ワリエワ選手“母親の証言” 音声の全貌から混乱の要因探る②
ドーピング問題で揺れ、北京五輪フィギュア女子でまさかの4位に終わったカミラ・ワリエワ選手。涙をこらえきれず肩を震わせた15歳が背負ったものとは? 聴聞会での“母親の証言”とみられる音声を調査団体が入手。浮かび上がった矛盾点から、混乱の要因を探りました。
→記事は【①ワリエワ選手“母親の証言”音声】 からの続きです
■母と医師の間で“矛盾”
RUSADA側とみられる人物(以下、RUSADA)
「検査前調書にハイポキセンという薬を服用したとありますが、どのような目的で服用するのですか」
代理人とみられる女性(以下、代理人)
「彼女は半年に1回、検査を受ける医師からの所見があるのですが、選手には心臓の働きに少しの異変があるということです」
「それで(代表の)スポーツドクターは心臓のためにハイポキセンを処方したそうです」
RUSADA
「心臓のために、ほかに何か薬を処方しましたか。これ以外に服用した薬がありますか」
母親とみられる女性(以下、母親)
「軽い薬ですが、オメガ3を。別の時期には別の薬を服用しました。オメガ3と同様、心臓の働きを助ける薬です」
「カミラは半年に1回健康診断があり(代表の)医師は検査結果を受けてカミラの心臓のためにハイポキセンを処方してくれました」
男性
「その書類が保管されていませんか。あれば提出してもらいたい」
母親
「ありますよ」
男性
「最後に処方された情報は」
母親
「ありますから、送ります」
■曖昧なままの証言が混乱を生む
つづいてワリエワ選手側の証人として、代表チームの医師とみられる男性2人が登場。すると、母親とされる人物と異なる証言をする。
医師とみられる男性(以下、医師)
「ワリエワ選手には、年2回の検査が課せられています。検査の段階で何も病気は見つかりませんでした。従って何らかの薬の処方や治療を指示することもありませんでした。特に(トリメダジジンのような)薬に関しては言うまでもありません。トリメタジジンは心臓治療のために処方される薬ですが、リスクが高く厳しく管理されるべき薬です。そして報道されているような効果は、継続的に服用したときに表れるものです」
「禁止された薬が選手に処方されることはありません。ふらつきなど深刻な副作用をもたらします。大人にも起こりますが、子供にどんな影響があるか。フィギュアスケートのように心臓に負担がかかる選手に用いることは意味がないですし、危険です」
「選手の年齢を考えると、トリメタジジンは偶然に体内に入ったのだと思います」
RUSADA
「この薬は医師の処方が必要ということですね」
医師
「はい、そうです。薬局で処方箋薬と書いていますし、きょう、私も手に入れようと試みましたが、医師の処方がないと買えませんでした」
議長
「ちょっとお聞きしたいのですが、あなた方、医師2人は知り合いですか」
医師
「私たちはワリエワ選手の件に携わるまでは、知り合いではありません」
RUSADA
「わかりました。ところで選手の検体から、許可されている薬品と禁止されている薬物、両方が混入していますが、(トリメタジジン)を服用する人が使った食器と同じ物を使った後、今回の濃度で薬が検体に含まれることはあり得ますか」
医師
「そのような場合があるとイタリアの文献に書かれていました…」
議長
「例を出すのではなく、あなたは専門家ですから」
RUSADA
「あなたの意見が聞きたいのです」
議長
「唾液がついていた場合の具体的な話を聞きたいのです。専門家として質問されたのですから、答えなければなりません。話をはぐらかさず、明確に答えてください」
医師「可能性はありますけれども、確かかどうかはわかりません」
■15歳が背負うには大きすぎる“混乱”
ワリエワ選手側の証人とされる医師2人は、質問に対して煙に巻くような受け答えをした。そこを追及する場面も見られました。
今回の混乱はなぜ起きたのか? 娘を心配する母親や代理人、そして医師…大人たちの食い違う証言からは、“真実が明らかにならない状況”が浮かび上がり、さらなる“混乱”を生むことになったことが分かります。
RUSADA
「状況が曖昧です。お母さんの主張、代理人の主張、医師の主張が多少、食い違っています」
女子フィギュアの金メダル大本命と言われながら4位に終わり、演技後に涙をおさえきれずに肩を震わせたワリエワ選手。タス通信によると試合後、ロシア・オリンピック委員会の会長は「かわいそうな子だ」とコメント。何があったのか分からないという状況が招いた混乱は“批判や怒りの渦”と同時に“戸惑い”も生み、15歳が背負うには、あまりに大きいものとなりました。英国BBCは『近年のスポーツの記憶の中で、最も不快で不愉快な瞬間のひとつとなった』と報じています。