【独自解説】「当初していたのは外部通報をした“犯人捜し”」兵庫県・斎藤知事“パワハラ疑惑” に新事実 元幹部職員の告発は本当に“公益通報”の対象外なのか?調査初動の問題点を専門家が指摘
兵庫県の斎藤元彦知事の“パワハラ疑惑”。元幹部職員の告発は本当に“公益通報”の対象外なのでしょうか?初動の人事課の内部調査に関して、問題は無かったのか?亀井正貴弁護士の解説です。
■一連の日程から浮かび上がる疑問…県の初動の調査に問題は無かったのか?
兵庫県・斎藤知事の“パワハラ疑惑”に関して、百条委員会は、県の公益通報の対応について検証を行う方針です。この百条委員会は関係者を呼んで証言させたり、必要な資料を提出させたりする強い権限を持っていて、ウソの証言をした場合は、3か月以上5年以下の禁錮、理由なく証言を拒否した場合は6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金が科せられます。8月23日には県職員、30日には斎藤知事などへの証人尋問が予定されています。
今後この「公益通報」が大きなポイントとなりますが、時系列で整理しますと、2024年3月12日、元幹部職員は『告発文』を報道機関などに送付しました。そして3月20日には知事は「告発文」を把握していたということです。翌21日、県の職員らと文章の内容を共有し、元幹部職員の関与の可能性が浮上しています。さらに23日、県の人事課が元幹部職員の公用メールから文章の骨子となる内容を発見しています。
そして、25日には県側が元幹部職員を事情聴取し、以降5月7日までの間に計6回聴取が行われたといいます。また、25日に県は元幹部職員の公用パソコンを引き上げています。そして3月27日、県の人事課は3月末に迎える予定だった元幹部職員の定年退職を取り消し、役職を解任しています。同じ日に斎藤知事は「嘘八百は公務員失格」などと強い発言をしています。
4月4日、元幹部職員は公益通報制度を利用して、県の窓口に内部通報を行い、担当部署が手続きを開始しました。4月中旬に県・人事課はここで初めて弁護士に相談をし、「公益通報に当たらない」との見解を確認できたということです。つまり、4月中旬まで公益通報に当たるか当たらないかを確認していなかったのではないか、との指摘を受けています。
Q.県側は、4月の中旬に弁護士が「公益通報に当たらない」という見解を出す前に、粛々といろんなことを進めていますが、これはどうなんですか?
(亀井正貴弁護士)
「非常に問題だと思います。通報の対象は知事ですから、県側の知事や幹部は実質『利害関係人』なんです。当初しているのは、外部通報した“犯人捜し”です。人事課を使っていますが、本来外部通報と人事課による懲戒処分というのは対立・拮抗するものです。懲戒処分から守るのが公益通報制度なんです。県側の人事課に調査させたということは、客観性も保てないし公平性も保てないのです。結局は犯人探しをして、自分たちを攻撃している側を潰そうとしたというふうにしか見えません。通常、内部通報の場合は人事課を排除して対応するのですが、外部通報の場合はその辺がちゃんとできていないということも、本件をややこしくしている要因だと思います」
■なぜ元幹部職員の告発文は「公益通報」保護の“対象外”になったのか?
なぜ「公益通報」保護の“対象外”になったのでしょうか?8月7日に開かれた会見では、「告発文」の内容について、①「具体的な供述や根拠が示されていない」、②元幹部職員への事情聴取で「ウワサ話を集めて作成した」と供述があった、③県の弁護士の見解で「法律上保護する公益通報に当たらない」、からだとしています。
「公益通報者保護法」は「単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容が真実であることを裏付ける証拠や、関係者による真実性の高い供述など、相当の根拠が必要」だとしています。
また、斎藤知事は「後から(県の)公益通報の手続きを取ったとしても、それ以前に行われた文章の配布行為が遡って公益通報として保護されることにならない。懲戒処分も逃れられない」としています。
「公益通報者保護法」では、通報先を①事業者内部、②権限を有する行政機関、③その他の事業者内部(報道機関等)となっています。斎藤知事は「内部通報は、真実相当性がそこまでなくても受け付けられる。一方外部通報は、真実相当性が要件となっている」と話しています。
Q.内部通報の場合は保護のハードルは低く、外部通報の場合は真実相当性などハードルが高いのはなぜですか?
(亀井弁護士)
「内部通報だと違法性はないのですが、外部通報だと例えば自分が属している企業の名誉棄損や信用棄損、誠実義務違反などだけではなく、場合によっては刑法や民法に触れる恐れもあるので、その違法行為を消すのであればそれなりにハードルを上げるということです」
■懲戒処分の調査権と懲戒権を持ってる人事課が初動の調査…そこに問題点はなかったか?
県は元幹部職員に対しての懲戒処分の理由として、「外部への文章、配布があった」、「人事データ専用端末の不正利用」、「個人情報の不正取得・持ち出し」、「勤務時間中に私的文章を多数作成した職務専念義務違反」、「特定職員の人格否定の文章を送付したハラスメント行為」などを挙げています。
県の公益通報の担当部署によると、2024年4月の通報を受けて調査をし、一部強く叱責を受けた職員を確認した。ハラスメント研修や贈答品の受領基準の明確化など是正措置を求める方向で検討していくということです。
県・人事課の内部調査に問題はなかったかについて、斎藤知事は、「人事課が非違行為に該当する事案を把握した場合には、あくまで人事課が懲戒処分の調査権と懲戒権を持っているので、彼らがまずは事実関係を一つ一つ確認していく。然るべきタイミングで弁護士に相談、リーガルチェックをしていただくのは正しいプロセス」としています。
また、初動の対応は誰が判断したのかについては、「(「告発文」に関して)信ずるに足る相当の理由が我々は確認できなかったので、一連の対応をさせていただいた」と話しています。
Q.懲戒権を持っている人事課が初動の調査をしたのが問題では?
