クマ“OSO18”駆除から初めての春「油断禁物」地元ハンターが警鐘「もっと現場の声を」
北海道・道東の標茶町で66頭の牛を襲ったクマ「OSO18」が駆除されて9か月。
道東でも、まもなく山菜採りの季節を迎えようとしています。
「今年は安心して楽しめる」という声が聞こえてきそうですが、「油断は禁物」と警鐘を鳴らすのは、4年間OSO18と向き合ってきた地元のハンター・後藤勲さん(80)。
「OSO18が駆除されても、標茶町には今も10頭以上のクマが生息している。1頭が駆除されたに過ぎない」。
山菜採りの季節は、クマが子育てする時期とも重なり、遭遇すると子を守ろうとする母グマに襲われる危険性は変わらないといいます。
2017年と2021年には標茶町と、隣町の厚岸町で山菜採りをしていた男性が子育てクマに襲われ2人が死傷し、いずれも駆除されてはいないといいます。
更に後藤さんが懸念しているのが「第2のOSO18」の出現です。
OSO18が襲った牛の残滓を食べに来た別のクマが監視カメラで複数確認されているといいます。
「肉の味を知ったクマは自ら牛を襲う可能性がある」というのです。
▼被害とクマ対策
2023年度は全国で人がクマに襲われる事故が198件と過去最高で、6人が亡くなりました。
道内でも5月、幌加内町・朱鞠内湖で釣りに来ていた男性がクマに襲われ死亡。
10月にも道南の福島町・大千軒岳で、登山をしていた北海道大学の学生と消防士が、同じクマに襲われ学生が死亡しました。
相次ぐ被害に環境省は、クマの指定管理鳥獣への追加を4月16日に決定し捕獲事業や調査などに交付金を出すことを決めました。
一方で高齢化が進むハンターの成り手不足が課題になっています。
警察庁は長野県で警察官を含む4人が殺害された事件をうけて、凶器に使われたハーフライフル銃の規制強化を閣議決定しました。
ハーフライフル銃は、散弾銃と同じく1年目のハンターも所持できましたが、これからは射程距離が約2倍のライフル銃と同様に10年の狩猟経験が必要になります。
猟友会や専門家は、ハンター不足につながるなどとして反対し、都道府県から被害防止のため必要との求めがあれば所持を認めるなど柔軟に運用する妥協案が示されています。
この動きについて後藤さんはハンターの育成は必要としながらも狩猟免許制度の課題も指摘します。
狩猟免許は知識や適性試験と、銃の取り扱いや射撃姿勢などの基本的な技能試験に合格するだけで取得できます。
後藤さんは「完全に仕留められなかった手負いのクマは狂暴になり危険。猟銃の免許を取得後、経験豊富なハンターのもとで一定の経験が必要」と訴えます。
つまり車の運転免許のように狩猟にも実地研修が必要というのです。
若手ハンターの銃が暴発し同行していたベテランの仲間を亡くした経験を持つ後藤さん。
「地形や予期せず獲物に出会った時の対応を知るなどの経験がないとハンターにも危険が及ぶ可能性がある」といいます。
10年程前からクマは増えていると実感する後藤さんや猟友会は、対策の強化を訴えてきました。
しかし2023年、被害が急増し市街地に出没するクマ「アーバンベア」の問題がが表面化し、ようやく国や道が重い腰を上げたといいます。
2024年4月11日に開かれた有識者会議で国は、住宅地での猟銃の使用や建物内での麻酔猟銃の使用について法改正の検討を始めることを明らかにしました。
法改正は歓迎とする後藤さんですが最後に思いを語りました。
「お金のためではなく趣味と使命感でハンターをしている。一方で危険を顧みず住民のためにクマを駆除しても『かわいそう』などと非難される。もっと現場の声を聞いてくれなければ成り手不足が加速し、対策が机上の空論になる」と危機感を訴えています。