【特集】中越地震から20年 人口減少進む旧山古志村でデジタル村民が活動 「好きな地域を残したい」 《新潟》
中越地震からことしで20年。
旧山古志村の人口は半分以下になり高齢化も深刻です。過疎化が大きな課題となる中、関係人口を増やす取り組みが行われています。「好きな地域を残したい」その思いで関東から通う“デジタル村民”を追いました。
先祖が守ってきた伝統は今も繋いでいます。
1000年の歴史があるとされる長岡市旧山古志村の「牛の角突き」。1トン近くの牛同士が自慢の角を突き合わせて熱い戦いを繰り広げます。
<山古志闘牛会 松井富栄会長>
「20年前頑張って尽力してくれた人たちがいて今があるっていうのを忘れずに、 ことし1年は頑張りたいと思います」
シーズンの開幕に向けて準備が始まったのは4月21日。闘牛会のメンバーなどが集まり落ち葉の掃除をします。
山古志闘牛会の会長・松井富栄さんです。
<山古志闘牛会 松井富栄会長>
「今日は闘牛場の春の清掃と準備で、足元も悪くなるし、きれいにしておいた方がお客さんだって気持ちいいし」
闘牛場の設営も行います。観客が安全に「角突き」を見られるようにとしっかりとワイヤーを張ります。
<闘牛会のメンバー>
「牛さんがケガをしないようにねじをこっちにしておけば」
牛がワイヤーにあたって傷つかないようにとねじの部分にはシートを巻いて保護します。牛は“大切な家族”……その思いが心の中にあります。
2004年に発生した中越地震。旧山古志村では震度6強を観測し、至る所で道路が寸断。住民は「全村避難」を強いられました。
多くの牛が死に、生き残ったものはヘリコプターで救出されました。
震災によって存続が危ぶまれた「牛の角突き」。伝統を途絶えさせてはいけない……その思いで仮設の闘牛場をつくり、震災の翌年には角突きを再開してきました。
4月29日。開幕前のプレイベントが行われました。
<山古志闘牛会 松井富栄会長>
「本開催とは違った普段お見せできない部分の牛の育て方を知ってもらえればなと思っています」
始まったのは「角突き」本番に向けた牛の稽古。綱をつけながら経験のある大きな牛と若い牛を取り組ませます。
黒牛が16歳のかなさん。赤牛が3歳の繁蔵です。若い牛は経験豊富な牛と取り組むことで自信をつけることができるといいます。
牛の稽古の様子を公開するプレイベントはことしで5回目。全国から約350人が訪れました。
会場では募金活動が行われ、集まった入場料と一緒に元日に発生した能登半島地震の被災地へ義援金として送られます。
そんな中、カメラを手に稽古の様子を撮影するひとりの男性。地元の人ではないようです……
ですが……。
<地元の人>
「山古志のことをすごい愛してくれて、私達より山古志のこと知っているかもしれない」
男性は一体……。
5月3日。山あいの斜面に池や田んぼが連なり、そこに立つ一本杉……山古志の名所のひとつです。
<デジタル村民 RYU(リュウ)さん>
「ちょうどあの木が映っているのがきれいなんですよね」
神奈川県に住むRYUさん58歳。山古志のデジタル村民です。
震災前はおよそ2100人が住んでいた山古志地域ですが、今では約750人に。
過疎化が課題となる中、関係人口を増やそうと2021年に地元の人たちで作る団体が「デジタル村民」プロジェクトを始めました。
この団体が地域の外の人に販売したデジタルアート「Nishikigoi NFT」。
これを“デジタル住民票”として手にした人たちを山古志に住まなくても「デジタル村民」として扱うというのです。
彼らは地元住民と交流し一緒に地域の課題解決に向けて取り組んでいるといいます。
RYUさんは今回、仲間を連れて山古志を回り各地で撮影。360度カメラを使い山古志の魅力を紹介する動画を制作する予定です。
<デジタル村民 RYUさん>
「見ていて気持ちいい場所だし、 人が温かいので来るんですよね。 それは自分が楽しいと思うことだから、いろんな人に知ってもらった方がいいなって いうのが動機なんですよね」
山古志のことは中越地震の際に、ニュースでよく耳にしていたといいますが、訪れたことはなかったRYUさん。おととしにデジタル村民となり、去年2月に初めて山古志を訪問。次第に自然や文化などに惹かれていきました。今では毎月のように山古志に通っているといいます。
それだけ通えば地元ではすでに馴染みの顔。
<地元の人>
「山古志のことをすごい愛してくれて、私達より山古志のこと知っているかもしれない」
<デジタル村民 RYUさん>
「居心地がいいんですよねここ来ると。こうやって声かけてくれる、車までわざわざ停めて」
<地元の人>
「すごいアイディアだとかスピード感とか私達そこまでできないけど、皆さんどんどんどアイディアを出してくれて」
翌日。「牛の角突き」初場所の日。
開幕に向けて準備が進められる中、RYUさんも早めに会場に駆け付けます。
毎年5月に始まり11月まで続く山古志の「牛の角突き」。
開催日には他のデジタル村民も訪れます。
東京に住む金光碧さんです。
<デジタル村民 金光碧さん>
「通っているとそれなりに詳しくなってくるので、詳しくなってくると詳しくなってきた人なりの楽しみがあり面白いですね」
RYUさんと金光さんはデジタル村民として「牛の角突き」のファンクラブを立ち上げています。「角突き」に訪れた人がより楽しめるようにと、歴史や牛の紹介などをまとめたサイトも作成しています。
<デジタル村民 RYUさん>
「ファンクラブ作って仲間を増やそうと、仲間が増えれば闘牛会が盛り上がって、だんだん牛も減っていちゃっているから、それをもう1回盛り返すことにつながったらいいなっていう発想です」
いよいよ取り組みがスタート。
晴天の中、冬を乗り越えた牛が勢子の鼓舞にあおられ、相手に負けじとぶつかり合います。
<デジタル村民 RYUさん>
「だんだん千秋楽向かうごとに激しくなるんですよね。でも初場所なのに頑張った」
中越地震からことしで20年。大きな被害を受けた山古志は今は日常を取り戻していますが人口減少という課題に直面しています。
そして、地域の衰退を止めるために始まった「デジタル村民」。
今は山古志の人口を超える1700人にまで増えています。
<デジタル村民 RYUさん>
「地方はいろんな良い文化があったりとか、美味しいものがあるとか、山古志に限らず、でもそういうのってどんどんなくなっていっちゃうはずなんですよね。 それは日本にとってすごいもったいないなと思っていて、それぞれの人が好きな地域を残すことに協力をするというか、自分が好きだから残したいわけだから、何かをするための方法の一例が示せたらいいなって感じ」
<山古志闘牛会 松井富栄会長>
「関係人口とか携わる人が増えてくれたから大勢の人が来てもらえるようになっているので、デジタルの人もデジタルじゃない人も一緒にこれからもやっていきたいと思います」
震災という絶望を乗り越えてきた山古志地域。
これからはデジタル村民という強力な仲間と共に地域を守っていきます。