猛暑で大幅に収量減らしたサクランボとコメ 気候変動や価格高騰に翻弄された山形県内農業の一年
山形県内のことし1年のさまざまな出来事をシリーズで振り返る「カメラが見つめたやまがた2024」です。4回目は、県の基幹産業「農業」に注目します。中でも主力の「サクランボ」と「コメ」は気候変動や価格高騰などに翻弄される1年となりました。
冬真っただ中の1月4日。天童市のハウスで超促成栽培の「サクランボ」がたわわに実りました。東京・大田市場ではきり箱入り500グラムが過去最高額の140万円で競り落とされました。
生産者・花輪和雄さん「能登半島地震や航空機事故があったので少しでも心が和むような食べ方をしてもらえれば良い」
春先。ことしも霜や凍結による果樹被害が心配されましたが…。生産者たちは夜を徹して対策にあたり、被害はほとんどありませんでした。
JA山形中央会・大武義孝参事「順調に生育しているぜひいい収穫に結びつけるように期待している」
しかし、ことし、県産サクランボはかつてないほどの危機に見舞われます。
東北農林専門職大学石黒亮・准教授「去年の夏、暑さで花芽が異常形成されてめしべが2つになって双子果になったというのがことしの現象」
実が2つくっついた状態で生育した「双子果」が大量発生しました。原因として考えられているのが去年夏の猛暑です。
通常のサクランボでは花芽にあるめしべの数は本来、1本。しかし、猛暑の影響で花芽に異常が発生しめしべが2本になるとみられています。その2本のめしべが受粉して実になるため最終的にくっついた状態になるということです。
「双子果」は通常、規格外品として扱われます。果実としての出荷が難しいため、収穫量の減少が懸念されました。
さらに追い打ちをかけたのが猛暑です。
沼尻農園・沼尻淳さん「水分がギュッとなった状態。これはもう完全に出荷できないし、売り物にもならない」
6月のサクランボ収穫期。暑さで実が柔らかくなる高温障害が各地で発生。天童市内の園地でも多くの実が黒く変色したり日に焼けてしぼんだりしました。
中川悠アナウンサー「オープンして10分ほどたったところですがこの人だかりです」
収穫量が減ったサクランボをなんとか買い求めようと産直施設には連日、多くの人が。
客「無くなるのが一瞬でしたすごかった」「何が起こってるっていうくらいびっくり」
県が8月にまとめたサクランボの予想収穫量はおよそ8700トン。大規模な霜の被害に見舞われた1994年・平成6年の8570トンに次いで平成以降2番目に少ない記録的な凶作となりました。
JA全農山形鈴木雅昭園芸部長「これまでとは次元の異なるような革新的な対策をとらないとサクランボ生産が持続可能にならないのではないか」
迫られている高温対策。甚大な被害を受け県は、高温の下でも安定した生産ができるよう生産者らへの支援に乗り出し、来シーズン向けての対策に取り組んでいます。
ことし県内農業のもう1つの主力、コメにも異常事態が。
フードセンターたかき元町店沖田智店長「6月ころから徐々に品薄傾向が見られ始め今はとてもコメ不足が深刻な状況」
去年、高温によって収穫量が落ち込んだことに加えインバウンドによる和食需要の高まりの影響を受けコメが品薄に。店頭からコメが消えました。
買い物客「毎日早く来ているがきのうも何もなかった政府で備蓄米を早く出したらいい」
買い物客「ここに来る前ももう1か所まわってきたが無かった全然」
コメ不足となった事態を受け、JA全農山形は9月、新米を集荷するときに農家に前払いするコメの「概算金」を大幅に増額しました。
街の人「しょうがないけど食べないわけにもいかない子どものためとか」
街の人「値上がりは一番困る買わないわけにはいかないから買う」
新米が出回り、コメ不足が解消されると今度は、概算金の上昇などに伴うコメの価格高騰が取りざたされるようになります。
フードセンターたかき南原店大津保敬店長「以前は3200円くらいで売れていた10キロのお米も、今は6000円近く。5キロのお米も2300円ほどだったものが3000円~3500円に価格が上がっている。売り上げ点数も落ちている」
一方、生産者は「ようやく適正価格に」との思いです。
本多郁也さん「去年までは、全ての物が値上がりしている中で、コメの値段だけが変わらない状況。他の物に追いついてきた」
ことしの作況指数はコメどころの庄内や最上が7月の大雨で大きな被害を受けたことが影響し、県全体で「やや不良」という結果に。多くの生産者にとって厳しい年となりました。
一方、県内農業をめぐっては希望を感じさせる明るいニュースも。昨年度産の県産農作物の輸出量・輸出額がともに過去最高を更新。県内の農作物のおいしさが海外にも広がっています。
異常気象や市場の動向に振り回されたことしの農業。近年、毎年のように自然の猛威に翻弄される状況が続くなか、生産者たちは来年の安定生産を願いながら準備を進めています。
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