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【特集】「おかあさん、おとうさん限界です」 残業207時間50分 夢半ばで命を絶った若き医師 「過重な労働を負荷していたという認識はない」食い違う認識と病院が主張する“自己研鑽”の実態

2024年2月23日 20:00
【特集】「おかあさん、おとうさん限界です」 残業207時間50分 夢半ばで命を絶った若き医師 「過重な労働を負荷していたという認識はない」食い違う認識と病院が主張する“自己研鑽”の実態
志半ばで命を絶った高島晨伍さん

 兵庫県神戸市にある甲南医療センターの26歳の若手医師が過労自殺した問題で、医師に違法な時間外労働をさせたとして運営法人や院長らが書類送検されました。遺族や元同僚の医師が語ったのは、過酷な勤務実態でした。

1か月の207時間50分、休日は100日連続不取得…「おかあさん、おとうさんの事を考えてこうならないようにしていたけれど限界です」

 2022年5月、一人の若い医師が自ら命を絶ちました。高島晨伍さん(26)。仏壇の横には1着の白衣が掛けられていました。

(母・淳子さん)
「これをすごく気に入っていたので、棺に白衣を入れてやろうとしたら、兄が『もう働かせてやるな』と『汚れて真っ黒になってしんどい思いした白衣を入れてやるな。もう働かせてやるな』と言ったので…」

 晨伍さんは亡くなる当日の朝、自宅で自殺を図ったものの未遂に終わり出勤。しかし、勤務を終えた夕方、再び自宅に戻り命を絶ちました。第一発見者は母の淳子さんでした。晨伍さんは医師である父と兄の背中を追い、神戸大学医学部に進学。その後、研修医として勤務を始めたのが神戸市東灘区の「甲南医療センター」でした。医師3年目となった2022年4月からは、より専門的な研修を受ける専攻医として勤務。しかし、「当番業務としての外来患者の診療」・「主治医としての入院患者の診療」・「レポートの作成」・さらに、「学会発表の準備」なども重なっていきました。

 労働基準監督署によると、亡くなる直前1か月の時間外労働は207時間50分。過労死ラインとされる月80時間を大幅に超えていて、休日は100日連続で取得していませんでした。

晨伍さんの遺書にはこう綴られていました。

「おかあさん、おとうさんの事を考えてこうならないようにしていたけれど限界です」

「病院として過重な労働を負荷していたという認識はない」食い違う認識の裏にある、医師の「自己研鑽」

 労働基準監督署は、上司からの指示があったと判断。自殺は業務によるものと結論付けましたが、病院側はこれに真っ向から反論しました。

(甲南医療センター・具英成院長)
「病院として過重な労働を負荷していたという認識は持ってございません。特に時間外労働については、自学・自習の時間と生理的な欲求に応じて寝て過ごすということも多々ございます。正確にはなかなか把握できないということがございます」

病院側は207時間50分という数字には睡眠時間なども含まれ、本人から申告を受けた2022年4月の残業時間は約30時間だったと主張しました。そのうえで、労基署が認定した時間の大部分を占めるとしたのが「自己研鑽」でした。「自己研鑽」とは、自らの知識の習得や技能の向上を図るために行う学習や研究のこと。病院側は「自己研鑽」について、こう表現をしていました。

(具院長)
「医師というのは学会報告あるいは研究活動・教育活動そういった諸々のことで育っていく職業なんですね。まさに生涯教育で、一生涯勉強だというような典型的な仕事になる」

 甲南医療センターで過去に専攻医として働いていた医師は、病院での勤務実態をこう証言しました。

(甲南医療センター・元専攻医)
「救急車を応需することで、病院にとって収益になるので、それで『断らない救急』をひたすら打ち出していたというのが院内医師の共通の認識でありまして、その入院患者さんの主治医をやっている人たちっていうのは基本、全員専攻医なんですよ。ものすごい数の入院患者さんを持っているのに、日中勤務時間帯は当番業務で埋めつくされて、その時間外に入院患者さんを診るしかなくなるので、朝7時ごろから回診をはじめて、必然的に帰るのは(夜の)10時半、11時、12時というのはよくあることでしたね」

そして、「自己研鑽」については━。

(元専攻医)
「自己研鑽を逆手にとって利用しているのが当院だと思います。一般的な病院だとそんなことはないんですよね。若手の医師は、良い医師になりたいと思って頑張っているわけですし、そういう医師のために自己研鑽ということばを使うべきだと思いますし、もちろん病院に残って、手術を見たりとか勉強したい気持ちは皆あるので、そういったところで自己研鑽とされるのは全く問題ないと思うのですが、当院のようにそれを悪用して、物言わぬ労働力として搾取するような施設は厳しく処罰されるべきだと思います」

「過酷な労働環境の問題が息子の死をきっかけに少しでも改善されるように」遺族が訴える“医師の働き方改革”

高島晨伍さんの遺族は2023年夏以降、活動を本格させました。厚生労働省には、医師の働き方の改善と医師を労働者として預かる病院側の管理・徹底を求めました。そして、2023年12月15日、東京の外国特派員協会で、海外メディアにも訴えました。

(高島晨伍さんの母・淳子さん)
「息子はもう患者の命を救うことはできませんが、彼がその命と引き換えに投げかけた過酷な労働環境の問題が彼の死をきっかけに少しでも改善されるようにと私たちは努力します。これ以上若手医師が過労死することがないようにしていくことが私たちの使命です」

 2023年12月19日病院の運営法人「甲南会」と具院長、当時の上司の2人が書類送検されました。病院側は、読売テレビの取材に対し「刑事告訴され、捜査が行われた場合は書類送検されるのが通例なので、コメントはありません」と答えました。

(淳子さん)
「医師の社会的責務を逆手に取った、こういう病院の態度はやっぱり許せない。晨伍が命を懸けて身を挺して問題提起したこの機会を無駄にしないで、新しい病院に生まれ変わってほしい。率先して労務環境を改善した病院のモデルとなっていただきたいと思います」

 高島晨伍さんの両親は2024年2月2日、過重労働を認識していながら是正措置などを取らず放置したなどとして、病院の運営法人とその理事長に対し、合計約2億3000万円の損害賠償を求めて、大阪地裁に訴えを起こしました。

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