トランスジェンダー選手 当事者どう見た?
2日、トランスジェンダー女性として初めて五輪に出場した重量挙げのローレル・ハッバード選手。自身もトランスジェンダー当事者で、フェンシング選手でもあったJOC理事・杉山文野さんは、どのように感じているのでしょうか。
──ローレル・ハッバード選手がトランスジェンダーを公表し自分の性自認カテゴリで初めて五輪に出場します。
一当事者のアスリートとしては大変喜ばしいことだと思っています。自分が現役の選手だったときには、自分らしくありたい、男性らしくありたいと思えば競技者としての人生はなかったですし、競技者としての人生を選ぼうと思えば自分らしくあれなかった。両立して競技を続ける、自分らしく競技を続ける道が開かれたことはすごく喜ばしい。
──トランスジェンダー選手をめぐるスポーツ界の現状は。
一番大事なポイントは、オリンピック憲章にもあるように、あらゆる差別の禁止、すべての人にスポーツの機会が確保されなければいけないという大前提。その中では、ある一定の属性の人だけが排除されるようなことはあってはなりません。
一方で、競技における公平性が本当にこれでいいのかという議論があるのは現実かなと思います。これはきのうきょうの議論ではなく、IOCも規定を決めるのに何十年もかけてきたので、決めたルールをより合理的によりみんなが納得できる形にアップデートしていこうというような建設的な批判はあっていいと思います。
──トランスジェンダー選手の公平性の議論については?
スポーツ界でも社会でもあらゆる不公平があるんですよね。例えば、お金をかけて最新設備でトレーニングしている選手とシューズを買うのもままならないような貧しい環境でスポーツをやってる選手が本当に公平なのか。
他にも、体重別はあるけど身長別はないわけですよね。身体的な構成をいうのであれば、例えば身長2mの女性がバレーボールやバスケットボールで活躍すれば生まれ持ったギフトだよね、と言われるのに、生まれながらに女性であるけれどもテストステロン値が高い時に、それだけが不公平なんじゃないかという目を向けられてしまう。様々なことがあるにもかかわらず、性別のところだけが話題になってしまうということがそもそも不公平なんじゃないかなと思います。
どれだけ社会においてトランス女性が不公平な立場を強いられているか、それもしっかり議論してほしいなと思う。
──トランスジェンダー選手を取り巻く環境の今後の展望は。
私が望んでいるのは、こういうことをきっかけに建設的な議論を進めて、誰もが排除されないようなスポーツ界をつくっていくべきだと思っているんですけど、なかなか理解が追いついていないのが現状じゃないかと思います。
特に日本ではトランスジェンダーの議論というのはほぼされていないので、ここからがスタートなんですよね。
特に今は、トランスジェンダー女性に関するヘイトが特にネットで広がっていて、非常に問題だと思っています。少なくともIOCのルールをちゃんと守って出場されるハッバード選手に対して卑怯なんじゃないか、ずるいんじゃないかといった目を向けることは絶対あってはならないと思います。このルールをもっとこうしたらいいんじゃないかという批判はいいですけど、個人に対する批判というのはあってはならない。
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2日午後8時頃から行われた競技で、ハッバード選手はスナッチで3回失敗し、記録なしの結果に終わりました。
写真:ロイター/アフロ