クマと対峙するハンター 自治体の向き合い方は? “民間頼みの駆除” 浮き彫りに 北海道
クマがマチに現れたとき、緊迫の最前線に立つ「猟友会」。
しかし、5月に北海道奈井江町の猟友会が上げた声をきっかけに、報酬のあり方などがクローズアップされています。
地域の安全を守る自治体は、どのように民間のハンターと向き合うべきなのか。
3つの自治体の例から考えます。
(奈井江町の農家 大辻諭さん)「クマもシカも自分たちの近くまで下りてきているのは、ここ何年かずっとそうなんで、怖いですよね、素直に」
不安な思いを打ち明けるのは、奈井江町の大辻諭さんです。
6月、高速道路のすぐ側でクマ2頭を目撃しました。
(奈井江町の農家 大辻諭さん)「役場と猟友会が話し合って、対策をとってほしい」
連日、クマの目撃が報じられる北海道内。
市街地周辺で目撃されるケースも多く、警戒感は高まる一方です。
クマの駆除に大きな力を発揮するのが、地元の「猟友会」。
しかし、奈井江町は猟友会に駆除を依頼できません。
猟友会との話し合いが決裂したからです。
この日、役場を訪れた地元猟友会の山岸辰人さんは、思わず語気を強めます。
(北海道猟友会砂川支部奈井江部会 山岸辰人部会長)「俺たちは役場の下請けじゃないんだよ。最低賃金にも引っかからない」
そのわけは“1日8500円”という、町が示したクマ対応の報酬にありました。
命の危険と隣り合わせのクマの駆除。
本来は趣味のハンターの集まり、民間組織の猟友会を軽視していると、山岸さんは怒りをあらわにします。
(北海道猟友会砂川支部奈井江部会 山岸辰人部会長)「米軍の特殊部隊を相手にしているようなものですよ。(クマは)音もなく忍び寄ってくる。アルバイトみたいな報酬で誰がやりますか、危険な作業」
一方で町側にも言い分が。
三本英司町長は隣の自治体の報酬額を参考にしたと話し、問題点を指摘します。
(奈井江町 三本英司町長)「国にしても道にしても(報酬額の)標準的なものはない。各自治体がそれぞれの状況の中で設定していて、どこが標準なのか苦慮しているのが実態です」
6月10日、札幌市内で開かれた北海道猟友会の総会に臨む山岸さん。
総会では報酬額について、道内のハンターから意見が噴出しました。
(総会での意見)「奈井江部会の声はその通り。燃料代も考えると赤字もいいところだ」
(総会での意見)「クマの出動手当などについて奈井江部会が単独で声を上げたが、北海道猟友会で全道的な調査をしてほしい」
民間のハンターの負担を「当たり前」としている現状が、奈井江町をきっかけに浮き彫りになりました。
(北海道猟友会砂川支部奈井江部会 山岸辰人部会長)「ハンターの皆さんが疑問に思っていることが言葉になって出てきた。みんな協力したい気持ちでやっている。そこに自治体が乗っかっているのは変な話ではないかと。まさに報酬問題とはそういうことだと思う」
自治体と猟友会が衝突するケースは、奈井江町に限ったことではありません。
(礒貝記者)「午後11時40分すぎ。住宅の前、クマが右に向かって動いています」
2018年夏、島牧村の住宅街には毎日のようにクマが現れ、緊張に包まれました。
(猟友会)「(爆竹)鳴らしても逃げないわ」
連日の出動でつみ重なった猟友会への報酬は1000万円を超えました。
村議会は高額すぎるとして、上限を設ける条例を可決。
これに反発した猟友会は、およそ2年にわたり村への協力をやめたのです。
(北海道猟友会寿都支部 高島紀彦支部長)「村民の安全のためだから出てくださいと、いくらかかっても構わないから出てくださいと言われて出たらあの感じだから、何を言っているのかなと」
村民からの苦情も相次いだため、2020年に条例は改正。
毎年話し合いで報酬額を決めることなどで、猟友会は協力を再開しました。
今年度は8時間の出動で2万6900円が支払われます。
(島牧村企画産業課 栗田翔主幹)「情報共有を図ったり、わからないことがあったら相談して対応を検討させていただいています。顔を合わせて話をするようにしている」
(北海道猟友会寿都支部 高島紀彦支部長)「(奈井江町は)役場が勝手にこの金額でやれと、一方的に押し付けているように感じる。島牧村はそんなことない。1年に1回必ず話をしている。お互いに納得するような議論をして、話をするというのが一番必要だと思う」
マチの90%以上が山林という上川の占冠村です。
村役場に勤める浦田剛さんは「野生鳥獣専門員」。
毎月、村の広報誌にクマに関する記事を載せています。
(占冠村野生鳥獣専門員 浦田剛さん)「クマのようす、シカのようすを見ている私たちの感覚が伝わるように、生き生きと伝えていきたいと心がけています」
村の巡回は欠かせない仕事。
浦田さんはハンターの資格を持ち、必要であればクマの駆除も担う、いわゆる「ガバメントハンター」です。
占冠村は、公務員が主導してクマの対応に当たっています。
(訓練)「今さっき占冠の市街地で、クマ1頭を目撃したという110番通報がありました」
占冠村では6月、クマ出没の訓練が開かれました。
有害鳥獣対策を担う地元のハンターや警察などが参加するなか、「野生鳥獣専門員」の浦田さんも模擬銃を手に現場に駆け付けます。
(ハンター)「クマ目視できました」
道の駅の裏手にクマが現れた想定の訓練。
発砲が難しい場所と判断し、まずは「追い払い」をするべく、浦田さんが無線機を手にハンターを指揮します。
(占冠村野生鳥獣専門員 浦田剛さん)「少し車を前進させてください」
(ハンター)「車を前進させ圧力をかけます」
(ハンター)「土手まで20メートルの位置まで前進しました。前進継続でよろしいですか」
(占冠村野生鳥獣専門員 浦田剛さん)「その位置から堤防に平行に上流方向へ誘導します」
ハンターが連携を取りながらクマを取り囲みます。
クマは住宅が少ない山のほうへ移動しました。
訓練の最終段階は「クマの駆除」です。
(占冠村野生鳥獣専門員 浦田剛さん)「ゆっくりクマの動きを見つつ、動いたときには射線に入ったら、すかさず撃つという判断。かなり近接戦闘が予想されます。基本的には2人1組でバックアップを取りながら声をかけながらやりたい」
先陣を切って、クマがいる茂みへと向かうのも浦田さんです。
そして、クマが死んだことを慎重に確認して、本番さながらの訓練は終了しました。
(北海道猟友会占冠部会 有光良次さん)「最終的に判断する、特に発砲にかかわることを判断してくれる人がいる状況で動けるというのは、指示を出される側としてはやりやすかった」
浦田さんは、自治体の職員がリーダーシップを発揮することが、地域がまとまる近道だと考えています。
(占冠村野生鳥獣専門員 浦田剛さん)「野生鳥獣専門員を置いて仕事させてもらっているのは、ある意味では地域社会の住民のひとつの決意でもある。地域を動かしていく、そういうトリガーになれたらなと思っています」
クマの目撃が相次ぐ道内。
危険な任務を民間に大きく頼る体制は曲がり角にきています。
自治体とハンターが適切な関係を構築し、ともにクマと向き合う時が来ています。