×

【解説】ドーピング問題…「ワリエワの言い訳」は典型的パターン?

2022年2月16日 22:12
【解説】ドーピング問題…「ワリエワの言い訳」は典型的パターン?

開催中の北京オリンピックで、ロシアオリンピック委員会(ROC)のワリエワ選手のドーピング問題が続いています。こうした中、始まったフィギュア女子個人の競技ですが、他の選手たちにも影響が出ています。

■歓声の中ワリエワ選手登場…ROC関係者が盛り上げ?

15日のショートプログラムでは、会場に歓声が響き渡る中、15歳のカミラ・ワリエワ選手が登場しました。

冒頭のトリプルアクセルでは着氷が乱れましたが、その後の連続ジャンプは成功させ、ショートで1位となりました。演技直後には、涙をみせました。

2位に入ったのは、ROC、17歳のアンナ・シェルバコワ選手。3位には日本のエース、坂本花織選手が入っています。

現地で取材していた日本テレビ「news every.」のディレクターからの情報によると、ワリエワ選手の演技の時にものすごい歓声が上がっていたのですが、これらはROC側のチームや関係者、メディアからのもので、ROC関係者以外のその他大勢は冷ややかなムードだったということです。

■「正しいことなの?」ワリエワ選手3位以内なら“表彰式なし”

ワリエワ選手が北京オリンピックへの出場が認められたことによって、他の選手たちにも影響が出ています。

17日のフリープログラムに出場する選手は、通常ショートプログラム24位以内の選手と決まっています。ところが、今回は、25位のフィンランドの選手もフリーに出場することになりました。

これは、「公平性」の観点からワリエワ選手が24位以内に入った場合は、25位の選手もフリーに進ませるということになったためです。

さらに、もしワリエワ選手が最終的に3位以内に入った場合、「フラワーセレモニー」や「メダル授与式」は行われません。先に行われた団体のメダル授与式も行われないままになっています。

これはIOC(=国際オリンピック委員会)が決めたことですが、他の選手たちは3位以内に入っても、この北京オリンピックの舞台ではメダルを受け取れないということになります。

選手たちにとって大切な場が失われることになり、メダリストも怒りをあらわにしています。

平昌オリンピック・フィギュア団体の金メダリスト、カナダのメーガン・デュハメルさんは、ツイッターで「もし坂本花織選手があす、上位3人になったとしたら、彼女は北京で2つのメダルを獲得するけど、ROCの行動によりメダル授与式が全く行われない。これは正しいことなの?」と、巻き込まれた日本やアメリカなど他の選手がかわいそうだと怒っています。

実際、ショートで上位に入った選手たちからも戸惑いの声が上がっています。ショート後の会見では、選手たちにワリエワ選手について問う場面がありました。

ROC アンナ・シェルバコワ選手(17)
「このことについては話しません」

坂本花織選手(21)
「ん~なんだろう…。一瞬、『いろいろ、どうなるんだろう』と考えたりしていたんですけど、それを考えるより、まず先に自分がこの舞台でいかにベストをつくせるかを最初に考えたいので、今はほぼ考えずに集中するだけだなと思います」

スケート界では、「ワリエワ選手に配慮することが、結果的に他の選手を罰することになっている」との指摘の声も出ています。

■“シロ”か“クロ”か 「心臓の薬間違えて飲んだ」説明も

ここで、このドーピング問題について、整理します。

ワリエワ選手は、今回の北京オリンピックへの出場は認められましたが、ドーピング問題については「シロ」なのか「クロ」なのか、「違反なし」なのか「違反あり」か、結論は全く出ていません。

変わらない事実は、去年12月に行われた大会で、「彼女の検体から禁止薬物が検出された」ということです。これに関して、さまざまな発言や報道が入ってきました。

ロイター通信は、「13日に行われた聴取の中で、ワリエワ選手は『祖父の心臓の薬を間違えて飲んだ』という趣旨の説明をした」と報じました。

また、スペイン紙のマルカは「ワリエワの言い訳」という見出しで「母親と弁護士は、ワリエワ選手がクリスマスに祖父と『同じグラス』で飲み物をシェアしたことが要因の可能性がある」と主張していると報じました。

■「ワリエワの言い訳」は典型的パターン?

こうした説明は受け入れられるものなのか、スポーツ仲裁裁判所で仲裁人を務める、日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長の早川吉尚さんに伺いました。

2006年に同じような理由で「シロ」と認められたケースがあったため、それ以降、同じような説明をする選手が結構いるということです。

早川さんは「言い方が悪いが『典型的なパターン』で、眉につばをつけて見ざるを得ない面もあり、ワリエワ選手側には『証明』が求められるが、簡単ではない」と言いました。

また、15歳という年齢は考慮されるものの、「大人なら自分が飲むものについての責任は問われる」といいます。

そして、「もしうそなら、誰がこんなうそをつかせたのか。最終的に周りの人が責任を問われることがありうる」と話していました。

■荒川静香さん「風邪薬ですら使用する場合には細心の注意」

トリノオリンピック金メダリストの荒川静香さんは、「選手は子供の頃からドーピング違反をしないよう気をつけている」と話しています。

さらに、次のように指摘しています。

荒川静香さんのコメント
「どのような経緯であれ、ドーピング検査で禁止薬物が検出された時点で、記録取り消しや以後の競技に出場できない期間が発生するというのがルール。だからこそ、アスリートはドーピング検査の目的や、 禁止薬物と関わらないよう、競技生活の中で注意すべきことなど、 競技と健全に向き合っていくために、厳しい教育を受けている。 トップアスリートは抜き打ちでの検査も行われるため、日頃から食べ物、 飲み物に薬物が混入していないか、口にする物には注意するよう徹底し、 痛み止めや風邪薬ですら、使用する場合には細かく専門の医師に成分など確認してもらってから服用するなど、細心の注意を払っている。今、このオリンピックで混乱している要因として、オリンピック期間に入ってから2か月前の検査結果が届き、その調査が間に合っていないことで、ワリエワ選手の出場が継続されていること、それにより他の選手への影響が出てきていることにあると思う」

    ◇

まだ、15歳の少女がドーピングに巻き込まれる事態は、決して健康的ではありません。彼女の選手生命や健康、他の選手たちがこうむる影響も心配です。今後こうしたことが繰り返されないよう、周囲の大人たちがしっかりと説明責任を果たして、再発防止策を講じて欲しいです。

(2022年2月16日午後4時半ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)