(亀井弁護士)
「利害関係人である知事の指揮の元にあって、懲戒処分をするであろう機関を使っています。あくまで中立的な機関でしっかりと公正妥当な判断ができるところを使わないといけません。内部であっても完全に独立した機関で調査しないとだめだと思います。その辺が外部通報についての整備が甘いと感じます」
Q.内部通報だけだと事実が表に出てこないと思ったから、外部通報したのでは?
(亀井弁護士)
「私は、元幹部職員は『内部通報をしても握り潰される』と感じたので、外部に通報したのではないか、と思います。調査の過程で、もし『〇〇から聞いた』というと、それらも全部潰されますし、情報提供者にも迷惑をかけるわけです。外部通報に関する調査はちゃんとできてないと思います」
■事情聴取で食い違う証言…斎藤知事のいう「嘘八百含めて文章を作った」はは事実かそれとも…
そして新たな火種として、事情聴取の食い違いがでてきています。3月25日の県・人事課の 事情聴取で、「元幹部職員は『告発文の内容はウワサ話を集めて作成した』と供述した」としていましたが、4月1日、元幹部職員は「私と人事当局間でなされた意味のあるやり取りは、3月25日、職員局長へ電話で『告発文は自分一人で作成した。他に関係者はいない』と伝えたのみ」と反論しています。
また、3月27日、定例会見での斎藤知事の「本人も認めていますが、事実無根の内容が多々含まれている。嘘八百含めて文章を作って流す行為は公務員失格」という発言に対して、元幹部職員は「私への事情聴取も内部告発の内容の調査も十分なされていない時点で、公の場で告発文章を『誹謗中傷』『事実無根』と一方的にきめつけている」としています。
Q.この食い違いをどう思いますか?
(亀井弁護士)
「告発した元幹部職員としては、自分を潰しに来る人間が調査するわけで、その人たちに情報源を明かすと情報源の人に迷惑が掛るし、潰されるということがあるので、調査する側もそういった事情を汲まないといけないと思います。もしかしたら、知事や幹部は分かった上でこういう発言をしているのかもしれません」
元幹部職員が停職3か月の懲戒処分を受けたことについて、懲戒権を持つ県・人事課の担当者は「人事当局としては、懲戒処分を前提とした調査を行うにあたって、関係者の供述だけではなく裏付けとなる物的な証拠もできる限り集めている。のべ8時間にわたる聴取を丁寧に行っているので、我々としては適切な調査を尽くした」と説明しています。8月7日、斎藤知事は「懲戒処分“ありき”の調査をしたという認識はない」と答えています。
一部報道で、「人事課の調査で、職員の私物のスマートフォンのSNSの履歴を調査の必要性など説明なく見せるように要求」とありました。これに対して斎藤知事は「しっかりと調査するようにということを指示したが、具体的な調査内容までは指示はしていない。一般的に、任意での開示依頼に対して、相手方が協力的に調査に応じた場合は、調査手法として法的に問題がない。これは県の特別弁護士にも確認している」と発言しています。
Q.「任意で」と人事課から言われたときに、本当に任意になりますでしょうか?
(亀井弁護士)
「知事の発言は、断片的な部分だけを取り出しているので、これ自体を間違いとは言えないのですが、大きく見ると間違いだと思います。“捜査”ではないので、調査に当たってどういう目的でしているだとか、スマートフォンは完全にプライベートなものですので、出さなくても良いという前提で説明しないといけませんが、そういうことはしていないのではないでしょうか」
■更なる疑惑…阪神・オリックスの優勝パレードでの、“補助金還流疑惑”
2023年の阪神・オリックスの優勝パレードの資金不足を補うために、兵庫県が信用金庫などに補助金を増額し、その見返りにパレードの資金として寄付を受け取ったのではないかという「還流疑惑」が出ています。
2023年11月14日、兵庫県から信用金庫などへの補助金が総額約1億円ということで知事の承諾を得たのですが、前年と比べて減額しているので増やそうという話になり、片山元副知事が“口頭”で指示し、2日後の16日には総額約4億円に増額されたということです。
すると翌日17日以降には、複数の信用金庫などから兵庫県に寄付金が集まったということです。斎藤知事は「寄付を集める行為と補助金事業は別。適切に対応した」とコメントしています。
Q.補助金増額の翌日に寄付金が集まっているというのはどうなんでしょう?
(亀井弁護士)
「時系列的に見て間接的なところを考えると、これは一体としたものだろうと推測しますよね。補助金の支給についても、寄付についても、それだけ取り出すと違法とは言えないのですが、補助金というのは、公平にかつ適正に使われる必要がありますので、変な目的が入るとまずいわけです。知事も信用金庫も利害関係人ですので、そういった人たちの間で目的が適正かどうかを疑われるような措置というのは問題だと思います」
(「情報ライブミヤネ屋」2024年8月13日放送)