【特集】きつ音 「知ってくれるだけで救われる心がある」理解が最大の支援「人前で話すことが嫌だった」自らの経験もとに活動する男性「ありのままの話し方で…」
話すときに言葉がスムーズに言い表せない「きつ音」。
自らの経験をもとにきつ音への理解を広げようと活動する男性がいます。
「ありのままの話し方でいい」、いま男性が伝えているメッセージです。
絵本読み音生かし
「ザックンショベルカー。月曜日。ショベルカーがお仕事に出かけます。きょう、お兄さんが乗るのは一番小さいショベルカー1号。ねえお父さん」「はいよ」「1,2,3って・・・」
奥倉徹士さん39歳。4歳の息子に、絵本を読むのが日課です。
絵本読み
「火曜日。きょうは街で水道工事。小さいショベルカー1号は・・・」
奥倉さんには、きつ音があります。
奥倉さん
「いつか聞かれると思うんですよね。お父さんは何で突っかかっちゃうのとか。なんでスラスラ読めないのって。」
奥倉さんはパン職人です。佐久市の社会福祉法人に勤務し、仲間にパン作りを教えています。
きつ音に対する理解が今のように広まっていなかった少年時代。毎日、頭にあったのは「隠したい」という思いでした。
奥倉さん
「なるべくなら僕に当てないで下さいという感じ。でもそんなこと言えませんし、結局あきらめて、答えは分かっているのにわかりませんって答えたりとかありましたね」
高山先生
「きつ音というのは出さないように、ならないように気を付けて話そうとすればするほど、余計話しにくくなってしまう」
東御市で開かれたきつ音を学ぶ研修会。東御市民病院できつ音外来を担当する言語聴覚士の餅田亜希子さんときつ音当事者の教諭高山祐二郎さんが講師です。
会場には、奥倉さんの姿もありました。
餅田先生
「一番大切なことなのに一番知られていないのが、実はきつ音が進展する。つまりきつ音が重くなる、わかりやすく言えば悪化してしまうということです」
例えば「ありがとう」というとき。「あああ」と同じ音を繰り返すことを連発、「あーりがとう」と音を引き伸ばすことを伸発、声が出ず言葉が詰まることを難発といいます。
連発が自然な話し方とされますがきつ音を隠そうと工夫することが続くと伸発や難発に進行する可能性があります。
「連発」で話すことが「自然で楽な話し方」。「その理解が最大の支援」と餅田さんは伝えました。
餅田さん
「大多数のどもらない人の話し方が普通。少数派であるどもる話し方がおかしい。なおすべきもの。という考え方そのものを見直して、変えていく必要はないでしょうか」
「きもちいい!」
7月。きつ音の仲間や家族がありのままに話せる場を作ろうと奥倉さんが開いた交流会。
奥倉さんこどもと
「(小学校のころ前ならえが)一番小さかったからこうだったの」
「あ、前ならえがこれ?」
「そう、前ならえ!ははは」
保育園の年長から40代まで、県内外の7人が集まりました。緑のトンネルがみんなの心を近づけてくれます。
そして。
奥倉さんこどもと
「どう?おいしい?おいしいか」
奥倉さんが焼き上げてきた特製のパンです。
参加者
「中村和也といいます41です。穴井耕之介といいます。名古屋から来ました。去年もこの会に参加しました。なので2回目の参加です。おいしいですね」
奥倉さん
「主催者として主催するというのが、僕、すごいなと思って。その行動力と、いろんなこと決断していかなくちゃならないじゃないですか。そういったことをしっかり踏んでこういう会を開いてというのが僕はすごいなと思って尊敬しているんです。一人でもちょっとでも救われればなと思って」
2歳から5歳の間におよそ100人に5人の割合で発症するとされる「きつ音」。その原因は特定されておらず多くは自然になくなりますが人口の1%、およそ100万人はきつ音が続きます。
奥倉さんは参加者一人一人にメッセージを書いたラスクをプレゼントしました。
参加者
「これはご自身の?」
「はい、ゆっくり、焦ったらあんまりよくないので、何事もゆっくりしていこうかなと」
「素敵ですね」
奥倉さん
「僕は奥倉徹士と申します。このように僕は自分の名前をスラスラと言えたことが一度もありません」
人権講話の講師として奥倉さんが招かれました。
自分ののどを殴るほど。声が出なくなればいいと願うほど、人前で話すことが嫌だった中学、高校時代。
それから20年。一番伝えたかったこと。
奥倉さん
「僕きょう、話しやすいんだけど、なんで話しやすいかというと、皆さんが、僕がきつ音だということを知っていてくれるから。きつ音を知っていてくれるというだけで、僕は。どもっちゃいけないって思わなくていい。どもってもいいんだと思えるのは楽なんですよね。だから知ってくれるだけで救われる心がある」
生徒
「自分のつらい過去とかを多くの人に共有することってすごく簡単なことではないと思うんですけど、こうして高校生に伝えてくれて、私たちも勇気をもらいましたし」
生徒
「一人の人間として特別に扱うわけではなく、みんなと同じように平等に、かつ、その人が安心とか楽に話せるような感じで寄り添っていけるのが一番いいかと思います」
奥倉さん
「ありのままで行こうと思って。自分を隠すことなく。ありのままで、向き合っていきたいなと思っています。それも言おうと思ったんですよねー」
心が弱い。努力が足りない。場数を踏めば治る。
かつて、自分を苦しめた言葉たち。だからこそ。知ってくれるだけで救われる心があることを伝えたい。
「きつ音の僕がしゃべる意味っていうかね。そういうのも感じてもらえればありがたいなと思いますね」