ワリエワ選手「出場可能」も"結論"持ち越し…CAS仲裁人が解説
ドーピング問題で金メダル大本命の出場が注目される中、CAS=スポーツ仲裁裁判所は14日、翌日のフィギュアスケート女子シングルへの出場は可能とする裁定を出しました。しかし今後の展開次第ではメダルはく奪もあると言います。専門家に聞きました。
■16歳未満の「ダメージ」考慮
CASは14日、ロシアオリンピック委員会のカミラ・ワリエワ選手の選手資格の暫定停止処分解除について、IOC=国際オリンピック委員会などの訴えを退け、個人戦への出場は可能とする裁定を下しました。その理由について「16歳未満の選手は保護監督下にあること」と指摘。「今大会に出場できないとなれば取り返しのつかないダメージを選手に与える」と説明しました。
また「五輪期間中の検査では陽性と認められなかった」「検査の遅れは彼女の責任ではない」ことも、判断の理由にあげました。しかしなぜ禁止物質が体内から出たのかについては依然不透明です。CAS仲裁人として東京五輪でも活躍し、日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長である早川吉尚氏に、判断のワケと今後の展開を聞きました。
Q裁定を聞いてどう思いましたか
まずどちらの判断にも転ぶ可能性があるなか、どう規定を解釈したのか気になりました。というのも「特定物質以外は(選手資格の)暫定停止処分は義務的に課される」という規定があります。今回検出されたトリメタジジンは、特定物質(よくあるものと特定されたもの)以外の非特定物質で、効果や非日常性から悪質性が高いとされ、資格停止期間は4年と重くなるものです。
しかし一方で「16歳未満は保護されるべき」との規定もあります。どちらを守るのか。ハッキリとは書いていません。つまり「アンチ・ドーピングの徹底」と「16歳未満は保護されるべき」という両方があるのです。結果としてアスリートのことを重んじた部分は感じました。
検査結果が遅れたことの責任は彼女にありませんし、五輪期間中の結果判明によるショック、そしてここまで練習してきたことも考慮されたでしょう。ある意味、犠牲者であるという観点です。
■今後の調査でメダルはく奪も
今後、シロかクロか次第ではメダルはく奪もありえます。今回は、16歳未満ということも考慮して、シロだった場合に「出場したら金メダルだったのに」となるよりは、という判断だと思います。
今回はあくまで暫定資格停止の取り消しの判断が妥当かどうかを判断しただけで、ワリエワ選手がシロかクロかを判定したわけではありません。なぜ禁止物質が体内にあったのかは不明のままです。
Qこのあとどうなるのでしょうか
禁止物質が検出されたのはロシア国内の大会でのことですし、このあとロシアのドーピング機構が詳細を調べる義務があります。その結果次第でワリエワ選手がシロかクロかを判断して、そのときにメダルをどうするのかも判断することになります。
Qどのくらい時間かかるものですか?
ルール上は「迅速に」とされています。通常なら1か月などですが、関係者が多かったり、スウェーデンのストックホルムの機関で何があったか次第でかかる時間は変わります。
Q検体が出たサンクトペテルブルクからストックホルムの研究機関に届くまでに時間がかかったとする情報もロシアの一部報道にありますが、どう思いますか?
今回はストックホルムの研究機関で陽性者が出たためとしていたので、そうなると理由が違うのかなという印象はあります。検疫のことも気になりますが、いったい何が起きたのか、そこも調査が必要になります。
Qロシアの機関の調査の信頼性は?
そのためにCASがあります。ロシアのドーピング機関の調査結果に異議がある場合はCASに上訴するということになります。
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検査結果の判明まで6週間以上とされる「異例の長さ」そして五輪期間中に結果が出たことで試合直前にヒアリングに参加するなど、ほんろうされた15歳のワリエワ選手。個人戦出場はかないましたが、なぜ禁止物質が検出されたのか、なにがあったのか…その答えは、持ち越しとなりました。