅などの設備を保有・維持管理し、鉄道会社がそれらの施設を使って鉄道を運行する「官民連携」方式で、これにより鉄道会社の負担を大幅に減らすことができます。
さらに行政支援の実現には「被災による地域住民の意識の変化」が大きかったといいます。
(くま川鉄道 永江友二 社長)
「災害で走れなくなって、無くなったことで地域の意識が変わって、応援しようという思いが上がっていった」
大井川鉄道も行政からの支援を受けることはできるのでしょうか?航空・旅行アナリストで鉄道に詳しい鳥海高太朗さんは・・・。
(航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗 さん)
「静岡県に対して(大井川鉄道の)必要性を訴えていく必要がある。観光について県がどれだけ大井川鉄道のことを考えているのか、そういったところも重要」
「大井川鉄道は観光を中心とした経営戦略を立てている。通勤通学等ではあまり使われていない中で、どういった支援をするのか。観光をメインでやっているケースで自治体の支援はあまり国内では例が無い」
広報の山本さんも、今回のツアーで鉄道会社と地域のつながりの強さを感じたようです。
(大井川鉄道 広報 山本豊福 さん)
「地域で一体となって鉄道を維持してくという空気が醸成されている。事業者にとってはすごく支えになると思う」
観光に完全特化した大井川鉄道。完全復活には、地域の観光や経済にとって必要不可欠ということを、いかにアピールできるかがポイントとなりそうです。
(静岡第一テレビ every.しずおか 2023年10月19日放送)