【特集】伝統を守るためニューヨークへ! 老舗の織物会社を引き継いだ男性の挑戦 着物を世界へ 《新潟》
越後上布や本塩沢など、上質な織物で知られる南魚沼市塩沢地区。
ここで織物会社を引き継いだ男性がいます。
伝統の灯を絶やさないために・・・。
新たな挑戦の地に選んだのは、アメリカでした。
アメリカ・ニューヨークです。
流行の発信地であるこの街に、ひとりの男性の姿がありました。
南魚沼市の織物会社「やまだ織」の社長、保坂勉さんです。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「ニューヨークというのはファッションの街で世界的に有名ですので、そこでどれだけ私たちの商品が通用するのかというのを現地で確かめるためにニューヨークを選びました」
新潟の老舗企業がいま、世界を狙っています。
昔から織物の生産が盛んな南魚沼市塩沢地区。
「やまだ織」は1913年、大正2年に創業しました。
1000年以上の歴史があるとされる塩沢地区の麻織物「越後上布」の技術を応用して、絹織物を生産してきました。
春や秋に適した「本塩沢」に、暑い季節に適した「夏塩沢」。日常的な着物の生地としては最高級とされています。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「海外は着物としては需要は少ないかもしれないですけど、生地としては非常に明るい将来があるんじゃないかと考えています」
生地としての魅力を世界へ発信したい・・ ・その舞台となったのがアメリカでした。
ことし1月、ニューヨークで開かれたファッションショー。
日本の伝統文化を世界に広めるプロジェクト「サクラコレクション」です。
衣装の生地に採用されたのが「やまだ織」の絹織物でした。
海外のデザイナーが引き出す新たな魅力・・
〈デザイナー〉
「日本の伝統的なテキスタイルを取り入れるのはとても楽しかったです。私たちにとって、また新たなインスピレーションの形となりました」
生地の質感はモデルにも好評でした。
〈モデル〉
「とてもやわらかくて着心地が良いですこれならクラブに行くときなど、外に着て行けそう」
「質感がとても気に入りました。歩いているだけでとても気持ちが良いです」
保坂さんが驚いたのは生地の扱い方です。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「非常に衝撃、ある意味ショックを受けた部分もありますね」
反物は直線に切るのが基本ですが、着物を知らない海外のデザイナーはお構いなし。
曲線に切ったり、生地の糸をほぐしたりと、着物の常識にとらわれない使い方だったといいます。
保坂さんはそこに新たな可能性を感じていました。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「素材の使い方という意味ではまだまだ幅があるんだなと関心した部分もあります」
なぜ、ニューヨークへ新潟の伝統を進出させたのか・・・。
背景には着物を取り巻く国内の現状があります。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「後継者不足というのは深刻な問題になっています。ものづくりという観点においては、昔と同じようにはできなくなってきつつあります」
日本国内での着物の需要は年々減少。 さらにコロナ禍が追い打ちをかけました。
最盛期には500人以上が携わっていた「やまだ織」も、現在は9人にまで減ってしまいました。
「やまだ織」の強みは、職人の技術にあります。
会社のヒット商品でもある100色の糸を使った反物は、職人が1色ずつ糸を染めています。
品質チェックもすべて人の目。 その技術の全てが会社の財産です。
4年前に社長に就任した保坂さん。 実はもうひとつの顔があります。
それが・・・。
塩沢地区の牧之通りに店を構える着物のリサイクル店、「ちどりや」。
社長としてリサイクル着物の販売や海外への輸出を行うなかで、「やまだ織」を引き継がないかと打診されたといいます。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「やまだ織の今後の経営を考えたときに、若手の人に経営を譲りたいというお話がありまして。直感ですね」
会社で使う機械は、すでに製造されていないものや、職人が手作りしたものばかり。
一度、その灯を消してしまうと復活させることはできません。
そこで保坂さんは、事業を受け継ぐ事業承継をすることを決めました。
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「私はリサイクルの着物もやっていますので、やまだ織の反物もたくさん出てくるんですよね。実際よく売れるんですよ。そんな中、引き継いだらどうだという話がありまして。売れる商品の元ができるのであれば、ぜひやってみましょうということで」
塩沢の織物を残していくために、新たな市場を開拓したい・・
リサイクル着物を輸出している経験をいかして、“ファッションの一部”として売り込み、世界中の人に着てもらおうと考えたのです。
この日、保坂さんの姿はニューヨークにありました。
行われていたのは商談会。
バイヤーやメディアなど、多くの人が日本伝統の絹織物に興味を示していました。
〈来場者〉
「日本文化が大好きで、それをデザインするのも好きなんです。生地はディティールが細かく、見ていてとても興味深いです。そういうディテールの生地を見るのが大好きです。だから、実際に触ってみて、どんな生地なのか確かめたかったんです」
〈デザイナー〉
「こういうものはいくらで売るんですか?」
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「 これは古着ですが…」
〈デザイナー〉
「関係ないよ」
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「300ドルです」
価格やサイズ、在庫の写真など、商談に向けて具体的な資料を送ることを約束しました。
〈デザイナー〉
「NYの人は着物の市場を望んでいる。けれどそれは本物でなければならないです。彼(保坂さん)が着ているものは値段も適切で、すべてが完璧でした。だから楽しみです」
〈やまだ織 保坂勉社長〉
「着物に対して非常にみなさんリスペクト、尊敬していると感じました。きょう一番手ごたえがあったと思いますし、今後のビジネスで明るいニュースを持って帰れると思います」
ニューヨークで見つけた着物の新たな可能性。
海外での挑戦が新潟の伝統、そして職人の技術を未来へと紡ぎます。